第180話 男たちの男たちだけの男祭 ~コルティオールに温泉を作った男たちの挑戦~

 今、コルティオールで最もホットな話題。

 それは、温泉である。


 ミアリスとヴィネ、そして春日家の義妹たち、柚葉と未美香が相次いで黒助と混浴した事により、彼女たちが語る「温泉の魅力」はでっかい尾鰭が付き、コルティオール全土に「温泉と言うものがヤベーらしい」と伝わって行った。


 そこで、動き始めた男たちがいた。

 これは、コルティオールに温泉(男湯)を作った男たちの、挑戦の歴史である。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 とある山脈。

 魔王城にて。


「くっくっく。感謝するぞ、春日鉄人よ。余のメジロドーベルちゃんが見違えるほど速くなった。賢さが足りておらぬとは、盲点であったわ」

「ベザルオール様は1キャラに特化して育成するんですね。チャンピオンズミーティングで困りません?」


「くっくっく。チャンミは愛で勝つ。そのためならば、魔改造も厭わぬ」

「ひょー! さっすが大魔王! 言うことが違うなぁ!!」


 鉄人は魔王城に招かれていた。

 ベザルオール様とウマ娘の話をするためにではない。


 謁見の間には、狂竜将軍・ガイル、鬼人将軍・ギリー、魔獣将軍・ブロッサム、火の精霊・ゴンゴルゲルゲが集まっていた。

 彼らに乞われる形で、鉄人は招集に応じたのである。


「温泉を作りたい、ですか?」

「そうなのだよ。コルティオールの女子の間で温泉が流行っている事は、鉄人殿もご承知のはずなのだよ」


「はいはい。知ってますよ。セルフィちゃんが連れて行けって毎日言ってくるんで!」

「あまりにも良い噂しか聞かぬものだからね。部下たちが興味を持ってしまい、ついには嘆願書まで提出して来たのだよ。これは無視できない」


 続けて、ゴンゴルゲルゲが口を開く。


「鉄人様。実は、農場の従業員の間でも温泉に入ってみたいという者が多くおりまして。ですが、魔王城も農場もですが、ヤツらは人間から見れば異形の者。とても現世には行けませぬ。ワシがギリギリ行けるレベルですゆえ」



 ゴンゴルゲルゲはギリギリどころか、余裕で行けない側に立っている自覚をせよ。



「なるほどー。それで温泉を作ってしまおうと! そういう訳ですか!」

「くっくっく。然り。余は卿らと共に温泉旅行へ行ってしまっておる手前、部下たちが何やら恨めしそうに見つめてくる回数が激増しても苦言を呈する事すら叶わぬ。はいはい、いいですよね大魔王様は! 本場の温泉に入られましたもんね!! このくそジジイ!! と言われるのではないかと、内心震えておる」


 ブロッサムとギリーも発言する。


「工事はオレらがやりますんで! ほら、前にプール作った時の要領で!」

「しかし、吾輩たちには温泉の知識が足りぬのでござる。そこで、鉄人殿にお知恵をお借りしたいと……。鉄人殿?」


 鉄人は持参したノートパソコンをカタカタターンとやって、なにやら図面を表示させた。

 続けて、彼は言う。


「こんな感じでどうですか? とりあえず、基礎工事から作るとして設計図を組んでみました。源泉はコルティオールって火山もありますし、探せばどこかにあると思うんですよね。素材はミアリスさんに上手いこと頼んで創造してもらいますから、僕に任せてください。せっかくですから、大きくて一度に100人くらい入れるものがいいですよね!」


 鉄人の万能っぷりに、今さらながら閉口するコルティオールの男たち。

 だが、鉄人は涼しい顔で言う。


「ニートって時間だけはありますからね! できない事を1つずつ埋めていくのも楽しいですよ! ゲーム感覚で! 図面は一応、プロの建築士の人に習ったんでそれで大丈夫だと思います! えっ? 出会いですか? スーパー銭湯で会って、話が弾んじゃって!! ご飯まで奢ってもらって! いい人だったなぁ!!」


 こうして、男たちの温泉づくりが動き始めた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ベザルオールとアルゴムがタッグを組んで、地脈の調査を開始する。

 3日ほどで、「くっくっく。源泉を発見した」と胸を張った大魔王。


 そうなると、話は早い。

 鉄人がミアリスに頼んで、資材を大量に創造してもらう。


 彼は「兄貴と一緒に映画でも見に行ったらどうですか!」と言って、用意しておいた映画のチケットと遊園地のチケット、そして時岡グランドホテルの宿泊券を女神に全て差し出した。

 ポイントは「映画と言っておいて欲張りパックを提供するところですね!」とウインクする鉄人に弟子入りしたいと言う魔族が続出したと言う。


 並行して、ギリーとブロッサムが地盤を固め、基礎の工事を仕上げる。

 彼らはプール造りで土木作業のノウハウをマスターしており、淀みのない手際を見せた。


 2週間ほどで建物が完成し、いよいよ源泉からお湯を引っ張ってくる段階に差し掛かる。

 ここで活躍するのは、火の精霊・ゴンゴルゲルゲ。

 彼の管轄にはお湯も含まれていたらしく、不純物を取り除きいい塩梅のにごり湯を生成する。


 最後にもう一度ベザルオール様。

 永続的に湯が沸き出るように、地脈に魔力核を植え付けた。


 こうして、コルティオール温泉は完成したのである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 落成記念の日。

 春日黒助も招かれて、男だらけの温泉パーティーが開催された。


「驚いたな。俺に内緒でこんなことをしていたとは」

「くっくっく。鉄人の活躍あってこその結果よ。卿は実に良い弟に恵まれておる」


「いやー! 気持ちいいっすね! 温泉! こりゃあ姐さん方も夢中になるはずだ!」

「吾輩、コカトリスの卵を持参したでござる。温泉卵なるものを作ってみようかと考えたでござるよ」


「これは確かに良いものなのだよ。竜の肌にも染みるのだよ」

「ガイル様、お願いですから先に体を洗ってきてください。鱗になんか色々付いてます」


 そこに鉄人が遅れてやって来た。

 傍らには、力の邪神・メゾルバと無色の亀・ゲラルド。


「いやー! すみません、遅れちゃって! お二人がどこにいるのか分からなかったので、大陸を2つほど移動して探してました!」


「くははっ。よもや、我を忘れておらぬとは。弟君のご慧眼には恐れ入る」

「私は下手をすると、初めて忘れられなかったかもしれません。もうほとんど透明なのに」


 こうして、男たちは「温泉づくり」と言う名の祭を完遂したのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃、春日大農場の母屋では。


「いいわね? このことは、絶対にわたしたちだけの秘密よ!」

「了解だし! 言うわけねーし!!」

「あ、あたいは、なんだか罪悪感で胸が痛いよ……」


 ミアリス様の創造による「透視の水晶」の力で、コルティオール温泉をがっつり覗いている乙女たちがいた。

 「風呂を覗くのは男の仕事だといつから錯覚していた?」とは、コルティオールを統治する女神様のお言葉である。


 なお、この後普通にバレて黒助に叱られる乙女たち。


 コルティオールは今日も平和であった。

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