第185話 春日未美香の体育祭を応援しに行こう!! ~何番煎じの未美香回~

 コルティオール。

 春日大農場では。


 本日の作業が終了し、従業員たちは皆が家路についていた。

 母屋には、農場の幹部たちが集められている。

 事業主が「全員。聞け」と号令をかけた。


「明日、未美香の高校で体育祭が行われる。時岡高校では、事前に申請しておけば応援に行くことが可能と言う、今時太っ腹な高校だ。とりあえず、寄付金を収めておいた。まあ、それはそれとしてだ。俺たちは未美香の応援に行くべきだと、そうは思わんか」


 かつて、未美香のテニス大会の応援を2度経験している彼らは「またこの時が来てしまった……!」と、何度タイムリープしても救われない未来しか待っていないのに強制的に時間遡行をさせられる気持ちになったと言う。


「既に鉄人が申請を済ませてくれている。俺と柚葉と鉄人は確定なのだが。やはり農場からも応援に駆けつけてくれたとあれば、未美香も喜ぶだろう。よって、今回は2人ほど選抜しようと思う」


 ギリーとブロッサムは「スリザリンは嫌だ」と組み分け帽子に祈るハリーポッターの心境をこの時理解した。

 基本的に人型ではない者が現世へ行く場合、酷い目に遭う事が多いのは統計上明らかになっている事実。


「わたしならいつでも行けるわよ!」

「お、おお! ミアリス殿ならば適役でござるな!!」

「た、確かに! ミアリスの姐さんなら、未美香嬢も喜ぶと思うぜ!」


 だが、黒助は首を縦に振らない。


「ダメだ。ミアリスには農場の指揮を執ってもらわなければならん。俺の代理が務まるのはミアリスだけだ。すまんが、頼めるな? ミアリス」

「くぅぅぅぅぅっ!! 呼吸を止めて1秒! 黒助が真剣な目でわたしを見たら! 何も聞けなくなるの! 星屑ロンリネス!! 任せといて!! 農場はわたしが守る!!」


 絶妙にギリギリを攻めるミアリス様。

 多分、ギリギリセーフである。


「まずは、ヴィネ。お前はまだ、未美香の応援団に加わったことがなかったな。すっかり健康体になったことだし、一度参加してくれないか」

「はぁぁぁぁっ!! あたいでいいのかい!? 未美香、迷惑じゃないかい!?」


「何を言う。迷惑な訳がないだろう。ただ、鉄人から注文があってな。なるべく清楚な服で来てほしいとの事だ。よく分からんが、男子生徒が暴徒になりかねんらしい。後はイルノに任せれば良いとも言っていた。問題ないか、2人とも」


「すまないね、イルノ。またあたいが手間を取らせちまって」

「任せてくださいですぅー。ぶっちゃけ、ミアリス様やセルフィさんに比べたらヴィネさんのコーディネートなんてイージーモードですぅー」


 ミアリスが「じゃあ、下着はわたしに任せといて!」と親指を立てる。

 イルノは満面の笑みで女神に意思を伝えた。


「お気持ちだけで結構ですぅー。と言うか、ヴィネさんは何を着せても胸が暴れん坊将軍なので、明日はコルセットでも付けて少しでもおっぱいの暴動を押さえるですぅー」

「うっ……。なんだか、本当にすまないね……」


 残る1人も黒助は既に決めていた。

 指名はスムーズに行われる。


「じいさん。どうせ明日も暇だろう。あんたも来い」

「くっくっく。まさかのご指名にきゃぱい。余が行っても大丈夫なのか。全知全能の大魔王でも女子高生の体育祭については分からぬ」


「じいさん。未美香の高校は共学だ。あと、仮に女子高だったとしてもじいさんが来たからと言って嫌な顔をする者はいないだろう」

「くっくっく。喜んでいいのか悲しんでいいのか分からなくてぱおん。だが、未美香たんの晴れ姿を応援できるとはこの世に生まれた意味を知る時が余にも訪れたのかもしれぬ。くっくっく。よかろう、この大魔王ベザルオール、明日はポンポンを持参するとしよう」


 こうして、陣容が決定された。

 ブロッサムとギリーは心が軽くなった気がして、翌日の農作業では普段の3倍働いたのだが、それはまた別の話。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 時岡高校は学校行事に力を入れている高校であり、年に一度の体育祭と文化祭では凄まじい盛り上がりを見せる。

 また、体育祭の3週間後に文化祭が催されると言う割と過密な日程を採用しており、毎年この時期は生徒たちがやる気に溢れるらしい。


「わぁー! みんな、来てくれたんだー!! ヴィネさん! ありがと!!」

「あたいの方こそお礼を言わなくちゃだよ。未美香を応援できる日が来るなんて。これまで逝っちまわなくてよかったよ! 精一杯の声援を送るからね!」


「ベザルオールさんも来てくれたんだぁ! 嬉しい! 今日は結構暑いから、しっかり水分補給してね! お兄、ちゃんと面倒見てあげてよー!」

「くっくっく。体操服姿の未美香たん、エモすぎん? これはもう、性的な目で見る者がどうかしておる。天使は天使。もはや天使。何を言っても天使よ」


「じいさん。大丈夫か。もう既に熱中症の症状が出てないか。言語が怪しくなるとか、結構クライマックスのヤツだろう。いいからもう横になっておけ」

「くっくっく。気遣いは無用。未美香たんのためならぱ、余は死ねる」



 2000年の時を生きる大魔王の寿命が唐突に尽きようとしている件。



 なお、鉄人が未美香の体操服の感想を長文で述べたシーンは柚葉の無言の腹パンでカットされた。

 柚葉さんも大学生になって、清楚とアグレッシブさが共存してきている。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 体育祭はつつがなく進行し、午前の大一番。

 借り物競争がやって来た。


 未美香も出場するため、一同の応援にも熱が入る。

 号砲と共に先頭を奪った未美香は、カードを見てから一直線に春日家応援団の元へ走って来た。


「ベザルオールさん! 来て来て! お題にぴったり!!」

「くっくっく。……マ?」


 未美香が見せたカードには「元気なお年寄り」と書かれていた。

 黒助が力強くベザルオールの肩を叩いた。ほとんど肩パンである。


「じいさん。やれるな?」

「くっくっく。然り。この大魔王ベザルオール。農業で鍛えた足腰を見せる時は今よ。参ろう、未美香たん。目指すは地球の一等賞である。くっくっく」


 その後、未美香の身体能力にしっかりとついて行くフィジカルを見せたベザルオール様。

 見事なストライド走法を見せた大魔王の雄姿に、観客たちが沸き上がった。


 それから昼休みになり、全員で柚葉の作ったお弁当を食べる。


 珍しく脚を露出するショートパンツ姿の柚葉。

 体操服と言う聖衣を纏った未美香。

 全然おっぱいの暴動を押さえられていないヴィネ。


 この3人が集まるだけで男子生徒や応援に訪れたお父さんたちの視線が集まり、それを察知する鉄人、迎撃するベザルオール。

 写真を隠し撮りした輩を最強の肉体の解放をもって追いかける黒助。


 高校二年生の体育祭は1度きり。

 良い思い出になったのか否か。


 それは、未美香の笑顔を見れば答え合わせの必要もないかと思われた。

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