第194話 来援! ニートの午前4時は余裕で活動時間内!!

 魔王城では。


「くっくっく。卿、飛行魔法は可能か」

「魔法? ああ、原始的な魔力を使った古代の産物か。そんなものは使えんが、飛べと言うのならば望みを叶えてやろう。……そら!!」


 イラミティは両足から魔力を噴射して、上空へ飛ぶ。

 その過程で、さらに踏み荒らされるジャガイモ畑。


「くっくっく。卿、いささか狼藉が過ぎると言うもの。ジャガイモちゃんを育てるのに、どれほどの愛情が必要だと心得るか。愚か者が。『フライングゲット』」

「はーっはは! 魔力の運用がまるっきり原始人だな! アカデミーの歴史学で学んだものだが、この目で見ると実に滑稽!!」


 空中戦に戦闘態勢を移行した大魔王。

 これで彼も畑の事を考えず、思い切り魔力を扱う事が出来る。


「くっくっく。余は全知全能の大魔王なり。卿の世界がどのようなものかは知らぬが、コルティオールにも歴史がある。多くの者が語り継いできた力を舐めるでない。かぁぁっ。『漆黒の炎烏ブラッドクロウ』」


 クイックルワイパーから無数の業火を纏いし烏を生み出し、一気呵成に打って出るベザルオール。

 イラミティは魔法を見下し切っていたため、予想外の攻撃に怯む。


「なんだと!? くっ、くっそがぁ!! 老いぼれぇ! よくも小官の創始者より授かりし鎧に傷をつけたなぁ!! 絶対に許さん!! 嬲り殺す予定だったが、瞬殺に変更だ!! 『アサルトレーザー砲』!! 塵となくなれ!! 大魔王!!」

「くっくっく。何と言う出力。エネルギーの根幹は魔力で間違いないが、その発現方法は余や他のコルティオールの民の誰とも違うか。ぬぅぅぅん。『闇漆盾バオールド』」


 ベザルオールはクイックルワイパーに魔力を集約させ、高密度の盾を形成した。

 が、それに少しずつヒビが走っていく。


 数秒後には蜘蛛の巣状に亀裂が走り、数十秒後には盾が粉々に砕ける。

 ついでにクイックルワイパーもバラバラになった。


「ざまぁねぇな!! ご自慢の杖は壊れて、万策尽きたと言ったところか?」

「くっくっく。量販店より取り寄せし新品のクイックルワイパーが。こんなことなら持ってこなければ良かった。アルゴムに怒られる」


 なお、ベザルオールがクイックルワイパーを持参したのは「くっくっく。なんか落ち着かなかった」と言う理由のみなので、それがなくなっても戦闘に影響はない。

 が、謁見の間のテレビの下とか、冷蔵庫の隙間とかが掃除できなくなった事実は由々しき問題である。


「とりあえずトドメを刺させてもらうぞ。小官にはまだ殺さなければならん者が多くいるのでな」

「くっくっく。そんな物騒な話を聞いて帰ってもらうほど、余は優しさに包まれてはおらぬ。余がユーミンでない事を悔いるが良い」



「老いぼれ。ところどころ意味が分からんのだが。さてはボケているのか?」

「くっくっく。失礼極まってて草。ぷんぷんがおーである」



 そこに高速で飛来して来た者がいた。

 大魔王は一対一にこだわる性格ではないが、「くっくっく。敵が増えるとちょっとやばみ」と身構える。


 だが、それは想定の反対であり、ベザルオール様の心をほっこりとさせた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 乱入者は何の躊躇もなく魔力を大量に込めて、イラミティの頭上へ落とす。


「不意討ち御免!! なんつって! よいしょー!! 魔の邪神直伝!! 『巨落雷の槍トールグングニール』!!」


 「不意討ちするなら、初撃にオールベットが基本でしょ!」がモットーの、現世と異世界を股にかけるニート、ここに見参。


「がぁぁぁぁぁぁっ!! 今度はなんだ!? ……人間じゃないか!? コルティオールの人間は絶滅しているのではないのか!?」

「くっくっく。情弱過ぎて草。あの者はただの人間ではない。ニートである」


「ニートだと!? なんだそれは!!」

「くっくっく。大サービスで教えてやろう。この世の理を超えた、大賢者の名よ」



 ベザルオール様、真顔でよそから来た侵略者に嘘を教える。



 そんなやり取りをしていると、鉄人がベザルオールの隣に降下して来た。

 続けて、今では友人である大魔王を気遣う。


「ベザルオール様、平気ですか? なんかお召し物が汚れてますけど。あと、マント羽織ってるけど下はパジャマのままですね! 可愛いんだからー!!」

「くっくっく。今気づいた件。慌てていたとは言え、これは恥ずかしい。しかし、鉄人よ。なにゆえこのような時間にコルティオールへ参ったのだ」


「ああ! さっきアルゴムさんからラインが来ましてね! 僕、まだ起きてたんですよ! いやー! 信長の野望始めちゃったら止まらなくなって! 小田原城攻めてたらこんな事に! 結果オーライってヤツですね!!」

「くっくっく。把握。シリーズにもよるが小田原城と石山本願寺の堅さは異常。あれは時間泥棒であるな」


 得体のしれない乱入者にイラミティは情報を収集していた。

 が、「何故か強い魔力を有した人間にしか見えない」と言う事実は、彼をより一層の混乱へといざなう。


「ちなみに、兄貴も来てますよ! よいしょー!! 『巨雷鳴の槍トールグングニール』!!」

「げぇあぁぁぁぁっ!? こ、こいつ……!! 世間話のついでに小官を攻撃しただと!? 戦士としての誇りはないのか!?」


 鉄人はビシッと指をさしてから、イラミティを一喝した。



「あなたねぇ! 人の家の畑荒らしといて、なーにが戦士としての誇りですか! そんなものの前に、常識を身に付けなさいよ! 農地害獣に荒らされると、農協に報告しなくちゃいけなかったりで大変なんですよ!!」

「くっくっく。正論でガチ殴りは草超えて森超えてアマゾン。……と言うか、岡本さんに報告しなくちゃいけないって、マ?」



 自信満々のニートの前に、イラミティは危機回避を選択した。

 これほどまでの余裕を見せられると、「まだ何か隠し玉があるのではないか」と勘繰るのが一般的である。


 ただのクソ強メンタルの持ち主であるとは、初対面で察するには無理があった。


「……不本意だが、一時撤退する。勝負はまた次の機会だ! 命拾いをしたな、大魔王! この借りは必ず返すぞ! ニート!!」


 イラミティが再び魔力を噴射させると、超高速で飛び去って行った。

 ベザルオールは鉄人の来援に感謝する。


「くっくっく。ぶっちゃけ助かった。卿が来てくれぬ場合、余も手段を選べぬところまで追いつめられておっただろう」

「ご謙遜なんだからぁ! ベザルオール様なら余裕ですよ! 僕の方こそ、なんか出番をもらっちゃってすみません! とりあえず、アルゴムさんのとこ行きましょうか? むちゃくちゃ心配してましたよ!」


「くっくっく。余の忠臣にも心痛をかけさせた。鉄人よ、卿は黒助の助力に向かわずとも良いのか?」

「いやー! 兄貴の邪魔になるだけですから! それより、喉が渇いたので何かもらえます?」


 ベザルオール様は「くっくっく。お年寄りに遠慮なくちょうだいと言える若者、好き。冷蔵庫にファンタが各種冷えておる。ゆるりとして行くが良い」と言って、魔王城へと戻って行った。


 鉄人も遠くの方で時おり見える光を確認して、「兄貴もやってるねー!」と安心したのち大魔王の後に続くのであった。

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