第197話 会議の前には朝ごはん! コルティオールの頭脳、母屋に集結!!

 春日大農場へと戻った女神軍先遣隊。

 瀕死のブロッサムとギリーには、すぐにウリネによる治療が施された。


「ブロッちとギリリン、しっかりしてー!! むむー! クロちゃん、クロちゃーん! ちょっと来てー!!」

「どうした。もしかして死んだか。よし、ヴィネに頼んで使役してもらおう」


「まだ生きてるよー! でもねー! なんかダメージが変なのー!! 普通の魔法で受けた傷よりねー! クロちゃんがメゾっちを殴った時の感じに似てるー!!」

「ふむ。最近はメゾルバをあまり殴っていないからな。ちょっと確認してみるか」



「んーん! メゾっちまで治療するの面倒だからねー! それはいいかなーって!!」

「そうか。ならばヤメておくか」


 命拾いする力の邪神であった。



 黒助は「イルノ、ゲルゲ。それからセルフィ。朝飯を頼めるか。まずは何か食わんことにはな。心も落ち着かんだろう」と言って、四大精霊に指示をだす。

 イルノとゴンゴルゲルゲはもちろん、最近はセルフィも「花嫁修業だし!!」と言って家事に精力的な取り込みを見せている。


 ゆえに、この3人で食事の準備は充分に事足りる。

 と、そこへ飛竜がやって来た。

 方角から察するに「鉄人が来たか」とすぐに理解した黒助。


「くっくっく。事情は既に把握しておる。魔王城で知り得たものを共有すべく余が直々に参った。ちなみに、ベザルオール様だけでは不安でございますゆえ、と言って結局アルゴムも同行した。余が来た意味があんまりなくてぴえん」

「お邪魔致します。黒助様。鉄人様の来援のご采配、誠に感謝しております。ベザルオール様をお救い頂きありがとうございます」


「鉄人がラインを見てからどうしてもと言うのでな。だが、じいさん1人でも余裕でどうにかできただろう。じいさんはそこそこやるぞ」

「くっくっく。まさかの高評価キタコレ。ただし、過剰に持ち上げられると死亡フラグになりかねん。余、知ってる。あいつならば大丈夫だと言って送り出される味方の幹部が帰らぬ者になるパティーン。90年代くらいのバトルものにありがちである」


 とりあえず、幹部たちは母屋で朝食を済ませることにした。

 再三黒助も言っているが、食事と言うものは案外バカにできない。


 有事の際こそ普段通りの食事をすることで、精神を落ち着け理性的な思考を維持する事が出来ると彼は言う。

 過去に黒助は岡本さんに全然欲しくない高枝切りばさみの購入を強く勧められた際、この方法で危機を乗り切った実績もある。


「クロちゃーん! ブロッちとギリリン治ったよー!! むふー! ボク頑張ったんだー!!」

「そうか。助かったぞウリネ。じいさん。倉庫にあるメロンを大至急冷やしてくれるか。ウリネには褒美をもらう資格がある」


「くっくっく。かしこまり。ウリネたんには余の持参したチョコあーんぱんも進呈しよう。ただし、ご飯が食べられなくなるゆえ後でおやつの時間に食すのだ」

「わーい! おじいちゃん、ありがとー!! やたー!!」


「くっくっく。ちょっと空間魔法で倉庫まで転移して来る。アルゴムよ、余の卵焼きは食べ残しておるわけではなく、最後に取ってあるゆえ。絶対にお皿下げないで欲しい」

「はっ! 拝承いたしました!! プチトマトも同様でございますな!!」


 こうしてしっかりと食事をとった一同は、イルノが淹れてくれた緑茶を啜りながら今朝の騒ぎについて話し合う事にした。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 とりあえず黒助はコルティオールの両首脳に「なんだ、あの訳の分からんヤツは」と聞いた。

 だが、ミアリスもベザルオールも突然の侵略者に対しては何の知識も持っていないため、事業主の求める答えを出すことは叶わず。


「実はさっき、女神の泉で過去の記憶を調べてみたんだけどね。やっぱり分からなかったわ。ただ、気になる事があって」

「ミアリス様の注文していた下着なら、さっき届いたですぅー」



「そうそう! 可愛いのが見つかったのよってバカぁ! そっちの気になるヤツは後でいいの!! イルノ、最近なんかドSになったわよね!?」

「ミアリス様ー。人を変えるのは環境だとイルノは思うですぅー」



 また「来るべき勝負の日のための装備」を増やした女神は咳払いをしてから、そっちじゃない方の気になる事を口にした。


「太陽がさ。ああ、片方は違うんだっけ。とにかく、空の星。あれって、始祖の女神の記憶だと1つなのよね。それが、気付いたら2つになってるのよ」

「ほう。太陽は分裂するのか」


「いや、兄貴。太陽だと思ってた星は太陽じゃなかったんだよ」

「なんだと……? 太陽が太陽じゃなければ、太陽はどこへ行ったのだ……」


 鉄人が「兄貴の補佐は僕にお任せでーす」と言って、会議を進めるようハンドサインで促した。

 続けて挙手をするのは、膝にウリネを乗せてチョコあーんぱんを食べさせている大魔王。


「くっくっく。実は余もいささか引っ掛かっておった。少なくとも、2000年前には太陽は1つであったはずだ。それが、どこかのタイミングで増えておる。……が、記憶にない」

「あんた、やっぱりボケ始めてるんじゃ……」


「くっくっく。話の途中なのに酷い決めつけは草。ミアリスよ。女神の泉の記憶にも明確な時期は残っておらぬ。そうであるな」

「そうよ。どうやってもそこがぼやけてるの。大魔王と一緒にボケたのかしら」


「くっくっく。もう余をボケさせようとして来るビッグウェーブが止まんない。察するに、コルティオール全土が何らかの記憶操作を受けておるのではなかろうか。侵略者が頭上の星だと言うのならばあり得ぬことではない。コルティオールよりもはるかに巨大な天体であるゆえ」

「あー! なるほど! 例えば、バーラトリンデでしたっけ? あの星から強力な科学兵器で精神攻撃されてたら、存在も知らなかったこっちからしたら何かやられても判断できないですもんね!」


「くっくっく。鉄人は相変わらずの頭脳でエグい。卿がいれば、とりあえず話がまとまるのはもはや1つのアイデンティティよ。モンハンでも頼りになるし」

「おじいちゃーん! お菓子なくなっちゃったー!」


 ベザルオールは懐から、エブリバーガーを取り出してウリネにそっと差し出した。


「くっくっく。あまりお菓子をあげ過ぎると黒助に怒られるゆえ、これが最後である。だが、ウリネたんは育ち盛り。ちょっとくらい食べても平気、平気」

「……敵の見解を語ってる時よりもウリネにお菓子出してる時の方が真剣な表情ってどうなのよ。あんた、そろそろ大魔王から祖父に肩書変わるんじゃない?」


 ベザルオール様はこれまでで1番の断定調をもって応じた。


「くっくっく。臨むところである」

「ああ、そう。まあ、あんたがそれでいいならわたしは別にどうでもいいけど」


 黒助はこれまでの情報を主に鉄人によって離乳食レベルに噛み砕かれたのち吸収し、農場のトップとして思案していた。

 そんな彼は、1つの決断を下す。

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