第184話 ジャガイモ軍とサツマイモ軍の仁義なき戦い

 コルティオールのとある山脈。

 魔王城では。


「ベザルオール様! お耳に入れておきたい事がございますれば、宸襟を騒がせ奉りまことに申し訳ございません!!」

「くっくっく。良い。申してみよ、ガイルよ。あと、卿は当分の間レクリエーションは企画しないで。マジで。もうまぢで」


「ははっ! レクリエーションの第二弾もご期待ください!!」

「くっくっく。卿、戦争が終わってちょっとアホになったんじゃない。昔の卿はもっと賢かったと思うの。……して、いかがした」


「魔王城にて、争いが起きております! このままでは内乱に発展する恐れが!!」

「くっくっく。それは聞き捨てならぬ。原因を伝えよ。場合によっては余、自らが出ようではないか」


「ははっ! なんと頼もしいお言葉! 実は、先日から魔王軍食堂の希望メニューアンケートを取っておりまして」

「くっくっく。話が見えぬ」


 ガイルは謁見の間で主にベザルオール様がアニメ鑑賞に使っているプロジェクターに、件のアンケート結果を投影させた。

 それをレーザーポインタで指しながら、彼は続ける。


「ご覧ください! 1位がじゃがバター! 2位が大学芋!! その差、わずかに2票!! 食堂のおやつが原因で、このままではコルティオールに再び戦争が起きてしまいます!!」



「くっくっく。余の忠臣がみんな結構な勢いでバカになっててワロリンヌ。ちょっと前まで1500年以上も戦争しておった組織とは思えぬ。平和でいいじゃない」

「事態を重く見たアルゴムが、既に春日大農場へ来援を乞う通信を入れております!!」



 ベザルオール様は嘆いた。

 「くっくっく。……マ?」と言った大魔王は、「くっくっく。また春日黒助に怒られる」と頭を抱えたと言う。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 2時間後。

 飛竜がやって来た。


「こんにちはー。春日柚葉ですー。アルゴムさんからお話を聞いて伺いましたー」

「ベザルオールさん、やっほー!! 春日未美香もいまーす!!」


 大魔王ベザルオール様、表情が一瞬で明るくなる。

 パァァッと言う擬音がそこかしこから響いたと言う。


「くっくっく。当たりを引いたか。よもやの柚葉たんと未美香たんキタコレ。確実に春日黒助にくだらん事で呼ぶなとキレられる展開だと思っていたゆえ、これは嬉しいサプライズ」


 だが、喜びと言うものは一瞬である。

 喜びは次の哀しみを呼ぶと言う事をベザルオール様は忘れていた。



「おい。じいさん。しょうもない事で緊急連絡してくるな」

「くっくっく。……oh」



 考えても見て欲しい。ベザルオール様。

 春日黒助が、妹たち2人だけで魔王城に向かわせるとお思いか。


 この男、はじめてのおつかいを2人に許したのが中学生になってからと言う過保護に過保護の服を着せたモンスター過保護である。

 もはや、ついてこない理由を知りたい。


「まあ、イモは美味いからな。論争が起きるのは分かる。だが今度からはスマホに連絡しろ。モルシモシがいきなり鳴くと、ミアリスやイルノが驚くから困る。あいつ、なんであんなに不吉な声で鳴くんだ。品種改良しろ」

「くっくっく。生き物の多様性をまったく認めようとしないその態度。さすがはコルティオールを平和に導いた男よ。物理のみで」


 ガイルの案内により、謁見の間に通された春日兄妹。

 なお、鉄人はギャルとデートのため欠席である。


 最近デートしてるかコルティオールで活躍してるかの2パターンしかない春日鉄人。

 彼はどこへ向かおうとしているのか。


「ほう。これが話に聞いたアンケートか。それにしても、面白い試みをしているな。従業員の意見を広く取り入れる姿勢は評価できる。やるな、じいさん」

「くっくっく。余は特に何もしていないし、何ならアンケートの存在もさっき知ったところなのだが、ここは黙ってしたり顔で頷いておこうと、ベザルオールはベザルオールは考えてみたり」


 未美香が感想を述べる。


「じゃがバター美味しいもんね! でも、大学芋も美味しいよね!!」

「くっくっく。既にオチと思われる意見を未美香たんがフライングで口にしてて草。これでどうやって落とすのか。全知全能の余にすら想像がつかぬ」


「じいさん。お前たちが頑張っている事はよく知っている。だが、やはりまだ青いな。どうしてジャガイモとサツマイモを分けなければならんのだ。まず、じゃがバターと大学芋をどちらも常設メニューにしろ」


 どんどん本質を突いて行く春日家。

 だが、ガイルが手を挙げる。


「どうした。ガイル」

「はっ! お許しを得て申し上げます!! 既に、魔王軍の中ではジャガイモ軍とサツマイモ軍が睨みあいを始めておりまして、争いは避けられない段階まで来ております!!」


 黒助は「なるほどな」と言ったあと、ベザルオールに向かって確認をする。



「お前らはアホなのか?」

「くっくっく。ホントそれな。余も重々承知しておる。ちょっと恥ずかしい」



 そこで腕まくりするのは、我らが春日柚葉さん。

 嫁力最強の乙女が立ち上がる。


「私に任せてください! そうですねぇ。んー。では、今から2時間後にその争っている方たちを食堂に集めてもらえますか? 本当のお芋の共演を食べさせて差し上げます!」


 柚葉さん、美味しんぼみたいなセリフを急に口にする。

 だが、黒助が実に満足そうに首を縦に振っているので、ツッコミをすること叶わず。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 2時間が経ち、魔王城の食堂には総勢200人のお芋戦争に参加している者が集まっていた。

 既にそんなしょうもない理由で200人が争っていると言う事実は、ベザルオール様の表情を暗くする。


「それでは、こちらをどうぞ! 食堂の皆さんが2時間でやってくれました!」

「くっくっく。柚葉たんがちょいちょいオタクなセリフを発してて萌える」


「はい? ベザルオールさん、何か言いました? オタクって、鉄人さんの事ですよね?」

「くっくっく。いいえ。何も言っておりません」


 未美香が至高の一皿を持って来て、魔王軍の野郎どもが集まる食堂の中央でそれを掲げた。


「じゃじゃーん!! お姉特製!! ジャガイモとサツマイモのほくほくグラタンだよっ!!」


 魔王軍が「おおおおっ!!」とざわつき、戸惑い、歓喜の声を上げる。

 柚葉が料理の紹介をして、トドメを刺すらしい。


「これは、サツマイモの甘さとジャガイモの食感を活かしたお料理なんですよ! どちらもホワイトソースとの相性も抜群! 一品だけでも満足感のある食べごたえなので、お仕事のあとにもちょうど良いんです! さあ、たくさんありますから、食べみてください!!」


 その後の顛末を語る必要があるのだろうか。

 多分ないだろう。


 魔王軍の者は皆、春日柚葉が現世より持ってきた魅惑のレシピに酔いしれ、感涙し、争いをやめた。

 先ほどまでいがみ合っていた者たちが手を取り合う姿を見て、ベザルオール様は感想を述べられる。



「くっくっく。しょうもなさ過ぎて草。だが、柚葉たんの手料理を食べられる。それで全てがオッケーです」



 なお、ベザルオール様が食べたグラタンを作ったのは、オークの給仕であった事をここに付言しておく。


 今日も魔王城は平和であった。

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