第219話 亀にうんざりした皆様へ送る! イルノとウリネと春日未美香の街遊び!!

 予告通り休暇を取得した水の精霊・イルノさん。

 暇そうだった土の精霊・ウリネさんを誘って、現世にストレス発散の旅に出る。


「こっちはどう!? イルノって脚が綺麗だからさ! ホットパンツ!!」

「ミアリス様ぁー。これ、お尻がはみ出すどころじゃないですぅー。下着もチラ見せどころかモロ見せですぅー」


「そ、それがいいんじゃない!!」

「何もいいことないですぅー。ミアリス様はどんどん露出度が高くなっているですぅー。別に構わないですけど、イルノにまで押し付けるのはヤメ欲しいですぅー」


 給料の全てを勝負下着と勝負服の購入につぎ込んでいるミアリス様。

 彼女は柚葉と未美香の「大事な人と過ごす時の服は自分で買わなきゃ!!」と言う心意気に感銘を受け、創造による雑誌からのデジタル万引き行為からは足を洗って久しい。


 その結果、母屋の衣装部屋は拡大を続け、いつの間にか四大精霊たちがお出かけする時にもそこから服を借りるのが慣例化していた。


 なお、ミアリス様がスタイリストとして参加して来ると言うペナルティはある。


「ボクねー! こっちのフリフリのスカートにするー!! これ可愛いよねー!!」

「ウリネさんは何を着ても可愛いですぅー。こっちのリボンのついたヤツも良いと思うですぅー」



「え゛っ!? ウリネ? わたしが推したこっちの、股下5センチのミニスカートは?」

「ミアリス様ぁー。それはもうスカートじゃないですぅー。ただの腰布ですぅー。ウリネさんにまでなんて恰好させるつもりなんですぅー?」



 なんだかもう、遠い所へ行ってしまったミアリス様。

 その後、「じゃあせめて! 下着だけでも選ばらせて!! わたしのコレクション披露したいから!!」と必死に太ももにすがりついて来る自分の上司をジト目で眺めたイルノさん。


 結局、ショートパンツにフワフワのトップスと言う可愛いコーディネートに落ち着いた。

 なお、下着は押し切られた模様。


 それから、イルノとウリネは手を繋いで転移装置の向こうへと消えて行った。

 既に楽しそうな表情は、最近の日課であるミアリスの補佐の激務を物語っていたとか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 春日家では、未美香が待ちかねていた。


「ミミっちー! 来たー!!」

「わぁー! いらっしゃい、ウリネさん! イルノさんも!! 2人とも、服可愛い!!」


「今日はお世話になりますですぅー。未美香さん、貴重なお休みをイルノたちに使っちゃって良かったですぅー?」

「当然だよっ! 2人ともあたしの大事なお友達だもん!!」



「未美香さん……。明日から、コルティオールの女神をする気はないですぅー?」

「うぇぇ!? ミアリスさんは!? あ、あれ? 何かあったの!?」



 何も答えないイルノ。

 未美香も何かを察したようで、その話題には触れない事にした。


「え、えと! 今日はね、街に出かけよっかなって! 2人とも、ゲームセンターとか行ったことないでしょ?」

「あー! ボクね、それ知ってるー!! いっぱい遊べるとこだー!!」


「あははっ! そうだよ! 楽しいよー!!」

「イルノは既に泣きそうですぅー。もう、コルティオールに帰りたくなくなってきたですぅー」


 未美香が「じゃあ、行こー! まずは電車だよっ!!」と言って、出発した。

 なお、美少女が3人でゲームセンターは危険フラグ。10割ナンパされる。


 よって、お兄様による鉄壁のガードが既に構築されていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 春日大農場では。

 スマホが震えたので、取り出した黒助。


「ああ。俺だ。そうか。では、3人に気付かれんようにな。せっかく女子だけの楽しい1日に俺やお前のような無頼漢が紛れ込むのは無粋だ。任せたぞ」

『へい!! 命に代えても嬢ちゃんたちの安全はワシが守りますけぇ!! 兄ぃ! 場合によっちゃあ、ハジキ使つこうてもええですか!?』



「ああ。やむを得ん場合は躊躇なく使え」


 使わないでください。



 万全の乙女防衛システムは既に稼働しており、感度も良好。

 誰なのかは分からないが、裏の社会にも精通しており、最近は表の社会での活躍が評価されている黒いスーツの男が気配を消して、穢れなき少女たちの護衛を務める。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 やって来たのは、ラウンドワン。

 ゲームセンターが減っていく令和のご時世において、未だ勢いの残るこの施設。


 中に入ればゲームにボーリングからカラオケにスポーツまで、割と何でもできる夢の世界。

 また、リア充の巣窟として一時代を築いたこともあり、かつてはラウンドワン童貞が迫害の対象になったとも伝えられているが、真意の程は定かではない。


「すごーい!! なんかいっぱいあるー!! あははー! チカチカしてるー!!」

「えへへっ! すごいでしょー? あたしも部活があるからあんまり来れないんだけどさ! プリントシール撮ったり、クレーンゲームしたりするんだよ!! この間もね、後輩のアキラちゃんとシール撮ったんだ! なんかね、今は服をギリギリまで着崩してセクシーなの撮るのが流行りなんだって!!」



 アキラちゃんの良くないハッスルが露見する。

 のちにこの情報を得た黒助の中では、妹の後輩が要注意人物リストのランクを上げたと言う。



「本当にコルティオールとは別世界ですぅー。なんだかクラクラしちゃうですぅー」


 ちょっと足元がおぼつかなくなったイルノさん、よろける。

 そこには金髪のやたらと胸元が開いたシャツを着た男がいた。


「おっと! 大丈夫? お姉さん!」

「ごめんなさいですぅー」


「ひゅー! 可愛いね! なに? 友達と来てんの? オレもさー! 友達と来てんの!! どう? 一緒に遊ばね?」

「あ、それは大丈夫ですぅー。ご親切にどうもですぅー」


 イルノは最近、人のあしらい方に淀みがなくなった。

 ナンパだって意に介さない。


「ちっ! なんだぁ? お高くとまりやがって!! ……へへっ。おい、お前ら! 上玉の女がいたからよぉ! ちょっと集まあひゅん」

「ちぃと目ぇ離したらこれじゃあ。ほんまに、嬢ちゃんたちは可憐な花じゃのぉ。悪ぃ虫がようけ寄って来よるわ」


 誰だか分からないが、黒いスーツの人にキュッと締められたナンパさん。

 穢れなき乙女たちに目を付けた時点で彼の運命は決まっていたのである。


「じゃあね、まずはみんなでぬいぐるみゲットしよっか! 今日の記念に!!」

「わー! ボク、やりたいやりたーい!! あのメカ動かすんでしょー!!」

「これが女子のあるべき街遊びですぅー。イルノは今、幸せですぅー」


 その後、クレーンゲームに苦戦する乙女たち。

 だが、不思議な事に程なくして汗と涙を流した店員が「こ、こちら! サービス台ですので!! ちょっと場所を移動させます!! させてください!!」と、ほぼ落下口の真上にぬいぐるみを陳列し直した。


 どうしてそんなことになったのかは分からないが、3人で色違いのぬいぐるみをゲットした乙女たちの街遊びは、大変素晴らしい思い出として幕を閉じたと言う。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 春日大農場では。

 やっぱり黒助がスマホで通話していた。


「ああ。俺だ。そうか。それで? うむ。なるほどな。無事に帰ったか。楽しそうだったか? そうか。ご苦労だった。明日にでも、メロンをお前のとこの事務所に持って行かせよう。組員で食ってくれ。ああ、じゃあな。また頼む」


 コルティオールと現世。どちらも今日は平和であった。

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