家の倉庫が転移装置になったので、女神と四大精霊に農業を仕込んで異世界に大農場を作ろうと思う ~史上最強の農家はメンタルも最強。魔王なんか知らん~
第192話 空から降る、新たな脅威 ~なんか急にシリアスな空気出してくる展開のヤツ~
第二部
第192話 空から降る、新たな脅威 ~なんか急にシリアスな空気出してくる展開のヤツ~
異世界・コルティオール。
そこには2つの太陽があり、はるか昔からこの地の上空にてコルティオールを見下ろしていた。
だが、コルティオールの最長老である大魔王ベザルオールでさえ気付いていなかった事なのだが、この太陽と思われていたものは太陽ではなかったのだ。
その日、空からいくつかの飛来物がコルティオールに降り注いだ。
新たな戦乱の火種であり、ようやく訪れた平和を破壊する災厄であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ゴォォンと言う轟音とともに、コルティオール全土が揺れた。
時刻はまだ午前4時を過ぎた辺りであり、大半の者が寝息を立てている。
当然だが春日黒助をはじめとした現世組は1人としてこの地に来ていない。
だが、この男は既に起きていた。
とある山脈。
魔王城。
謁見の間に通信指令・アルゴムが駆け込んできた。
「ベザルオール様!! ご就寝のところ、お騒がせ致しまして申し訳ございません!! 緊急事態でございます!!」
「くっくっく。落ち着くのだ、アルゴムよ。先ほどの地鳴りの事であろう。当然だが、余も既に把握しておる」
「さ、さすがでございます! 今、魔王城の近辺に住んでいる魔族たちの安否確認をガイル様が行っておりますれば、ベザルオール様にご報告をと愚考した次第でして!!」
「くっくっく。実は余、昨日は農作業後にお昼寝したせいで午前3時頃から起きておった。くっくっく。ウマ娘に興じておったところ、いきなり大地震が起きるから危ないところであったわ。直前におトイレへ行っていた事を神に感謝する」
ベザルオール様、まずはお年寄りとしての尊厳を守ることに成功していた。
だが、アルゴムは報告を続ける。
その深刻な表情を見て、ベザルオールはウマ娘の「保存して中断する」ボタンをタップし、スマホを寝床にある現世の量販店で購入したお気に入りの小物収納棚の上に置いた。
「くっくっく。察するに、先ほどの地震で被害が出たか」
「いえ、ベザルオール様……! 先ほどの衝撃は地震ではございません!!」
「くっくっく。……マ? 早く言って欲しかった。余、完全に地震の体に自信を持ってその前提で話してたのに。恥ずかしくてちょっと気まずい」
「私はまったく気にしませんので、お心を静めくださいませ!! 事態は緊急を要するものかと思われますれば、全知全能であるベザルオール様のご裁可を伺いたく!!」
ベザルオールはパジャマのまま、玉座に腰を下ろした。
愛用していた凪月の杖はもうないので、こちらも現世の量販店で購入したクイックルワイパーを手に持っている。
久しぶりの大魔王としての業務。
なんだか手持ち無沙汰だったらしい。
「魔王城に設置しております、コルティオール全土の監視システム。これらが、多くの飛来物を確認しております」
「くっくっく。飛来物とは。コルティオールの上空には何もあるまい。火山でも噴火したか」
「いえ! ……信じられぬことなのですが、太陽からの飛来物でございます!! いわゆる、隕石のようなものが少なくとも4つ、コルティオールの各所に落下しております!!」
「くっくっく。隕石だと。それは、ドラゴンボールとかで出て来る、あれと考えても良いのか」
アルゴムは「よろしゅうございます!」と答えてから、モルシモシから得た映像をプロジェクターに投影させた。
そこには、魔王農場のど真ん中に落下した隕石と思しき球体が煙を吐いていた。
「くっくっく。余のジャガイモ畑が……。だが、天災では致し方ない……。ぴえん」
「いえ、ベザルオール様! この隕石からは生体反応が確認されております!! ああ! ご覧ください! 隕石が割れて、中から……!!」
モルシモシの中継映像では、全身が岩のような鉱物で構成されている人型の何かが確かに立ち上がっていた。
当然だが、魔族の類ではない。
ベザルオールはもちろん、アルゴムも魔王軍に所属する全ての種族を完璧に把握しているが、このような異形種など見た事がなかったため「理由も正体も分からないが、コルティオール以外の場所から来た何か」だと断定するに至る。
さらに無視できない事態が起きるので、ベザルオール様は頭が痛くなったと言う。
「くっくっく。アルゴムよ。あの者、余の見間違いでなければ、ジャガイモちゃんを踏み荒らしておらぬか」
「踏み荒らすどころか、畑を更地に変えているよう見えますが……。ああっ! 今度はトマト畑まで!!」
ベザルオールは玉座から立ち上がった。
手にはクイックルワイパー。
愛用のマントを羽織り、髪の寝癖を整えた。
外はまだ暗闇に包まれている。
「くっくっく。アルゴムよ。余が出る。卿は魔王城から余の臣下を何人たりとも出さぬよう徹底させるのだ。ちと、手荒になりそうであるからな。くっくっく」
「はっ! ははっ!! お気をつけくださいませ!! あやつが何者なのか、皆目見当も付きませぬゆえ!!」
ベザルオールは謁見の間の窓から飛び出して行った。
「くっくっく。畑を荒らす者。それだけで重罪である。余は春日黒助にそう学んだ。これまで蛮行を繰り返してきた余である。畑の平和を守る任は、余にこそある」
アルゴムは久方ぶりに見る大魔王の頼りになる後ろ姿を見送ってから、自分にできる仕事の行使に移った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
魔王農場のちょうど真ん中。畑に害成す者はそこにいた。
高速で飛んでくる大魔王を視認すると、その者はニィと品のない笑顔を見せる。
「くっくっく。余はコルティオールを統べる大魔王。ベザルオールである。卿はなにゆえ大地の恵みである農場を荒らすか。理由があるのならば聞こう。そもそも、言葉が通じるのかが不安であるが」
お忘れの方にご説明しておくと、コルティオールの言語はミアリスの創造によって統一されている。
「ほう。貴様が大魔王か。では、小官が当たりを引いたと言う訳だな。これはツイている。抹殺リストの上位に早速出会えるとは」
「くっくっく。言葉は通じるのに、何言ってんのか全然分からなくて草。せめて名を名乗るくらいはしてほしい」
岩石の異形種は「まあ、良いだろう」と応じる。
「小官はイラミティ。コルティオールを奪うためにやって来た。しかし大魔王とやら。聞いていたよりもずっと矮小な存在だな。これでは拍子抜けだ」
「くっくっく。イラミティとやら。余の悪口はいくら言っても構わぬ。が、そこにあるジャガイモちゃんから汚らしい足をどけるが良い」
イラミティは「これは失礼した」と応じて、ジャガイモを思い切り踏みつぶした。
続けて彼は言う。
「これで満足か? 大魔王」
「くっくっく。卿はたった今、自身の処刑執行書にサインしたと知るが良い。余はもはや争いはせぬと誓った。だが、農業を冒涜する者に対してはその禁を破ること。……一切の迷いなし!!」
手に持っているクイックルワイパーに魔力が集約されていく。
大魔王ベザルオール、久方ぶりの臨戦態勢。
「ほう。少しは楽しめるかな。侵略任務などに選ばれた時には辟易したものだが。その実力とやら、見せてみろ! 老いぼれ!!」
夜明け前のコルティオール。
新たな害意の悪臭が漂う中、大魔王の防衛戦が始まろうとしていた。
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