第216話 気まぐれ女子のリュックさん、牙を剥く ~とりあえず全方位に向けて~

 力の邪神・メゾルバ。

 右腕に続き、左腕も失う。


「くはははっ。よもやこれほどまでとは……。我もここまでか……」

「あの、メゾルバ様。よろしいですか?」


「なんだ。亀。別れの言葉か?」

「いえ。私の記憶が確かならば、あなた肉体を再生できませんでしたっけ? 腕とか生やしておられた記憶が……」


 しばしの沈黙の後で、メゾルバは両腕の付け根に魔力を集約させた。


「っずぁぁぁ!! ……くははっ。我の肉体は魔力が尽きぬ限り不変よ」

「ああ、知ってた体で進行なさるのですね。了解しました」


 とはいえ、メゾルバの再生は魔力を膨大な量消費する。

 現状、この邪神は弾よけにすらなれない戦力外が確定した。


「ガイル様。これは思っていた以上に厄介です。魔力を発現するとドローンに攻撃されます。しかも、当たり判定が相当シビアですよ。見てください。両腕を生やしたばかりのメゾルバ殿が、その魔力を感知されてドローンに囲まれています」

「うむ。我々は咄嗟に魔力を消したから今のところは感知されていないのだが。これでは攻撃も退却もできないのだよ。私や君の魔力ならばドローンを落とす事は可能だが、果たしてこれが敵の現有戦力の全てなのか。……そう楽観視できるほど私は前向きではないのだよ」


 ガイルの推察は当たっていた。

 リュックの操る『自律型爆撃機バーラトドローン』は、彼女が鉱石から生み出した兵器。

 つまり、大雑把に言ってしまえばリュックが健在である状態において、際限なく発生し続けると言う状況。


 攻める事もできず、退く事も叶わず。

 かと言って、停滞したままでは再び主砲の餌食となる。


 非常に旗色が悪くなってきたコルティオール軍であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃、宇宙要塞・ラブラブベザルの内部では。


「うっざ。こいつら、魔力消してんだけどー。これじゃ狙い付けらんねーんだけど。もうさ、ドローン引っ込めてもいい? だるいしー。敵は創始者様より賢いっぽいしさー」

「いや、リュックのドローンがけん制になっているからね。それを下げられると、敵に逃げられてしまうよ。それから、創始者様だって賢いよ!」


「はー。マジでだるいわー。ってかさ、ゴンツ。あんたってさ、キャラ付けヤメたらさ」

「うん。なんだい?」


「いや、なんかおっさんみが増して、それはそれでキモいわ。なんかさー。気遣って優しい口調で喋ってる辺りに、パパ活おじさんみがしてんだわ。正直、同じ部屋の空気吸ってんのもだるい」

「これは気付かなかったよ。ごめんね」


「そーゆうとこだって。なんかさー。ミニスカで足組んでるのもあんたに向けたサービスみたいな気がしてきて、ちょっと萎えるんだわー」


 輝石三神の最強格である、エメラルドのリュックさん。

 ワガママ女子高生然とした彼女に気遣いなど存在しない。


 ちなみにダイヤモンドのゴンツさんは文字通りダイヤモンド級のくじけぬ心を持っているため、どれだけぞんざいに扱われても倒れない。

 意外と相性の良いコンビであった。


 そんなリュックが椅子から立ち上がり、スカートを直した。

 続けて彼女はガムを取り出して口に放り込み、「ちょっとさー。私、視認して敵をぶち殺してくるわ。そろそろ動画撮りてーし。コルティオールで踊ってみたってヤツ」と言って、ラブラブベザルの天井にある出入口から外へ出て行った。


「なんだかんだ言って、優しい子なんだよなぁ。よし! 私は主砲でリュックを援護するぞ!! さあ、鉱石兵たち! 全砲門の照準合わせだ!!」

「げはははははっ!!」


 なんだか日常のワンシーンみたいなやり取りで、外にいるコルティオール軍の命運が決まりつつある。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 リュックの出現に感づいたのは、やはりアルゴム。

 彼の情報収集スキルは伊達ではない。


「皆様、あちらを!」


 3人が要塞の天井を見ると、そこには制服姿の女子がいた。

 一瞬面食らうも、魔王軍出向コンビはすぐに気を引き締める。


「幼い見た目で惑わそうと言う魂胆なのかね。感知するまでもなく、凄まじい魔力なのだよ。バーラトリンデの兵は魔力保有量が少ないのではなかったかね?」

「おっしゃる通りです。つまり、彼女は敵の中でもかなり優れた戦士。……いえ、下手をすると上級幹部の可能性もありますね」


 さすが、全知全能の大魔王ベザルオール様と常に過ごしているだけあって、2人の推測は論理的である。

 これには、戦いを見守っておられる上司もご満悦だろう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 とある山脈。

 魔王城。現在のベザルオール様。


「くっくっく。スイーピー、意外と育てにくい。しかし、余はドーベルたんを魔改造して全距離対応させた経歴を持つ、全知全能の大魔王。ベザルオールである。くっくっく。それにしてもこの子、固有が全然出ぬな。でも可愛いから良い」


 ウマ娘にお忙しい様子で、コルティオールの魔力の変異にも気付いていない。

 今回の戦闘で大魔王の参戦は極めて薄くなった模様。


 以上、現場からでした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃、春日大農場では。


「わっ! なにこの魔力!! すごいヤツ来てない!?」


 リュックの存在に気付いたミアリス様。これが若さか。


「ねー! イルノー!! ちょっとさ、ペコペコ大陸の様子映してくれない?」

「ミアリス様だって遠視魔法使えるのに、イルノをわざわざ呼ばないで欲しいですぅー。仕方がないから、命令を聞くですぅー。……てぇやぁ! ですぅー」


 イルノの創り出した水の鏡に、エメラルドのリュックが映された。

 その姿を見たミアリスは、恐怖で持っていた麦茶をこぼす。


「あ、あわわわわわ!! い、イルノ!! これ、ヤバいわよ!!」

「本当にヤバいですぅー。魔力量が鉄人さんやベザルオール様レベルですぅー。すぐに黒助さんにお知らせして来るですぅー」


「まっ、待ってぇ!! それはダメよ!!」

「……引き留めるのにイルノのスカート引っ張らないで欲しいですぅー。下にスパッツ履いてなかったらただじゃ済まさなかったですぅー。それで、黒助さんを呼んじゃダメな理由を聞きたいですぅー」


 ミアリスは極めて深刻な表情で、テーブルの上に手を組んだ。

 碇指令スタイルである。

 そして彼女は重々しい口調で言った。



「……ナマイキ女子高生キャラ。まずいじゃない。ここに来て、新属性よ? 女子高生は未美香と被ってるけど、雰囲気違うし。セルフィも年齢は近いっぽいけど、あっちの敵は髪黒いし。そもそもギャルじゃないし。……黒助ハーレムが増えたらどうすんのよぉ!!」

「コルティオールは早急に新しい女神を選出すべきだと思うですぅー。もう当代の女神様はダメですぅー。腐ってますぅー」



 春日大農場。

 ミアリス様の超法規的措置により、黒助に緊急事態を伝えず。


 よって、戦場の4人の命運がかなり狭まることとなった。

 現場からは異常です。なお、誤字ではありません。

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