第215話 魔王軍幹部コンビVS輝石三神のおっさんと女子高生っぽい少女

 宇宙要塞・ラブラブベザルから放たれたレーザー砲は、一直線にメゾルバとゲラルドを襲った。


「くははっ。久方ぶりにこの技を使う!! 弾けよ!! 『ボンバーマッスル』!!」

「ぐおぉぉぉっ!? 何という衝撃!! メゾルバ様、やったのですか!?」


 力の邪神は自信に満ちた声で「ああ」と返事をした。

 それから続けて状況を報告する。



「くははっ。右腕が吹き飛びおったわ。これはまずいぞ」

「やってなかった……。メゾルバ様。追撃が来そうですが。一度くらい恋人が欲しかった人生でした……」



 もはや力でどうこうできる次元ではないのは確かである。

 科学を力でねじ伏せるには、春日黒助並の理外を用いる必要があり、メゾルバの力はまだ理屈の内に留まるレベル。


 彼もさすがに死を覚悟したと言う。

 だが、黒助に散々殴られても命を落とさなかった男がこのメゾルバ。


 そのフィジカルも要員の1つだが、彼は意外と運が良い。

 今回も幸運な事に、援軍が間に合った。


 飛竜のバリブが空飛ぶ亀のさらに上空へとやって来て、搭乗している者たちが魔力を込める。


「雷よ! 集まり巨大な光となれ!! 『デライド・ブラスト』!!!」

「私の炎は少しばかり熱いのだよ!! 『ドラグライル・インフェルノ』!!!」



 大魔王ベザルオール様の側近コンビ、戦場に馳せ参じる。



 この2人、結構強いのである。

 狂竜将軍・ガイルの放った炎のブレスは要塞砲を相殺し、続けてアルゴムの放った雷撃が宇宙要塞・ラブラブベザルの外壁に穴をあけた。


「くははっ。これは助かる。我が主も粋な事をなさるものである」

「や、やはり黒助様が来援を要請してくださったのですか!!」


 アルゴムが申し訳なさそうに言った。


「いえ。我々はベザルオール様の命を受けてやって参りました」

「黒助様とは未だに連絡が取れぬのだよ。と言うか、春日大農場のモルシモシに何度鳴かせても、誰も出てくれないのだがね。実に悲しいのだよ」


 力の邪神と亀は何となく腑に落ちた。


 「うちってそういうとこあるよね」と、お互いに頷き合ったと言う。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 こちらは宇宙要塞・ラブラブベザルの中。

 予想外の被弾により、外壁に穴が空く緊急事態に見舞われていた。


「これは何と言う想定外でザンスか!! よもや、ラブラブベザルの外装を撃ち抜けるほどの使い手がいるとは!! モニターに出力!! 敵の照会をするでザンス!!」


 ゴンツの対応は早い。

 自分の眷属である鉱石兵に適切な指示を出し、まずは敵の戦力を探る。


「うざっ。つーかさ、ゴンツ。緊急事態っぽいんだったらそのウザい語尾キャラやめたら? ぶっちゃけ滑ってんだけど。はー。くっそださいわー」


 リュックは特に慌てる様子も見せずに、ミニスカートなのに足を組む。

 このさり気ないサービス精神はバーラトリンデの軍勢において実に稀有である。


「では、一時キャラ設定を解除!! おお、情報が出揃った! 見てくれるかい、リュック!!」

「いや。興味ないから。今、アップした動画のチェックしてるからさ、私。……うわー。結構伸びてんだけどさ。コメントキモ過ぎてウケんだけどー。この大魔王とか言うアカ、キモ過ぎ。パンツ見えてますよ、とか言ってんだけど。バカじゃん。見せてんだっつーの。見せパンで興奮するとか童貞かよ」



 ベザルオール様。我々は信じております。他魔王の空似ですな。



 ゴンツは仕方がないので、自分で自分の調べたデータを読み上げる。


「……力の邪神・メゾルバ。黒き盾・ゲラルド。通信指令・アルゴム。狂竜将軍・ガイル。ううむ。創始者様の言っておられた危険人物たちの名はないようだなぁ。確か、春日黒助と岡本とか言ったかな? それと、攻撃禁止対象の大魔王もいないようだ。ならば安心して迎撃できるね!」


 ダイヤモンドのゴンツ。

 彼は輝石三神の中でも最弱。


 戦闘スタイルはコルティオールサイドに当てはめるとメゾルバと酷似しており、基本的には科学兵器とパワーで押しまくるのが勝ちパターン。

 だが、要塞の中にいてはその戦法を発揮することが叶わない。


「リュック。お願いがあるのだけど」

「いや、無理。私、今日はもう働かないって決めてんの。ダンス動画二本も撮ったし。ちょっと太もも痛いんだわ。見てこれ、パンパンに張ってんでしょ。……なにマジで見てんの? キモッ」


 反抗期の女子高生にしか見えないエメラルドのリュック。

 彼女は輝石三神の中で最強。


 力を行使しても良し。魔力を行使しても良し。

 科学兵器もほとんど全てを一定水準以上に使いこなせる器用さも持ち合わせており、オマケにノースリーブにミニスカートと最近コルティオールの乙女たちに足りない程よく爽やかなサービス精神も旺盛。


 コルティオールの乙女たちは度を越してから久しい。


「頼むよ。欲しいものリストに載ってたシュシュを買ってあげるから」

「は? あんた、私をフォローしてんの? やー。マジでキモいっす。……で? いくつ買ってくれんの?」


「2つ!」

「は?」


「……4つ!!」

「はー。まあそれで勘弁してあげるわ。ベロアとサテン2個ずつね。ラメ入ってるヤツと、ボーダーはマスト。あー。チェックも無難に欲しいわ。あとはドットかな。言っとくけど、注文するまで何もしねーから」


 ゴンツはアマゾンで速やかに注文を済ませた。

 それからしばらくの間、ゴンツのおすすめ商品の一覧が女子高生っぽくなったらしい。


「できたよ!! はい、これ!! お急ぎ便にしておいた!!」

「はいはい。あー。だるっ。じゃあ、『自律型爆撃機バーラトドローン』飛ばすわ。20くらいでいいっしょ。はい、飛んで行けー」


 リュックは相変わらず足を組んだまま、指先から魔力を飛ばした。

 それに呼応するように、ラブラブベザルの天井格納庫からドローンが飛び立っていく。


 自律思考を備えたドローンは敵を発見すると直ちに攻撃体勢へと移行する。

 さらに、リュックはそれを1つ単位でコントロールする事も可能。


 ノーリスクで敵を一網打尽にするこの戦術を用いる事が出来るのは、コルティを除けばバーラトリンデでもリュックのみ。

 この女子高生もどきの少女、かなり強いのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 上空では大量に飛来してくるドローンの群れが悪夢のような絵面となって、まさに襲い掛かって来ようとしていた。


「……これはダメだ。ああ。一度でいいから燃えるような恋愛をしたかった」

「くははっ。亀。お前は恋愛で燃え尽きて長らく無色透明になっておったのを忘れたか。案ずるな。この程度のカトンボ、我の魔力砲で全て鉄くずにしてくれよう」


 メゾルバが左腕に魔力を蓄積し始める。

 同時に、ドローンの動きが変わった。


 すぐに色々と悟ったアルゴムが叫ぶ。


「メゾルバ殿! 魔力を抑えて!! この兵器は魔力を感知して攻撃してきますぞ!!」

「くははっ。ちょっと遅い。ぐべぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」


 メゾルバさん、集中砲火を浴びる。

 だが、地獄はまだ始まったばかりなのだった。

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