第201話 今明かされるバーラトリンデ創始者の正体!!

 その頃。

 バーラトリンデの岩山にある、創始者の館には。


「創始者様。どうやら、敵の侵入を許してしまったようです。申し訳ない」

「ふっふっふ。良い。これまでコルティオールを観察し続けて来た私たちだ。襲来して来たのがあの2人であれば、誰が責めを負うこともない」


 バーラトリンデの統治者。

 その人物が玉座に座っていた。


 跪いたままのイラミティ。

 彼は数時間前にコルティオールへの侵攻を失敗し、母星に帰還後には賊の侵入を許すと言うミスを立て続けに演じていた。


「小官の責任は大であると覚悟しております。何なりと処罰をお与えください」

「ふっふっふ。イラミティの忠義心は部下ながら尊敬に値する。けれども、答えは変わらない。今回の件、責任の所在は不問とする」


「いえ! それでは小官の気が済みません! どうか! 小官を創始者様の美しく小さな柔らかそうで温かそうでいい匂いが絶対にする清らかな御手で八つ裂きにし、この身をバーラトリンデの地にばら撒いてくださいませ!!」


 創始者と呼ばれる人物は「ふぅ」と大きく息を吐いた。

 続けて、口調が変わる。



「いや! 良いって言ってるでしょう!? イラミティってさ、ちょっとドM過ぎるところがあるって言われない!? 同僚とかから!! もう、すっごく気持ち悪いんだけど!!」

「ははっ! ありがたき罵倒!! 小官、なんだか満たされる思いでございます!!」



 創始者は女性であった。


 彼女はかつて、コルティオールで生活していた事もある。

 さらに言えば、自分の意思でこのバーラトリンデへとやって来た訳でもない。


 諸君は虚無のノワールを覚えておいでだろうか。

 大魔王ベザルオールを扇動し、長きにわたる戦争状態をコルティオールに強いる事で負のエネルギーを蓄え肥大化していた、悪の権化である。

 そんなノワールが、コルティオールの戦争状態を維持するためにベザルオールの凪月の杖に仕込みを加え洗脳していたのだが、実はもう1人当時のコルティオールから排除すべき存在がいた。


 当時の女神。

 解放の女神・コルティである。


 コルティは「対象者の潜在能力を解放させる」力を持っており、その能力を駆使されるとノワールの望む混沌と暗雲立ち込める恒久的な戦乱の世の障害になるのは明らかだった。

 ゆえに、ノワールはコルティを追放する。


 一瞬の隙を突いてコルティの持っていた『女神の腕輪』にベザルオールにも憑かせていた『傀儡霊スブアルト』を憑依させ、女神の正常な思考を奪ったのち、それまで蓄えていたエネルギーの全てを使いこのバーラトリンデに女神を転送したのである。


 それから約1500年の間、コルティは『傀儡霊スブアルト』の支配下にあり、少しずつ、花瓶に生けた花が時間をかけて萎み朽ちていくようにしながら、その清らかな思考を征服されていく。


 当時のバーラトリンデには生物は存在しなかったため、コルティは自分の魔力を使いいくつかの種族を創造した。

 創造の女神・ミアリスほどの力はないものの、コルティにも創造は可能であり、初めは知能の低い生き物しかいなかったバーラトリンデは1500年の時をかけて成長を続け、いつしか科学の星となるほどの進化を遂げていた。


 既におわかりいただけただろうか。

 バーラトリンデの創始者。それはつまり。



 かつてコルティオールの女神であった、コルティなのである。



 彼女は1500年の時をノワールに支配された思考で過ごしていたが、つい半年前。

 春日黒助によって虚無のノワールは倒された。


 すると、当然だがコルティの洗脳も解ける。

 そこからは、コルティオールを観察する日々。


 彼女は大魔王ベザルオールに恋心を抱いていた。

 その気持ちは洗脳下においても消える事はなく積み重なり、『傀儡霊スブアルト』の消滅によって解放される。


 コルティは思った。



 「あんの野郎!! 私がこんな色気のない星に飛ばされてるのに! 自分はアニメ見たり、ゲームしたり! 時には幼女と戯れたり!! ……すごくお楽しみのようですね!!」と。



 長きにわたる精神の抑圧状態でコルティの清らかな魂は色を変え、それが急に解放されたものだから勢いそのままに拗れる。

 彼女はイライラしながら、立派な高等生物に育った部下たちに向けて命じた。


「ちょっとコルティオール征服してきて! 私、あっちに戻るから!! でも、どう考えても今の状態だと居場所がないし!! まずは植民地化して、私の居心地の良い状態にする!! さあ、行った、行った!!」


 つまり、今のコルティはかつての和平を願っていた女神とは正反対の性質を持っている。

 実にありていな言い方をすると。



 大魔王がじいさんになるまで一途に慕い続けた結果、なんか結構な勢いで地雷臭のする女に成長していたコルティさんであった。



 なお、普段玉座に腰掛け部下と接する際の口調は、敬愛する大魔王ベザルオール様のリスペクトである。

 これはもう、大変な拗らせ方をしていた。


 なお、見た目は20代前半の姿のままなのがせめてもの救いである。

 バ〇アだったら目も当てられない。

 誰がヒステリックなババ〇を見て喜ぶのか。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 心を落ち着けた創始者コルティ。

 彼女はイラミティに命じる。


「ふっふっふ。イラミティ。輝石きせき三神さんしんを呼び出しなさい」

「小官では話にならぬと申されるのですね!! ご褒美です!!」


「……うちの生物。こんなのばっかりなんだけど」

「すぐに呼んでまいります! 5分を過ぎた場合は、小官を口汚く罵ってください!!」


 そう言うと、イラミティは創始者の館を走る。

 輝石三神とは、コルティが長い時間をかけてバーラトリンデの鉱石から生み出した高等生物の中でも特に傑出した3人の事を指す。



 五将軍とか、三邪神とか、四天王とかの類似品を作りたがるコルティ。

 ちょっと気持ち悪いくらいベザルオール様の影響を受けていた。



 イラミティが戻って来た。

 隣には、小柄なアルマジロのような男がいる。


「申し訳ございません!! サファイアのポンモニ様しかおられませんでした!! さあ、小官をなじってください!! 足で踏みつけてくださっても構いません!! さあ、ご存分に!!」


 コルティはイラミティを無視して、ポンモニに命令を下す。


「ふっふっふ。ポンモニ。あなたは侵入者の若い男を殺害してきなさい。間違っても、お年を召したジェントルマンに危害を加えないように。いいですね」


 ポンモニは跪いてから「はっ!」と返事をする。

 続けて、いくつかの確認を創始者にする許しを得た。


「アタシが出るとなれば、侵入者はどちらもタダでは済まないでゲス。間違って殺してしまった場合はどうすればいいでゲスか?」



 もう語尾が「ゲス」の時点で色々とナニがアレする未来しか見えない。



 コルティは眉をピクピクと震わせながら、ポンモニに強い口調で再度命じる。


「若い方だけって言ってるでしょう! いいですか! ジェントルマンに怪我でもさせたらね! あなた、粉々に砕きますよ!?」

「こ、これは……! 申し訳ないでゲス! ご命令を遂行するでゲス!!」


 ポンモニは準備をしたのち、バイクのような乗り物に跨り出撃して行った。


「あー! どいつもこいつも、知能は高いのにバカばかりなんですが!! 早くコルティオールに帰りたい!! とってもイライラする!!」


 魔王軍と違い、バーラトリンデ軍は全体的にギスギスしていた。

 総司令官によるパワハラも横行しており、令和のご時世にこれはいけない。


「ふっふっふ。ベザルオール様……!! 1000と500年前から愛しております!!」


 重たい地雷女……もとい、長き想いに囚われた元女神。

 コルティが農家の前に立ちふさがる。

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