第205話 鉱石生命体と理屈をパワーでまとめてぶった斬る!! ~整合性なんか知らん~

 黒助が吼える。

 金色に光るクイックルワイパーを携えて。


 ポンモニは全身をさらに硬化させた。


「うけけけけっ!! 『ハード・アイアン・ブロック』!! この形状になったアタシは、バーラトリンデの地表よりも高い硬度を誇るでゲス! ちなみに、バーラトリンデの地表はあなた方の基準で言うと、7番アイアンよりも硬いでゲス」


「言葉の響きが硬そうなだけで割と曲がるだろうがそれぇ!! バカタレぇぇぇぇ!! おらぁぁぁぁ!! 『農家のうかと科学の一刀両断サイエンスブレイド』!!!」

「げ、げ、ゲスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!」


 もう農家なのか科学なのかよく分からない黒助の必殺剣は、硬化したポンモニの左肩から先を叩き切った。

 一刀両断と言いながら、中途半端に重傷を負わせた理由はあるのか。

 黒助は語る。


「もう勝負はついた。とりあえず、お前らのボスのところに連れて行け。なんかアレだろう? よく分からん不思議な力でその程度の怪我は治るのだろう? なあ、じいさん」

「くっくっく。急に振られたからビックリした。だが、然り。人口生命体であれば、造り出した者の力で回復するのが道理よ」


 ポンモニはうな垂れながらも、ハッキリと負けを認める。


「うけけっ……。アタシの完敗でゲス。まさか、敵に情けをかけられるとは思わなかったでゲスよ……。左肩から先だけしか斬らないあなたの優しさ。五臓六腑に染みわたったでゲス」

「いや、オレ様たちにそんだけ内臓ねぇだろうが。もう知らね。オレ様は何の責任も取らねぇからな!! このハゲども!!」


 ポンモニからすれば「自分の星に敵が攻めて来たのでボスに、ちょっと殺して来いと言われて迎撃に出たところ、なんか色々あって普通に怪我させられた」だけなのだが、それを情けと断言して黒助を褒め称える清らかな心。



 コルティさん。明らかな人選ミスである。なんでこの子を出したのか。



 だが、創始者様も責任を感じたのか、彼女は既に動き出していた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 岩山にある創始者の館では。


「ふっふっふ。ポンモニがやられましたか。ですが、あの者は輝石三神の中でも真ん中……って、割と強い方じゃない!! なに普通にやられてるの!! 馬鹿なの!?」


 コルティさんがマジギレしていた。

 大貧民に負けて美味しいパスタ作ったのだろうか。


 イラミティが主をいさめる。


「創始者様!! ここは小官をお殴りくださいませ!! 罵詈雑言を浴びせながら、殴る蹴るの暴行を!! その際に唾など吐き捨てられると最高でございます!!」

「ああああああー!! うちってなんでこんな子しかいないの!? なに!? ベザルオール様のとこは結構バラエティに富んだキャラメイクされてるじゃない!! 手抜きよ、手抜き!!」


 人造生命体は創った者の精神状態が色濃く反映される。

 つまり、ダメなヤツばかりと言う事は、そういう事なのである。


「創始者様!! ならば、次の輝石三神を呼び出しますか!?」

「いや! この流れで次の子出しても絶対に負けて帰って来るでしょう!? 私にだって流れくらい分かるの!! 三神全員出しても、全員やられる流れでしょうが、今のこれぇ!!」


 コルティ様はかなりお約束と言うものに理解が深いご様子。


「では、どうなさいますか? 小官は創始者様になじられると言う事であれば、いつでも出る構えですが!!」

「あなたが今さら戦場に行ってどうにかなるんですか!? 言っときますけど、あなたの戦績0勝ですからね!? なんで次行けばやれます!! みたいな雰囲気出せるの!? 厚かましい!!」


「ああー!! 素晴らしい罵倒……!! 小官、生の喜びを感じております!!」

「だーまーれぇー!! あなたのそれは、性的な興奮でしょうが!! この腐れ変態漬物石野郎!! ……はあ。なんだか血圧が上がりました。ちょっと座ります」


 玉座に座り足を組むコルティ。

 重ねて注意喚起しておくが、コルティ様は20代前半の美貌をお持ちの元女神。

 間違っても癇癪起こしているバ〇アではないので、その辺りのイメージを間違えないでいただきたい。


 怒りっぽい20代の美女ならばある程度の需要はあるが、すぐキレるババ〇となればもう敵の大将としての魅力は失われたも同然なのである。


 ハーブティーを飲んでリラックスしたコルティは、決断を下す。

 それは思い切ったものだった。


「ふっふっふ。良いでしょう。敵の実力を認めましょう。……ならば、私が出ます」

「そ、創始者様が自ら戦場に向かわれるのですか!? そのような事、前代未聞でございますが!!」



「ふっふっふ。……そりゃそうでしょう。バーラトリンデが侵攻作戦始めたの、今日ですからね」

「なるほど。素晴らしいお考えかと!!」



 コルティが早速最前線へと赴く。

 早々に大将戦が始まるのか。


 まず、彼女は玉座から腰を上げると、その足で自室へと戻る。

 そののち衣装の収納スペースを開けて、大量の服をベッドに並べ始めた。


「……どれ着て行けばいい!? なにせ、1500年ぶりの再会ですよ!! 印象って大事ですもんね!! 白いワンピース!? ちょっと狙いすぎですか!?」


 コルティ様から漂う、そこはかとないミアリス様の香り。

 女神はみんな恋愛拗らせるとこうなるのか。


 それから30分ほどかけて、服装を熟考したコルティ。

 結局、最初に手に取った白いワンピースに決めた。

 「こういうのは最初の閃きが意外と正解なんです」とは、コルティの言葉である。


 いざ、戦場へ。

 コルティは転移装置を使い、愛しの大魔王の元へ馳せ参じる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃、戦いが終わった地では。


「うけけっ。農業とはそれほどまでに奥深いのでゲスか。バーラトリンデの土地でもそれは可能でゲス?」

「ポンモニ。お前、意外といいヤツだな。ふむ。ここの土地は痩せすぎている。まずは土を耕して堆肥を入れて……。ああ。その前に土壌検査だ。安心しろ。農協がやってくれる」


「勉強になるでゲス。メモを取らせてもらうでゲス」

「何でも聞いてくれ。農業に興味を持つヤツに悪い者はいないからな」


 なんか仲良くなり始めた黒助。


「おい、じじい!! てめぇ!! なんだよ、このじゃがりことか言う食い物!! くっそみてぇにうめぇじゃねぇか!! もっとくれよ!!」

「くっくっく。清楚美人、グイグイ来るやん。次はこの羊羹を差し上げよう。しょっぱいものの後は甘いものである」


 こちらもなんだか仲良くなっている。


 そんな中、空間が歪み創始者が転移して来る。

 彼女は開口一番、愛を叫んだ。



「ああっ!! ベザルオール様!! お会いしとうございました!! ずいぶんとお姿は変わられましたけど、その優しい瞳は私の記憶の中のまま!!」

「くっくっく。はて。どなた?」



 やっちまったベザルオール様。

 だいたいやるだろうなと思っていた諸君には安心してほしい。


 偉大なる大魔王であらせられるベザルオール様は、民衆の期待を裏切らない。

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