第223話 バーラトリンデのリモート会議

 コルティオール。

 ペコペコ大陸の沿岸部。宇宙要塞・ラブラブベザルでは。


「リュック。リュックさん。起きてくれないかな?」

「は? ちょ、なんなん? は? 普通さ、17歳の女子が寝てるとこ、体揺すって起こすとかある? ゴンツさ、おっさんじゃん。キモ過ぎんだけど」


「いや。だって、そろそろリモート会議の時間だったから。それに私、まだ39歳なんだけど」

「まだって何だよ、おっさん。厚かましいな。せめて29で言えよ。そしたら、私だって10代からみたら29はおっさんだろ、とか言えんじゃん。39はもう、ガチでおっさんだろ。純然たるおっさんが、まだとか言うんじゃねーよ。ハゲ」


「ハゲてはいないよ!!」

「いや! ゴンツ、髪がねーじゃん!! あんたそもそもスキンヘッドじゃん!! そーゆうさ、寒いギャグを臆面もなく言ってくるとこがおっさんなんだよ、マジで」


 エメラルドのリュックさん。17歳。

 未だにイライラしておられるご様子。


 だが、ダイヤモンドの硬さを持つゴンツの心に傷はつかない。

 メンタル最強チームの春日家とはいささか種類は違えども、精神の異常な打たれ強さは立派な武器である。


『うけけっ。こちらバーラトリンデ本星でゲス。ゴンツ。リュック。そっちはどうでゲスか? 願わくば、2人が健康で楽しく過ごしている事と、世界が今日も全ての生き物に優しい事を。サファイアのポンモニでゲス』


 こちら、心が清らか過ぎるポンモニさん。

 最近はプランター栽培で二十日大根を育てており、毎日成長日記を付けている。


「はー。またうぜーのが出たよ。ねー。私、いらなくない? 2人でやってよ。リモート会議」

「そういう訳にはいかないよ。……ああ! げはははははっ!! こちらは当初の目的である要塞の着陸は果たしたザンスよ!! げはははっ、げっほごっほ!!」


「ゴンツさ。思い出して慌てて作るようなキャラってさ、それいる? 誰向けのサービスよ。どこ向けの需要なん? やー。ないわ。マジでない。おっさんのノリ、きっつい」

『うけけけっ! リュック! カメラの位置的にスカートの中モロ見えでゲス! もっと自分を大切にして欲しいでゲス!! 思春期の女子としての自覚をして欲しいでゲス! リュックは可愛いから、無防備なのは良くないでゲスよ!!』


「見せパンだっつーの。なんでお前らにガチのパンツ見せなきゃなんないんだよ。身の程を弁えろよ、おっさんコンビ」

『うけけっ! アタシ、まだ26歳でゲスよ!!』



「あー! もうさぁ!! そのやり取りさっきこっちで消化してんの!! しかも、ガチでリアクションしにくい年齢出してくるなよ!! 26はまだお兄さんだろ!! バカ!!」

『うけけけっ! リュックはやっぱり優しい子でゲス! 相手を慮れるその心、いつまでも大事にして欲しいでゲスよ』



 リモート会議と言う名の雑談が繰り広げられるラブラブベザルの中。

 上司がいないリモート会議では、稀にだがこのような現象が起きる。


 もちろん、記録を録っている場合が大半ではあるが、責任者の先輩社員が適当な性格だったケースなどでは、記録を放棄しだべって終わると言うパターンもあり得る。

 リモートは便利だが、良い面もあれば悪い面もあるのだ。


『楽しそうですね。私の忠実なる輝石三神』



 そして、このように急な上司の登場により場が凍り付くのもリモート会議あるある。



「げははははっ! これは創始者様!! ご機嫌麗しゅうげっほげほヴォエ!!」

『私は言いましたよね? ゴンツ。そのキャラ付けはここぞと言う時だけにしなさいと』


「げはははははっ!! ヴォエ!!」

『あなたのここぞのタイミングの当たり判定が私には未だに分かりません。とりあえず、不快なのでヤメなさい』


 コルティ様登場。

 ようやく会議が始まるようである。


 もう、尺を半分消化しているのだが。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「つーことで、とりあえずコルティオールの軍勢はボコッときました。雑魚ばっかで張り合いがなさ過ぎでしたー。まる」

『さすがですね。リュック。あなたは性格がまだ未熟ですが、その実力は私に匹敵する有望な戦士です。あなたがいれば、コルティオールの植民地化は済んだも同然。ふっふっふ』


 リュックさん。嘘はいけない。


 ゴンツが無言で先日の戦闘データを本星に送信した。

 ポンモニが受信して、全ての端末で共有する。


 リュックさんがピンクの亀に襲われて泣き叫んでいるシーンが、リピート再生され始めた。


「ちょ! おい! ヤメろ! マジで!! 私に無許可でなに流してんだよ!! うああああ!! マジで! ヤメてよぉ! ガチ泣きしてる自分見せられるとか、なにこの羞恥プレイ! かなりキクんだけど!! ヤメてよぉー!!」



『あの。リュック? この魔力値がゴミみたいな亀に、どうしてあなたは泣かされているのですか?』

「う、うっせぇし!! んなもん、察しろよ!! コルティ様!!」



 生みの親にも逆らうのが反抗期の少女。

 なお、コルティさんもちょっとキレる。


『あ、あなた! おヤメなさい!! 私をコルティと呼んで良いのは、ベザルオール様だけなのですよ!! と言うか、通信を傍受されていたらどうするのですか!!』

「つか、そもそも通信傍受されんなよ!! 科学の星だろ! バーラトリンデ!! しかもそれ、私が恥ずかしい動画晒されて一番ダメージ受けるヤツじゃん!! つかさ、創始者ってダサいんだけど! なんだよ、それ。船場吉兆かよ!!」


『だ、誰が女将ですか!? ちょっと、リュック! 私に対して年齢ネタでディスって来るのはヤメなさい!!』

「うっせー!! コルティ様は本星でぬくぬくしてんだから、文句言うなっての!! こっちは適当に敵を絶滅させとくから!! それでいいでしょ!!」


 母娘喧嘩で終わってしまったリモート会議。

 円滑で効率の良い会議のためには、まず優秀な進行役を立てるのが定石らしい。


 「経済新聞のコラムに書いてあったでゲス」とのちにポンモニは語った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃。

 ニートとギャルのカップルが普通にペコペコ大陸に上陸していた。


 輝石三神の2人には気取られていない。


 リモート会議の最中にやって来たと言う幸運もあったが、鉄人の魔封じの魔法の効果が非常に有効であった。

 バーラトリンデは基本的にコルティオールの軍勢を魔力反応で認識している。


 そもそも魔力を抑えるには相当な技量が必要なので、それが出来るのはベザルオール様クラスの達人に限られるからである。

 なお、岡本さんは自身の空間を隔絶するので、魔力を感知されない。

 黒助に至っては魔力がないため、常にステルスモードと言う恐怖。


 この三強に加えて、4人目の達人に名乗りを上げるのがこのニート。

 多彩な魔法を身に着けた彼は、それらを最も効果的に扱う術について日々研究していた。


 ニートには時間がある。

 その時間を有効活用すれば、ニートの成長は他のどの職業よりも早い。


 仕事をしていないと言う前提を舐めてはいけない。


「さてさて! じゃあね、とりあえず! この要塞の壁でも削って持って帰ろうかな!!」

「おおー! さすが鉄人だし! まず材質から調べるとか! ちょー頭いいし!!」


 ニートとギャルのスパイ大作戦。

 スタートである。

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