第221話 大魔王・ベザルオール様、スパチャのためにクレジットカードをお作りになられる

 バーラトリンデからやって来た、宇宙要塞・ラブラブベザル。

 魔王城の通信指令室では常に監視を怠っていないが、未だに動きは見られず。


 そんな中、全知全能の大魔王ベザルオール様が先に動いた。


「くっくっく。現世の賢者、ニートを統べる者。春日鉄人よ。余の召喚に応じてよく来てくれた。ファンタ飲む?」

「僕とベザルオール様の仲じゃないですか! 遠慮はなしなし! あ、じゃあメロンソーダ貰っても良いですか?」


「くっくっく。やはり賢者よ。数あるファンタの中から敢えてのチョイス。さすがの慧眼である。暑いと美味しいよね。メロンソーダ」

「あ、そうそう! 僕もね、お土産持って来たんですよ! はい、これ! たこ焼きです! 冷凍食品なんですけど、最近のヤツって美味しいんです! 前に冷凍のたい焼きに感動したってラインくれたじゃないですか! こっちも是非試してみてください! ベザルオール様の好きな炭酸ジュースと合いますよ!!」


 魔王城の謁見の間には、電子レンジも完備されている。

 最近は「くっくっく。冷凍のたい焼きをカリッとさせたい」と言う事で、オーブントースターも購入した。


「くっくっく。鉄人よ。卿を呼んだのは他でもない。余に匹敵するその知識の泉の叡智を借りたい」

「あらー! ベザルオール様が! 珍しい!! 僕でお役に立てるかな?」


 ベザルオール様は赤裸々に語った。

 最近、YouTubeの動画配信にドはまりしている事実。

 そして、これまではたまに考察動画を見るくらいでYouTubeには熱心でなかったため、知識がまだ不足していると認めたうえで、賢人の知恵を借りたいと。


「くっくっく。鉄人よ。スーパーチャットってなんぞ?」

「ああ、それはですね! んー。なんて言いましょうか。例えば、路上でギター弾いてる人に聞き惚れたら、ちょっとおひねりあげたくなるじゃないですか」


「くっくっく。よくわかる」

「それのYouTube版みたいな感じで! 応援したい配信者さんにですね、金銭的な支援をするみたいなシステムです。チャット欄で自分の投稿したメッセージを目立たせるのが一番目的って事になってますね」


「くっくっく。つまり、推しに認識してもらいやすくなると? 卿はそう言うのであるな?」

「そうですね! やっぱり、ほら! 配信する側も人間ですから! 富豪でもない限りは、ちょっと投げ銭してくれるファンの人には好印象を抱きがちになるんですよ! 僕も配信してて投げ銭貰えると、やっぱり気分アガりますし、お名前を覚えちゃいますよねー!!」


 ベザルオール様は大きく頷かれた。

 分かりみが深かったらしい。


「くっくっく。よかろう。そのスーパーチャットとやら。この全知全能の大魔王。余も参加しようではないか。推しを応援できるシステム。感服した。して、手続きはいかに?」

「クレジットカード決済が基本なんで、まずはカード情報をですね! ……あれ?」


 とんでもない事に気付いた2人の賢者。



「ベザルオール様、クレカって持ってます?」

「くっくっく。持ってない」



 今回、ベザルオール様はクレジットカードをお作りになられます。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 これまで、サブスクリプションやネット通販の支払いは全てコンビニ決済を利用して来たベザルオール様。

 それで特に不便はなかったため、クレジットカードを持つと言う発想がなかった。


 だが、鉄人からクレジットカードの利点について学んだ全知全能の大魔王は、「くっくっく。何それ。超便利じゃん」と感服される。


「くっくっく。では、余も作るとしよう。クレジットカードを」

「今はネットで申込できますからね! お手伝いさせて頂きます!!」


 ベザルオール様は主にスマホを愛用されているが、パソコンもちゃんと謁見の間に設置されている。

 ただ、玉座に腰掛けてネットをしたいベザルオール様はあまり触れることがない。


 もっぱら利用するのはアルゴムであり、彼はブログの更新のため毎日起動させている。


「とりあえず、申込者の情報を打ち込みましょうか!」

「くっくっく。……住所。コルティオール。ゾンバル山脈三丁目。魔王城。くっくっく。……職業。大魔王。……勤務先。魔王農場。……役職。大魔王(代表取締役社長)。……家族構成。独身。……住まいの情報。持ち家。くっくっく」


 ベザルオール様は全ての情報を入力した。

 そして、「次へ」のボタンをクリックする。



「くっくっく。鉄人よ。凄まじい勢いでエラーを吐き出しおったのだが」

「そうですね。僕も途中から、あ、これは弾かれるなって思ってました」



 そもそも、住所の時点で現世には実在しないのだから当然のようにエラーが出る。

 職業、大魔王とは。自営業なのか。自由業なのか。


 哀しい事に、コルティオールを統べる大魔王であっても、現世のクレジットカードは作れない。

 そもそも審査すら受けられない。


 目に見えてしょんぼりするベザルオール様。

 彼は鉄人に尋ねた。


「くっくっく。鉄人よ。卿はクレジットカードを持っておるのか」

「いえ! だって僕、ニートですからね! 収入がないので、待遇の良いカードは審査で落とされます! まあ作れない事もないんですけど、色々とリスキーなので!」


「くっくっく。では、卿もクレジットカードを使わずに生活しておるのか」

「ああ、いえいえ! 兄貴の名義のカードを持ってますよ! ちゃんと許可をもらって使わせてもらってます!!」


 ベザルオール様は「くっくっく。なるほど」と頷いた後に、端的な感想を述べられた。



「くっくっく。なにそれ、ズルい」

「すみません! あ、良いこと思いつきましたよ! ちょっと待ってくださいね!!」



 鉄人はスマホを取り出した。

 電話の相手はいつもの黒いスーツの男。


「もしもし! 鬼窪さん、今って平気ですか? あ、良かった! あのですね、ベザルオール様がクレカ作りたいんですけど、どう足掻いても審査通らないんですよ! で、鬼窪さんのところってちょっと前まで反社会的勢力だったじゃないですか! 名義貸してもらえません?」


 春日鉄人、グレーゾーンにも迷わず飛び込む。

 「ニートは攻めの気持ちを失ったら終わり」とは、彼の金言の1つである。


「あっ! 本当ですか!! 助かります!! 支払いは大丈夫です! でも、よく考えたら銀行口座がないかー。えっ? そっちの名義も貸してもらえるんですか!? うわぁ、さすがだなぁ!! じゃあ、お願いします! はい、はい! はーい!! 失礼しまーす!!」


 電話を終えた鉄人はにっこりと微笑んで、友人であり敬愛する大魔王に告げた。


「ベザルオール様! 何とかなりました! なんか昼過ぎにはカードを鬼窪さんが持って来てくれるらしいです!! すごいなぁ、元反社の人脈って!!」

「くっくっく。卿、あまりにも有能が過ぎるな。もういっそ、魔王軍の最高幹部としてうちに迎えたい。能力、人脈、交渉力、発想力。どれをとっても一級品とか、卿。チートが過ぎるのでは」


 鉄人は「やだなぁ!」と笑ってから、誰もが納得する言葉で締めくくる。


「兄貴に比べたら、僕なんてハナクソみたいなものですよ!!」

「くっくっく。黒助と比較すれば、余は湿った耳くそになる。そして卿は例えハナクソであっても、純金製のハナクソである」


 ベザルオール様、これからは推し活が更に捗りますな。

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