第193話 科学の星・バーラトリンデ

 時を同じくして。

 コルティオールのユリメケ平原。

 春日大農場から12キロほど離れた地点にも、1つの隕石が飛来していた。


 農場の母屋では、創造の女神・ミアリスがこちらも久しぶりにシリアスな表情で指示を飛ばしていた。


「とりあえず、ウリネとセルフィはオーガとリザードマン! それからゴブリンたちに家から出ないように伝えて回ってくれる? ゴブリンも言葉は話せないけどこっちの言うことは理解できるから!!」


「うん! 分かったー!! ボク、ゴブリンさんたちの方から行くねー!!」

「りょーだし! ウチはその他を全部引き受けたし!! 風の精霊の速さ、久しぶりに見せるし!!」


 四大精霊の本来の仕事は、コルティオールの守護である。

 非常事態に際してしっかりと対処ができるよう、彼らの遺伝子に刻み込まれているのだ。


「こんな朝早くに地震だなんて困るですぅー。ついさっきまで、ミアリス様の下着選びに付き合わせられていたのに、2時間寝たらこれはひどいですぅー」

「うっ……! いいじゃない! 深い眠りにつくまえで!! そのおかげで、迅速な対応ができるんだから!!」



「ミアリス様の下着を3時間も見せられた時間は確実に無駄だったですぅー。それさえなければ、もっと万全の体調だったですぅー」

「ううっ……! 分かったわよ! イルノには、わたしのコレクションからちょっとセクシーな下着あげるから!!」



 イルノは「いらないですぅー」と言って、母屋を出て行った。

 彼女は元魔王軍チームを叩き起こしに行くらしい。


 多分、自分だけ寝不足なのが気に入らないのだと思われた。


 その時、母屋に設置されているモルシモシが不吉な声で鳴いた。


「うひゃあっ!? もー! ビックリしたぁ!! なによ、忙しいのに! ゴンゴルゲルゲ、出といて!!」

「かしこまりでございまする! あー。こちらは火の精霊、ゴンゴルゲルゲ! おお、アルゴム殿! そちらでも地震の影響があったので? ふむ、ふむ。……なんと!? 貴重な情報に感謝いたしますぞ!! すぐにミアリス様にお伝えいたしまする!!」


 通信指令・アルゴムは仕事の出来る男。

 コルティオールに襲来した未知の敵について、いち早く春日大農場と情報共有を試みた。


 それはゴンゴルゲルゲからミアリスに伝えられる。



「はぁ!? 太陽から来た得体のしれないヤツに訳の分かんない襲撃されてて、ベザルオールが戦ってる!? ……大魔王、ついにボケたんじゃないの?」

「ミアリス様。それはあんまりなお言葉かと……」



 女神も「確かに、ベザルオールがボケたとしても、アルゴムまでボケるとは考えにくいわね」と、大変な失礼を重ねたのち、幹部の招集をかける事にした。

 イルノがまさに幹部たちの家を回り終えたところであり、水の精霊の手回しの良さを「さすがイルノね!」と褒めるミアリス。


 彼女の先見性は主にミアリスとセルフィのせいで、もとい、おかげで、極めて優れたものへと進化していた。

 そののち、母屋に集まって来た幹部たちの中で、偵察隊が編成される。


「じゃあ、オレ行きますよ! 今日は午前休みなんで!」

「ギリーが行くのなら吾輩も共に参るでござるよ」


 鬼人将軍と魔獣将軍の仲良しコンビが立候補した。

 そこに「この脳筋2人だけじゃ不安だから、ヴィネ! わたしと一緒に来て!」とミアリスはメンバーの選出を速やかに終えた。


「あいよ! 任せときな! じゃあ、あたいは飛竜のバリブを起こしてくるよ!」

「ありがと! わたしたちもすぐに行くから!」


 ちなみに、ギリーとブロッサムは「ミアリスの姉御だって恋愛脳だよな?」「うむ。ヴィネもまた然りでござるよ」と、軽い陰口でささやかな反論を試みていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 飛竜に乗って、現場周辺の空域までやって来た春日大農場偵察隊。

 アルゴムのもたらした情報通り、球体の隕石らしきものが地面にクレーターを作っていた。


「ミアリス! 気付いたかい?」

「ええ。微量だけど、魔力を感じるわね。中に何かいるのは間違いなさそう。……ギリーかブロッサム! どっちか様子見てきて!!」


「えっ? オレらっすか!?」

「当たり前じゃない! あんたたち、フィジカルくらいしかとり得ないんだから!!」


「酷い言われようでござるな。では、ギリー! 吾輩たちの出番でござるよ!」


 だが、鬼人将軍は頷かない。

 その理由は単純だった。



「いや、ブロッサムの旦那。悪いけど、オレ飛べねぇから。旦那が独りで行ってくれっかな? 飛び降りてもいいけどよ。またクレーターできるじゃねぇか」

「……そこはかとなく嫌な予感がするでござる。この感じ、初めて黒助殿に見えた際とよく似ておるでごさるよ」



 結局、ブロッサムが『狂獣進化トランスフォーム』をしたのち、地上へ降り立った。

 続けて隕石を軽くノックする。意外とマナーを弁えている魔獣の主。


「もしもーし。入っているでござるか?」


 3度目のノックの瞬間、隕石が爆ぜてブロッサムが吹っ飛んだ。


「ぐがぁぁぁぁぁぁぁっ!? そら見たことかでござるよ!!」


 隕石の中からは、体に鉱石のような鎧を纏った女性が現れる。

 その容姿は大変美しく、ブロッサムは思った。


 「このように清楚な美人が敵であるはずがない」と。


「なんだ、てめぇ!! 気持ち悪ぃ姿しやがって!! はるばる飛んできて、第一村人がキメラって、空気読めよ! この面白生物が!! タコ野郎!!」

「ええ……。これはギャップ萌えとは言わぬであろうことは吾輩にも分かるでござる。お主、どこから参った? 目的はなんでござるか?」


 鉱石の女は「うるせぇ!!」と言って、ブロッサムを蹴り飛ばした。

 『狂獣進化トランスフォーム』をしたブロッサムの身長は3メートルを超え、体重は400キロにも迫る。


 その巨体を景気よく数百メートルほど吹き飛ばしたあとに、鉱石の女は叫んだ。


「オレ様たちは、バーラトリンデから来た先遣隊だ!! てめぇらが太陽って呼んでる星の名前だよ!」


 ブロッサムはどうにか起き上がり、会話を継続する。

 言葉を交わせば分かりあえると、彼は最強の農家と過ごす時間で学んでいた。


「太陽に生物が住んでおったでござるか……!」

「だから太陽じゃねぇって言ってんだろうが! ありゃ人工物なんだよ! オレ様たちは科学の星・バーラトリンデの民!! これから先、このコルティオールは我らの植民地になる!! 光栄に思いやがれ!!」


 飛竜の背に乗って会話を聞いていた3人は絶句する。

 この世界にコルティオール以外の生物が住まう土地があった事にも驚いたが、何よりもその星の住人が明らかな敵意を持って、侵略しに来ている事実。


 これは無視できない。


「ど、どうするんだい? ミアリス!」

「決まってるじゃない! せっかく黒助たちのおかげで平和になったのよ!! それを突然出て来た謎のお客に荒らされてたまるもんですか!! ……ギリー!! 行くのよ!!」



「あっ。やっぱりそうなるんすね。予感はしてたっすけど」

「くれぐれも注意するんだよ。あの女から魔力はほとんど感じないのに、ブロッサムに対してやりたい放題だからね」



 新たな敵。

 科学の星・バーラトリンデ。


 その脅威に立ち向かうべく、女神軍も立ち上がった。


 なお、一番槍に外様の元魔王軍を躊躇いなくチョイスしたミアリス様。

 彼女の指揮官としての采配能力も、実は少しシビアな成長をしているのだった。

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