第203話 こんにちは、乳首!! ~敵の脅威を計測する優秀なバロメーター、発現~

 サファイアのポンモニは説明を続けた。

 さすが、知性を司ると言うだけの事はある。


「アタシどもは創始者様によって生み出された鉱石生命体でゲス! つまり、魔力の含有量は元から少なく、さらに魔法として放出するのは相当なセンスが必要とされるでゲス!! そこで生み出されたのが科学の兵器でゲス!! 魔力を源に、少量で最大限のパフォーマンスを発揮するこの兵器!! これも創始者様のお作りになられた叡智の結晶でゲス!!」


 無言で聞いている春日黒助。

 彼はポンモニが話し終えるのを確認してから、「なるほど」と呟いたのち、ベザルオールの方を向く。



「じいさん。聞くが、あの面白アニマルは何を言っとるんだ? サッパリ分からん。バカなのか、あいつ」

「くっくっく。もうこの流れは分かっておった。余、知ってる。卿は相手が一生懸命に説明した事をさも納得したような顔で頷くくせに、実は何も聞いてないことのなんと多いことか」



 黒助は「すまんな」と素直に謝罪してから、続ける。


「で?」

「くっくっく。もう敵が気の毒過ぎる件」


「よし。分かった。じいさん、農業で喩えて分かりやすく解説してくれ」

「くっくっく。無茶ぶりワロス。……然るに。我らの魔法は天然の太陽を浴びて無農薬で育った野菜。対して、ヤツらの化学兵器はハウス栽培や水耕栽培などを駆使して、農薬を効率よく使うスマートなやり方である」


 黒助が膝を打った。


「なるほどな。よく分かった。じいさん、やるな。……だが、じいさん。俺は別に最新の農業は否定せんし、農薬だって使う事に消極的ではないぞ。コルティオールには害虫が少ないため、農薬を使う必要がないと言うだけの事だ。最近の農薬はすごい。説明を無視した無茶でもせん限り、健康被害などはまず起きん。何なら品質が向上する場合すらある。これも研究者の方々が絶え間ない努力をしてくれているおかげだ」


 ベザルオール様は思った。

 「くっくっく。もはや主題が農薬になっておるわ。科学の話はどこに行ってしまったん?」と。


 黒助は足元にまだ多く散らばっている鉱石を拾いながら、ポンモニに告げる。


「お前たちが農薬を使うと言うのならば、俺は止めん。ただし、有識者の意見をまず聞いて、正しい知識を身に付けろ。よし。俺が農協の人を紹介してやる」

「うけけけっ! 何を言っているでゲスか!! 農協? それは何でゲス? コルティオールの兵器でゲスか?」


 黒助は無言で振りかぶった。

 続けて、やっぱり鉱石をポンモニに向かって投げつけた。ついでに叫ぶ。



「お前!! 農協に滅多な事を言うんじゃない!! このバカタレがぁぁぁぁ!!」

「ゲスぅぅぅぅぅぅっ!! 嚙み合わない会話を突然打ち切ってからの実に思い切りのいい攻撃でゲス……! アタシの注意を完全に奪っているのも高得点でゲス!!」



 ゴリアンヌが呆れて呟く。


「てめぇら、馬鹿だろ? さっきからなーにしてんだ? 実力のある馬鹿とか、相当たちが悪ぃじゃねぇか!! あと、このサブレーとか言うヤツ、マジでうめぇな!!」

「くっくっく。一周回って美人がまた可愛く見えて来た。ぶっきらぼうでお菓子に目がないとか、これはちょっと余の琴線に触れて来る。おいおいおい、最高かよ」


 ポンモニは右腕をグルグルと回転させ始めた。

 すると、魔力を帯びた渦が3つほど作り出される。


「残念でゲスが、これはアタシの仕事でゲス。あなたの命を奪わなければならぬのでゲス。せめて苦しまないように一撃で仕留めるでゲス。これがバーラトリンデの兵器を使わぬ魔法でゲス!! よぉくご覧じろゲス!! 『タービュランス・ブレイク・カッター』!!」


 バーラトリンデの魔法は魔素を含んだ鉱石から発生させる。

 ポンモニが先ほど言ったように、バーラトリンデの民は体内の魔力が極めて少ない。

 これは、コルティの使う創造がミアリスほど精巧ではない事が原因。


 だが、一部、先天性の優れたセンスを持ち合わせて誕生する個体もいる。

 それがポンモニであり、輝石三神なのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 渦巻く乱気流が黒助に襲い掛かった。


「……まずいぞ。これはまずい」

「くっくっく。いかがした。卿の力であれば、多少の苦労はするかもしれぬがあの程度の魔法、霧散させるに難くなかろう」


「じいさん。俺はツナギを着ているな」

「くっくっく。然り」


「敵は明らかに、対象を斬り刻む攻撃を仕掛けて来たな」

「くっくっく。然り」



「ならば。分かるな」

「くっくっく。なんぞ、この問答。認知症のテストか何か? 余、もしかして始まってる?」



 そんな事を言っていると、最初の乱気流が黒助の体に到達した。

 その勢いはすさまじく、大根でも持っていようものならば千切りでは済まず、乱切り。

 何なら大根おろしまであるかと思われる。


「おらぁぁぁぁ!! 『農家のうかパンチ』!!」


 乱気流の核をぶん殴ってそれを散り散りにして見せる最強の農家。

 だが、わずかに残った気流の欠片が、しぶとく黒助の胸に襲い掛かった。


「ぐぁぁぁぁっ!! しまったぁぁぁぁ!!」


 悲鳴を上げる黒助。

 彼は両胸を押さえた。


 恐る恐るその手をどけて見ると、そこには。



 元気に顔を出したピンク色の乳首がいた。



「くそがぁぁぁぁ!! こうなると思ったんだ!! どうしてくれる!! ツナギの着替えは持って来ていない!! そもそも、ツナギをダメにしたら柚葉に怒られる!! いや、柚葉は理由が正当ならば笑って許してくれる!! だが!! 面白アニマル!! お前の出した魔法をぶん殴って乳首の部分が裂けましたと言ってみろ!! 分かるな?」


 あまりにも強引な付加疑問文は、知性を司るポンモニの思考を数秒停止させた。



 やっぱり黒助は振りかぶって、鉱石を投げつける。


「黙ってないで責任を取らんかぁ!! このバカタレがぁぁ!! 『農家のうか剃刀曲球カミソリシュート』!!!」

「げ、ゲスぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅっ!!! 論理を強引にぶち壊すこの男……!! まさか、賢者でゲスか!? どんなにこねくり回した理屈でも、圧倒的な力の前には無力……!! なるほど、実にクレバーでゲス!!」


 ゴリアンヌは何も言わない。

 ただ黙って、黒助がくれたサブレーを食べていた。


 そもそも、代表に対して持参した手土産を持って来た本人たちとただの部下で食べ尽くすと言う蛮行。

 何が知性だ。ここにそんなものは存在しない。


 サブレーを食べ尽くして悲しげな表情をするゴリアンヌ。

 彼女はその喪失感を埋めるためにベザルオールに尋ねる。


「ところでよぉ! じじい!! なんでてめぇ、そんなおもしれぇヘルメットしてんだよ!! ハゲてんのか!!」

「くっくっく。ハゲとらんわい。だが、シャア専用ヘルメットは良いものだ。そなたにも分かるか」


「あぁ! めちゃくちゃイカすじゃねぇか!! てめぇらの文明を舐めてたぜ!! なあ、それくれよ!!」

「くっくっく。結局追い剝ぎで草。手前みそになるが、余の作り出した四天王や三邪神は結構まともだったと思うの。そなたらを見てるとなんだかホッとする」


 育ってきた環境が違うから。

 価値観は否めない。そういうことですな、ベザルオール様。

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