家の倉庫が転移装置になったので、女神と四大精霊に農業を仕込んで異世界に大農場を作ろうと思う ~史上最強の農家はメンタルも最強。魔王なんか知らん~
第200話 宇宙なんてなかった! 農家と大魔王、敵の星へと着陸する!!
第200話 宇宙なんてなかった! 農家と大魔王、敵の星へと着陸する!!
結論から言えば、コルティオールの大気圏の外に宇宙空間は広がっていなかった。
そこには魔素が粒子レベルで漂う空域が広がっており、黒助が普通に呼吸できたことから酸素も存在しているようであった。
だが、見た目は現世の宇宙空間そのものであり、はるか彼方に目指すべき目的の星・バーラトリンデが浮かんでいた。
この辺りの理屈は黒助に分からなかったため、解明の仕様がない。
なお、ベザルオール様は「くっくっく。ガチ考察されると困るヤツ」と呟かれた。
全知全能の大魔王が言うのだから、それが真理なのだろう。
この話題はここまでとする。
◆◇◆◇◆◇◆◇
勢いよく進んでいた黒助ロケットだが、その推進力も少しずつ衰えて来る。
彼の足から出るジェット噴射によって進んでいる訳ではなく、地面を蹴った勢いだけですっ飛んできていたので、これは当然の事態。
「じいさん。魔法で何か踏み台になるものを作ってくれ。いつもの感じで空中を蹴りたいのだが、上手くいかん」
「くっくっく。緊急事態過ぎてぱおん。しばし待つが良い。余の魔力はこの空間でも発現するのか……。かぁぁぁっ。『
氷の足場を作り出した大魔王。
それを蹴って再び『
無事に驚異的な推進力は戻って来た。
彼らはバーラトリンデ目指して真っ直ぐに飛んでいく。
コルティオールとバーラトリンデの間にどれほどの距離があるのかは判然としないが、黒助の超物理をもってしても到着までに30分ほどの時を要したことから、「かなりの距離があった」と判断しても問題はないだろう。
彼らは無事に、科学の星へと着陸した。
◆◇◆◇◆◇◆◇
さて、バーラトリンデの第一印象はいかがか。
「ふむ。意外と普通のところだな。岩だらけだが。というか、コルティオールより少し寒いか。太陽に近づいたのにどういう訳だ。じいさん、分かるか?」
「くっくっく。かなりの距離を移動したゆえ、もしかすると我らの住まう地よりもこの星の方が太陽から離れているのかもしれぬな」
「なるほどな。ところでじいさん」
「くっくっく。なんぞ」
「いつまでそのヘルメットを被ってるんだ。見慣れんから落ち着かん。脱いでくれ」
「くっくっく。それはならぬ。なぜならば、余の髪はヘルメットに押しつぶされてペッタンコになっておる。その状態で敵の本拠地を歩くとか、ちょっと恥ずかしくて無理」
「ああ。柚葉も似たような事を言っていたな。髪が長い時は帽子の種類にも気を遣うとか。じいさんもそこそこ髪は長いし。まあ、そういう事ならば仕方あるまい」
「くっくっく。理解があって助かる。これが卿の乙女を虜にする秘訣か」
と、いつもの感じで話をしていた2人であるが、割と深刻な事態に陥っていた。
バーラトリンデに来たは良いが、敵がどこに住んでいるのか分からない。
コルティオールよりは面積が狭そうであるものの、そこは星である。
ちょっと近所のコンビニに行く感覚では敵の根城にたどり着く事は叶わないだろう。
「やれやれ。困ったな。じいさん。お得意の魔力を探るヤツでどうにかならんか」
「くっくっく。先ほどから試しておるが、この星は魔素の濃度が高い。ゆえに、正確な感知をするためにはそれなりの時を要する必要がある」
「ならダメだな。晩御飯に間に合わん。仕方がない。プランBで行くか」
黒助はスマホを取り出した。
続けて、軍師に電話を試みる。
数秒のコール音ののち、通話状態に移行する。
『はいはい! もしもし! こちら鉄人! いやー! スマホってすごいね! ちゃんと通じるんだ!』
「まったくだ。通信会社の人たちに感謝だな」
通信会社の皆様の尽力のおかげて、バーラトリンデにも電波は届いているようです。
ベザルオール様が「くっくっく。今さらこの程度でツッコミなど入れぬぞ」と申されているので、皆様、何卒大魔王様の意向を尊重してあげてください。
黒助は事情を説明した。
「と言う訳でな。着いたは良いが、早速迷子になっている。鉄人、どうにかならんか」
『オッケー。ちょっと待ってて! 魔の邪神直伝!! 『
黒助は「じいさん。聞いた通りだ。地図が来ているか?」と隣の大魔王に聞いた。
「くっくっく。卿の弟がスーパーハカーで草。引くくらい精密な地図が届いておるが。このハートマークが敵の根城であるか」
地図アプリと連動させることで、黒助たちの現在地も反映される春日鉄人の万能魔法。
既にその汎用性だけならば大魔王ベザルオールを超えている可能性すらある。
「すまんな、鉄人。助かった。では、ちょっと敵とやらに挨拶して来る」
『了解! また何かあったら電話してー! みんなで母屋にいるからさ!』
通話を終えた黒助は「じいさん、ナビを頼む。俺にはスマホのアプリは難しすぎて使いこなせん。イライラしてぶん投げたくなってくる」と相棒に指示を出す。
「くっくっく。卿ら兄弟はバランスが実に良い塩梅で取れていて良いな。出来ぬことを補い合う様はいっそ美しい」
「じいさん。褒めたって何もやらんからな。……だが、特別にこのサブレーをやろう。美味いぞ。時岡市の農協が売っているヤツだ。手土産もなしにいきなり訪問するのも失礼だからな。鬼窪に買って来させておいた」
「くっくっく。手土産を躊躇なくつまみ食いするその度胸。さすがはコルティオールの英雄よ。……くっくっく。なにこれ、美味し」
「なにせ、農協が売っているものだからな。不味いはずがない。……しかし、喉が渇いてきたな」
今度はベザルオールがリュックから水筒を取り出す。
アルゴムによって用意された、大魔王お出かけセットである。
「くっくっく。麦茶ならばここにある。アルゴムは麦茶を凍らせて氷を作ってくれるゆえ、常にキンキンに冷えておる上に氷が融けても麦茶が薄くなることはない」
「もらおう。……うむ。やはり農家は麦茶だな。こうなると、もう1枚サブレーを食いたくなってくる」
「くっくっく。然り。余もおかわりしたい」
「仕方のないじいさんだ。あと1枚だけだからな」
こうして、手土産のサブレーを半分食べ尽くした農家と大魔王。
だが、ここは敵の星である。
さすがにこれだけくつろいでいると侵入も露見すると言うもの。
「なんだぁ!? どこのバカが来たのかと思えば!! てめぇか! 変態農家野郎!!」
「くっくっく。なんか知らんが美人キタコレ」
彼女の名前はゴリアンヌ。
つい数時間前にコルティオールを襲った刺客の1人であった。
「ああ。ゴリか。見知った顔に会えて良かった。これは土産だ。受け取ってくれ」
「てめぇら、反撃に来たんじゃねぇのか?」
「話し合いに来た」
「そう言ってオレ様を油断させる魂胆かぁ!? ……おい、てめぇ!! 土産ってこれぇ! 中身が4分の1しかねぇじゃねぇか! ふざけやがって! ちょっと期待したのに!! 許さねぇ! ぶっ殺してやる!!」
「そうか。半分はあると思ったのだが」
「くっくっく。然り。それにしても美味し。手が止まらぬ」
ご挨拶に失敗した黒助。
どうやら、歓迎はされないらしい。
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