家の倉庫が転移装置になったので、女神と四大精霊に農業を仕込んで異世界に大農場を作ろうと思う ~史上最強の農家はメンタルも最強。魔王なんか知らん~
第189話 全知全能の大魔王&最強の農家VS架空請求 ~鉄人、早く来てくれ!!~
第189話 全知全能の大魔王&最強の農家VS架空請求 ~鉄人、早く来てくれ!!~
コルティオールのとある山脈。
魔王城では。
「ベザルオール様!! たった今、春日黒助様が飛竜に乗ってこちらにおいでになりました!!」
「くっくっく。ガイルよ。余は何かやったのか。開幕ストレスマッハなのだが」
「私には見当もつきません!! 今、アルゴムがご案内しておるところです!!」
「くっくっく。とりあえず、良く冷えたメロンソーダを用意せよ。それから、食堂よりじゃがバターを運ばせるのだ。これでどうにか帰ってもらおう」
数分後。
アルゴムに連れられて黒助が謁見の間にやって来た。
「ベザルオール様。春日黒助様をお連れ致しました」
「じいさん。調子はどうだ」
「くっくっく。卿の農場から株分けしてもらったトマトがいい塩梅に実り始めておる。イルノたんが3日おきに怖い顔で様子を見に来るのはいささか胃が痛くなるものの、概ね順調である」
「そうか。それは結構なことだな。ところでな、今日は写真を持ってきた」
そう言って黒助が取り出したのは、先日行われた時岡高校文化祭の終了時に未美香のクラスで撮影された集合写真だった。
時岡高校ではイベントの際の写真は後日希望者に販売される仕組みが採用されており、黒助やベザルオールの写っているこの1枚を未美香が気を利かせて購入していた事を黒助は語った。
「くっくっく。未美香たん、マジ天使過ぎん? アルゴムよ」
「ははっ! かしこまりました!! 畳3畳分程度に引き伸ばして、謁見の間に飾るのでございますね? すぐに取り掛かります!!」
「くっくっく。アルゴムが優秀過ぎて困る。余の考えを先読みするか。こやつめ。くっくっく」
「やる事は同じだな。うちの母屋にも既に飾ってある。じゃあ、俺は帰るぞ」
その時、ベザルオール様のスマホが震えた。
表示された文面を見て、ベザルオール様自身も震える。
「くっくっく。しばし待つが良い、黒助よ。これは由々しき事態である」
「どうした。俺で役に立てるなら話くらいは聞いてやるが」
「くっくっく。スマホに旦那が交通事故で亡くなった未亡人から助けを乞うメールが届いた。なんでも、子供が11人ほど遺されておるらしい。とりあえず200万ほどあれば足りるらしいのだが」
「なんだと。じいさん、あんたな……。一大事じゃないか!! すぐに返信しろ!!」
謁見の間にガイルとアルゴムもおらず、残っていたのが大魔王と最強の農家だった事。
本件の悲劇ポイントは全てこの1点に集約されている。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ベザルオール様は返信した。
まず、不幸を悼む書き出しから始まり、遺された子供たちのことを慮り、未亡人になった名も知らぬご夫人を励ます完璧な文章をものの数分で作り上げた。
「くっくっく。黒助よ。念のために確認してくれるか。余は現世の事情に卿ほど精通してはおらぬゆえ」
「ああ。いいだろう。……なかなかいい文章だな。気遣いが伝わってくるようだ。じいさん、伊達に年を取っていないな」
「くっくっく。褒めたって何にも出ないんだからね。ちなみに、良く冷えたメロンソーダならばある。氷も入っておるゆえ、喉を潤すが良い」
「気が利くな。いただこう」
それから2人でメロンソーダを堪能していると、件の未亡人から返信が来た。
「くっくっく。余の人柄をずいぶんと褒めておるわ。ご夫人も旦那を亡くした直後だと言うのに、何という気丈な振る舞い。これを助けずして何とする」
「ああ。じいさんの言う通りだな。それで、金はどうする? 俺も半額出そう」
「くっくっく。良いのか。卿に届いたメールではなかろう」
「じいさん。俺を舐めるなよ。困っている者がいると聞きながら、それを見捨てるような人間にはなりたくない。家族が悲しむ」
現在進行形で家族が悲しむ道をひた走っている件。
「くっくっく。先ほどは200万と言ったが、実は子供が育ち盛りでよく食べる上に、私立の学校に18人ほど通わせているためそれでは足りぬらしい」
「だろうな。……待て。さっきより子供の数が増えてないか?」
「くっくっく。恐らく、それほどまでに動揺しておられるのだろう。なんと気の毒な」
「確かにな。じいさん、さすがだな。相手の心を読むとは」
要求された額は500万に増えていた。
ベザルオール様は「くっくっく。この程度の額。ポンと出せずに何が大魔王か」と言い放ち、記載されている電話番号をタップした。
数分ののち、相手が電話に出る。
『あー。もしもしぃ?』
「くっくっく。余は全知全能の大魔王。ベザルオールである。そちらの事情は理解している。既に金の用意も滞りない」
『マジっすか!? いやー! 助かりますわ! さすが、大魔王? なんか分かんねぇっすけど!』
「くっくっく。時に卿。どう聞いても声が男のものなのだが。ご夫人はどうされた」
『あぁ? ああっ! ご夫人ね! あの、アレですわ! ちょっと具合が悪いらしくってぇ! オレが代行してるんすよ!!』
「くっくっく。なるほど、筋が通っておる。では、卿と交渉をしよう」
と、ここでアルゴムが謁見の間に戻って来た。
そして、自分の敬愛する大魔王がなんか普通に架空請求詐欺に引っ掛かっており、コルティオールを救った男も隣で神妙に頷いている事実に絶望した。
彼は部屋を飛び出し、モルシモシを使って春日大農場に緊急連絡を入れる。
「どうか、鉄人様がおいでになられている事を……!! 私は神に祈る!!」と、沈痛な面持ちでアルゴムは応答を待った。
『はいはい! どうもー! アルゴムさんですか? 僕、鉄人です! なんか、みんな忙しいみたいで! ご用件聞いときますね!』
アルゴムは感涙しながら、鉄人の事の次第を説明した。
それをすぐに全て理解して、「ちょっと待っててくださいね! 対処してからそっちに飛んでいきますから!!」と告げるニート。
15分後に、文字通り春日鉄人が魔王城に空を飛んできた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
頼りになる男がやって来た事を歓迎する2人。
鉄人は「ちょっと電話代わってもらえる? 僕が話した方が早いと思うんだよね!」とにこやかに応じた。
「あ、もしもし? お電話代わりました! お金ですけどね、すぐにお渡ししたいので、待ち合わせの住所を教えて頂けます? はい、ああそうですか! 意外と近くで助かります! じゃあ、すぐにうちの者に向かわせますので!!」
電話を切ると、自分のスマホで新たな電話を始める多忙なニート。
「あ。鬼窪さんですか? 住所、スマホに送っておきましたんで! あとはよろしくお願いします! 後ろから聞こえてた雑音から察するに、どこかの事務所にいるみたいでしたから、受け子を泳がせたら一網打尽にできるかもです! はい、はーい! お願いしまーす!!」
何もかもを済ませた鉄人は、笑顔で兄と大魔王に告げる。
「2人のおかげで、世の中が綺麗になるよ! いや、さすが! 2人とも心が清らかなんだから! 今度からは僕に教えてね! こういうのは、僕が対処した方が早いからさ!!」
「くっくっく。流石は春日鉄人。現世とコルティオールを股にかける大賢者よ」
「ああ。俺の弟はすごいだろう。鉄人なしではもはや生活は成り立たん」
こののち、なんやかんやあって時岡市がまた少し浄化された。
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