第195話 久方ぶりのご都合主義! 救世主の予定調和!! 現場到着、春日黒助!!

 ユリメケ平原では、魔獣将軍と鬼人将軍が思わぬ善戦を見せていた。


「おらおら! いくぜぇ!! 『マグマボルト・ナックル』!!」

「ちっ! なんだこいつら! 妙に戦い慣れてやがる!!」


「おお! ギリー! それはゲルゲ殿の!!」

「そうだぜ! ゲルゲの旦那が、ワシの必殺拳の出番は多分もうないゆえ、欲しければあげる……。って悲しい顔で言ってたんで! 受け継いだってわけだ!!」



 火の精霊・ゴンゴルゲルゲ。ひっそりと唯一の必殺技を放棄していた。



「ならば吾輩も負けてはおれぬ!! グァアァァァァ!! 『ドラゴニックブレス』!!」

「出たぁ! 旦那の十八番じゃねぇか! ガイルさんと竜が被ったせいで、全然使わなくなってたヤツ!!」


「ぐーっはは! そろそろ一周回って良いんじゃないかと思ったのでござるよ!」

「旦那ぁ! オレら、意外とイケるぜ!?」


 事実、元魔王軍コンビは意外とイケていた。

 敵が魔法に対しての備えを怠っていた事も大いに影響しているが、実はこの2人、出番が乏しくなってからもひっそりと訓練に励んでいたのだ。


 努力は人を裏切らない。

 必ず結果が出るとは言わないが、頑張った分だけ強くなるのは必定。


「くっ! くぅっ!! オレ様がこんな雑魚っぽいヤツらに!! 屈辱だぜ!!」

「そろそろ名前くらいは聞かせてもらえぬでござるか? 捕虜になった後、何と呼べば良いのか分からぬでは困るでござるよ」


 鉱石の女は吠えた。

 それを合図に、全身を覆っていた鉱石が意思を持つように浮遊し、2人に対して攻撃を始める。


「オレ様は! バーラトリンデの女戦士!! ゴリアンヌ様だぁぁ!! 調子に乗ってんじゃねぇぞ、この雑魚ども!!」


 鉱石の乱舞はやがて嵐となり、ブロッサムの巨体を吹き飛ばしたのち、ギリーの強靭な体をタコ殴りにする。

 善戦してきた2人が一気に倒れると、ゴリアンヌと飛竜の間に障害がなくなった。


 つまり、敵にとっては奇襲の好機。

 女神軍にとっては急襲のピンチである。


「や、やばっ!! ヴィネ! 捕まってて!!」

「ミアリス!? 何するんだい!?」


「わたしだって! 久しぶりに魔法使って活躍したいのよ!! 『イージスシールド』!!」

「はぁっ! そんなヒョロい盾でオレ様の鉱石を防げるものか! 合体集約!! 『メテオストーン』!!」


 ちなみにミアリス様は恋愛にうつつを抜かしていたため、特に魔法力が向上したりと言う仕様変更はございません。


「ひゃああっ!! ダメだわ、これ! バリブ! 急上昇して!!」

『いや、せやかて姐さん。そんな急に言われましても。ワイにも準備がいりますわ。翼羽ばたかせる暇もないとか、あんまりですやん』


 飛竜のバリブの哀しいテレパシーが響く。

 そろそろ、あの男がタイミング良く現れる時分だろうか。


 大方の予想通り、地上から打ち上げられた隕石は一発のパンチで砕かれる。

 続けて、いつものセリフをどうぞ。


「遅くなった。聞くが、怪我はないか。か弱き美人を守るのは男としての義務だと、少し前に鉄人から教わってな。確かにその通りだと思っていたところだ」



「ふあぁぁぁぁぁぁい!! 夜明け前なのにわたしの太陽来ちゃったー!! もう眩しくて逝っちゃいそう!!」

「はぁぁぁぁ!! あたいが美人にカウントされてるぅぅ!! 逝っちまいそうだねぇ!!」



 いつも通り恋する乙女たちを逝っちまいそうにさせながら。

 春日黒助、現場に到着する。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ゴリアンヌは珍しく、春日黒助の驚異的な物理攻撃を見て狼狽えなかった。

 それどころか「あの男。魔力を一切使わずにあれだけの威力を!!」と冷静な分析を試みる。


 かつてないリアクションである。

 これが科学の星・バーラトリンデの対応なのか。



「さては。オレ様たちの仲間か!! 創始者様が後発隊を出してくれたんだな!!」


 とりあえず、科学的なアプローチからの分析はまったく当たらなかった。



 ただ、魔力を検知されずに空中を歩く黒助を見て「あれは科学だろ!!」と考えるのは意外と理にかなっている。

 ただし、理屈のない謎の物理使いである黒助のメカニズムを科学的に解明しようとすると、高名な学者がストレスで倒れる事になるのでお勧めはできない。


「おい。聞くが。そこの割と美人なお前。目的はなんだ。野菜泥棒か」


 ゴリアンヌは柚葉に似たタイプの清楚系美人であり、最近成長している黒助の美人センサーに触れる。


 なお、ミアリスとヴィネの逆鱗にも触れたため、「あの女……!! 絶対に許さないわよ!!」「ああ! とりあえずあたいは呪いをかけてみるよ!!」と、初対面でこの朴念仁から「美人」と言う高評価を獲得した侵略者に嫉妬の炎を燃やした。


「なんだよ、色男! お前オレ様たちの味方じゃねぇのかよ!! 期待させやがって!!」

「ふむ。何を言ってるのかまったく分からん。まあ、出来心ならば見逃そう。とっとと帰れ」


「黒助! ダメよ! ボコボコにしないと!!」

「そうだよ! あたいたちを殺しにかかってたんだよ!!」



「ああ。そうだったか。……なんかお前たち、圧がすごいな?」

「ボコっちゃえ! 黒助!! 相手が女だからって何よ! 時代は男女平等よ!!」

「そうさ! あたいだって昔は黒助にボコられてるんだからね!!」



 黒助を圧倒するプレッシャーでまだ事情を理解していない事業主を「殺っちまえ!!」と焚きつける2人の乙女。

 ブロッサムとギリーが瀕死の状態なのを確認した黒助も「確かに捨て置けんか」と頷くに至る。


 地上に降りた黒助はゴリアンヌと向かい合った。


「聞くが。お前の目的は何だ。さっきも聞いたのだが。ちゃんと答えろ」

「そりゃあとっくに言ってんだよ! お前の仲間によぉ! ったく、面倒くせぇ!! このコルティオールを植民地にしてやろうって言ってんだ!! オレ様たち、高貴なバーラトリンデの民がな!!」


 そう言うと、ゴリアンヌが再び隕石を構築し、ノータイムで黒助に襲い掛かった。


「はっはぁ! 獲ったぁ!! 呆気ないなぁ! 色男ぉ!!」

「ふんっ! 『農家のうかパンチ』を使うまでもないな。聞くが、美人。それは魔法か?」



「お、オレ様の『アメージングストーンズ』を軽く吹っ飛ばした……だと……!?」


 ようやくいつもの流れになって来た。



 春日黒助は狼狽えるゴリアンヌに最後通告を行う。


「もう一度だけ言うぞ。どっから来たのか知らんが、もう帰れ。うちの従業員を危険に晒した上に、まだ何かしようと言うのならば」

「は、はぁ!! だったらどうするってんだぁ!?」


 黒助は拳を握り、短く答える。


「残念だが、実力行使だ。俺は家族を守るためならば、相手が女だろうと容赦はせんぞ」

「……いいねぇ! そういうシンプルな考え方、オレ様は好きだぜ!! ぶっ殺してやる!!」


 黒助は「やれやれ。話が通じんか」とため息をつく。

 物理の破壊神、久方ぶりの降臨である。

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