第204話 魔法で作る科学の剣 ~何を言っているのかわからねーと思うが、おれも分からねぇ~

 さて、ここまでの流れで面白い動物さんみたいな風貌をして、なんか妙な攻撃をして、ついでによく喋って割と賢くて相手に気を遣えると言う、結構色んなことが分かって来た輝石三神・サファイアのポンモニ。

 だが、特筆すべき点は他にある。


 黒助がひとしきり鉱石を投げ終えてから、ベザルオールに尋ねた。


「じいさん。聞くが、あの面白アニマル、なんか硬くないか? 俺は割とガチで攻撃しているのだが」

「くっくっく。それは余も気になっておったところよ。卿の攻撃をあれほど喰らって、ゲスゲス言っていられる余裕すらある。ぶっちゃけ、ちょっと引くレベルの耐久性である。察するに、あれがバーラトリンデの生き物の特徴なのであろう」


 大魔王ベザルオール様。

 割といい線いっている推理を披露される。


 バーラトリンデには基本的に鉱石しかない。

 よって、コルティが生物を産み出す媒体としたものも9割以上が石の類である。


 石が元になっていて、万が一耐久値が低かったらそれはもうゴツゴツしたタダの面白い生き物ではないか。


 幸いなことに、バーラトリンデの軍勢は基本的に硬い。

 それが輝石三神のレベルになると、黒助の攻撃にもそこそこ耐えられる。


 あのフルパワー状態になった虚無のノワールですら黒助にビンタされてひぃひぃ言っていた事を考えると、結構な脅威であった。


「じいさん」

「くっくっく。……麦茶であるな」


「なんでそうなるんだ。確かに喉は乾いてきたが、戦闘中に麦茶飲むヤツがあるか」

「くっくっく。卿、結構な勢いでそれやりそうなのになんか余が怒られててバロス。では、何用か」


「ここはこちらも科学で攻めよう」

「くっくっく」


「と言う事で、じいさん。なんか科学兵器出してくれ」

「くっくっく」


 ベザルオールは2度ほど笑ってから、慎重に答えた。


「くっくっく。卿。もしかして、余の事をドラえもんか何かと勘違いしておらぬか。そんな、出してくれと言われて、ふふふーっと笑いながらなんでも出せると思われては心外である」



「おい。じいさん……。あんた、そんなこと言ってると存在価値がなくなるぞ」

「くっくっく。ヤメて欲しい。卿が言うと、なんかこの世界にその事実が反映されそうで怖い。余だって出せるものなら出したい。でも、まぢむり」



 黒助は「よし。分かった」と言って、スマホを取り出した。

 その様子を見て「くっくっく。麦茶飲むよりよっぽどたちが悪いのでは」と思ったが、口には出さない賢明なるベザルオール様。


 敵サイドと言えば。


「おい、こらぁ!! ポンモニ!! あの野郎、なんか通信機取り出したぞ!! チャンスじゃねぇか! ぶっ殺しちまえよ!!」

「うけけっ! ゴリアンヌ嬢、それはできないでゲス。もしかすると、大切な通信かもしれないでゲスよ? それを邪魔して、万が一にも不都合が生じたら、その後にアタシは命を奪う事を躊躇しちまうでゲス」


「ホントにてめぇは使えねぇなぁ!! どこからそんな良心が生まれてんだよ!! うちの創始者様、結構冷酷じゃねぇか!! 下手したらよ、てめぇが創始者様の良心根こそぎ奪って生まれたせいであの方、あんなになっちまったんじゃねぇのか!? この間なんか、館の壁を無言で殴って穴開けてたんだぞ!! 夜中だったからチビりそうになったわ!!」



 コルティ様、何してはるんですか。



 黒助はまったく攻撃してこない敵を見て「意外とあいつら礼儀を弁えてるな」と思い、スマホを操作した。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 すぐに通話状態になる。


『はいはい! こちら鉄人! 兄貴、調子はどう?』

「それがな、少し困っている。敵が硬いんだ。それなのに、じいさんが科学兵器を出してくれん。鉄人。お前なら何か良い感じの魔法を知らんか?」


「くっくっく。いくらなんでも無茶ぶり過ぎる」


 数秒の間ののち、鉄人は「ああ! あるある! 良い感じのヤツ!!」と答えた。


「ふむ。ああ。なるほど。じいさんにも使えるか? そうか。分かった。ありがとう。ではな。ああ」

「くっくっく」


「じいさん。聞くが、『クリエイト・ブレイブ』という魔法が使えるか? 鉄人が言うには、エネルギーを発する武器を構築する魔法らしいのだが」

「くっくっく」


 ベザルオールは2度ほど笑ってから、慎重に答えた。



「くっくっく。よく考えたら使えた件。しかし待ってくれぬか、黒助よ。余はこれまで武器を携えておったゆえ、武器の構築魔法などは使う必要性がなかったと言うか」

「御託は良いから早く作れ」



 ベザルオールは「くっくっく。はい」と返事をして、魔力を込める。

 無から武器を構築するのは魔法というよりも女神の創造に近く、かなりの魔力を必要とする。


 だが、例えば杖などに魔力を纏わせてそれを高エネルギー武器に変質させるのであれば、難易度も労力もグッと下がる。

 ベザルオール様には今も武器がある。


「くっくっく。できた。黒助よ。これを使うが良い」

「ほう。金色に光るクイックルワイパーか。なかなかにハイカラだな」


 クイックルワイパーをライトセーバーみたいに作り変えた大魔王。

 それを持つと、黒助は2度3度振ってみる。


「ああ。これならいけそうだ」

「くっくっく。黒助よ。卿は剣術の嗜みまであるのか」


「高校の選択体育で剣道をやっていたからな」

「くっくっく。にわか仕込みの極みで草。喩えクイックルワイパーと言えど、既に余の手持無沙汰を解消してくれる相棒である。お願いだから折らないで欲しい」


「任せておけ。俺は剣道の授業で竹刀を折った事は2度しかない」

「くっくっく。余、知ってる。竹刀は普通に剣道してたら折れるものじゃない」


 黒助はクイックルワイパーセーバーをもう一度振り抜く。

 ヴンといい感じの科学っぽい音が響いて、ちょっとだけテンションが上がる2人。


「うけけけっ! 準備は終わったでゲスか? これから失くす命でゲス。ならば、万全の備えをして悔いのないように散って欲しいでゲス。これが簒奪者のエゴである事は分かっているでゲス」

「面白アニマル。お前の話はつまらん上に、何言っとるのかほとんど分からん」


「うけけっ! つまり、戦士は言葉でなく拳で語れと言うことでゲスな! なるほど、道理でゲス!! 何という雄々しき精神でゲス!! 敵ながら、賞賛に値するでゲス!!」

「なんか知らんが、俺たちは忙しい。おい。今は何時だ?」


 ポンモニは左手にある端末を操作する。

 続けて「あなた方の時間で言うと、午後3時でゲス」と答える。


 黒助はそれを合図に猛スピードで走り始めた。


「意外と既にいい時間じゃないかぁぁぁ!! お前の話が長いせいだろ!! このバカたれがぁぁぁぁ!!」


 八つ当たり気味の突進。

 ベザルオールも思った。


 「くっくっく。ポンモニとやらが付けておる端末。もしやアップルウォッチでは。ちょっと欲しい」と。


 絶対違うから不用意な発言はお控え頂きたい。

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