家の倉庫が転移装置になったので、女神と四大精霊に農業を仕込んで異世界に大農場を作ろうと思う ~史上最強の農家はメンタルも最強。魔王なんか知らん~
第178話 ニート彼氏に浮気の疑惑をかけて、勝手にヤンデレみたいになるギャルの相手をするイルノさんが実は最も病んだというお話
第178話 ニート彼氏に浮気の疑惑をかけて、勝手にヤンデレみたいになるギャルの相手をするイルノさんが実は最も病んだというお話
コルティオール。
春日大農場では。
「だからさー。聞いて欲しいし。鉄人ってばさー。すぐウチにやらしー服着せようとするし。しかも独占欲強いから、僕の前だけで着てよ! とか言ってくるしー。もーオタクってみんなそうだし? あー。もう、束縛されるのって辛いしー。イルノ、聞いてる?」
「聞いてるですぅー。もう1時間も同じ話題を聞いてるですぅー。ミアリス様とヴィネさんがトイレに行くって言ったきり帰ってこない件に関しては、後でお話しするですぅー」
イルノさんが今日も頑張っていた。
彼女は愛するトマトちゃんたちのお世話で忙しいのに、コルティオール恋する乙女組のお世話も忙しいと言う、二重生活を送っている。
うっかり母屋に休憩に来たのが運の尽きであった。
「くっくっく。イルノよ。そなたはまるで、名探偵コナンの安室さんのようであるな。農場にて農業を。母屋にて恋愛相談を。そして魔王城では食堂の運営に携わっておる。くっくっく。これがリアルトリプルフェイス。三刀流であるか。くっくっく」
「ベザルオールさん」
「くっくっく。いかがした?」
イルノはにっこり笑ってから言った。
「それ以上イルノを刺激したら、ぶっ飛ばすですぅー」
「くっくっく。怖すぎワロタ。余はしばらく、ウリネたんと遊ぶこととしよう」
ここまではいつもの母屋の風景である。
が、事業主のうっかりによって、イルノのストレス値が跳ね上がる事になる。
「おはよう。すまんな、種苗園に寄って来たら思いのほか時間がかかってしまった」
「おはようございますぅー。黒助さん」
「おはざーす。鉄人はいないし?」
軽トラで黒助が出勤してくるときは鉄人がドライバーを務める事が多い。
当然その事実を熟知しているセルフィは、未来の義兄に彼氏の居場所を尋ねる。
「ああ。鉄人ならな。途中までは一緒だったのだが、同級生だったと言う女の子から電話がかかってきたとかで、駅前で分かれたぞ。今頃はその子と一緒だろう」
「……面倒な話が来てしまったですぅー。黒助さんはそーゆうとこ、直してほしいですぅー」
それまで饒舌に彼氏自慢をしていたセルフィさん、黙る。
そのまま黙っていれば被害はないものの、そんな都合のいい事態はコルティオールでは発生しない。
「……ちょっと、ラインしてみるし」
「俺は田んぼの様子を見てくる。おっ。ミアリスがいるな。感心な事だ」
「ミアリス様……。すぐ戻るって言ったのに、田んぼにいるのはどういう事ですぅー?」
黒助が去って行って、母屋にはセルフィとイルノ、ウリネにベザルオールと言うメンツが残った。
あまりにもイルノにとって味方がいない布陣。
「……既読ついたのに返事ないし」
「誰かとお話している時にはラインが来てもお返事しないのがマナーですぅー」
「普通、彼女からのラインを優先するし? どこぞの訳のわかんねー女との会話と、彼女からのライン、どっちが大事か考えるまでもねーし?」
「何言ってもあかんヤツですぅー」
「……よし。ちょっとエッチな自撮り送るし」
「もうこの暴走列車は止まらないですぅー。そもそも、『鉄人』ってフォルダにセルフィさんの自撮りが山ほど格納されてる件について、そこはかとない地雷臭がするですぅー」
セルフィは無表情で画像を選んでいたが、自分だけのチョイスでは決定打に欠けると感じたのか、この場で唯一の男子に声をかけた。
「……ベザルオール様は、好きなコスプレってあるし?」
「くっくっく。えっ? 余?」
男子と呼ぶには余りにもご高齢の大魔王。
先日、2000と何歳かのお誕生日を迎えられました。
「メンズの意見を聞きてーし」
「くっくっく。よもやのもらい火である。余はリゼロのレムたんを愛好しておるが、余の希望を言ったところで、すぐに用意できるものでもあるまい」
「あー。それなら、この前鉄人が持ってきた荷物の中にあったし。確か、写真も……。うん。あるし。んじゃ、送信するし」
「くっくっく。あるんだ。マ?」
それから3分後。
「……既読ついたのに返事がねーし。……ベザルオール様さー」
「くっくっく。余は魔力においてコルティオール随一を誇る大魔王よ。浮遊魔法。『フライングゲット』……。ちと、太陽を目指して参るゆえ、失礼する」
かつて、太陽を目指したイカロスは羽を焼かれて墜落したが。
ベザルオール様はどこまで飛んでいけるのだろうか。
「……もう分かったし。直電しかねーし」
「一般的な常識論を言わせてもらえるとですぅー。既読がついて返事がないと言う事は、電話かけても出てもらえないと思うですぅー」
「わ、分かんねーし! ウチのこと愛してたら、すぐに電話にだって出てくれるし!!」
「もはや想定通りのリアクションだったですぅー。重いですぅー」
ちなみに、鉄人は電話にも出なかった。
それからセルフィはぶつぶつと呪詛のようなものを唱えながら、母屋の畳の目を数え続けていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
昼時になると、渦中の男がノコノコやって来た。
プロニートはタダでお昼を食べられる場所を20か所は把握しているものである。
「あらー! セルフィちゃん! どうしたの? なんかご機嫌斜めな感じ?」
「……なんでウチのこと、無視するし?」
「あ、ラインのこと? ごめんごめん! 同級生の子と会っててさ! ちょっと相談に乗ってたんだよね!」
「う、浮気の常套句だし!! もうヤダ、無理。鉄人殺してウチも死ぬし」
「なんかね、その子が今度結婚するんだって! で、招待状を同級生に出したいからって、連絡先を色々と教えてたんだよね! 途中でセルフィちゃんのコスプレ画像来た時はびっくりしたよー! でもね、その子も可愛い彼女だねって言うからさ! ついつい自慢しちゃった! 他の画像も見せちゃったけど、良かったかな? あっはっは!」
「……もぉ! そういうことなら先に言えし! ……好きっ!!」
その様子を見ていたイルノさんの瞳から、光が失われていった。
休憩に帰って来たミアリスがそんなイルノと遭遇し、全力で逃げようとしたがあえなく捕まる。
続けて、イルノに「どうして裏切ったんですぅー?」とガチ目の尋問をされるのであった。
今回の1件で分かった事は、ヤンデレになるギャルは回復も早いが、そのヤンデレの相手をしていた病んだ水の精霊は回復に時間がかかると言う事実である。
ミアリスはお詫びとして、イルノを現世に連れて行きスイーツバイキングをご馳走する事を約束することで、どうにか許しを得ることができた。
という訳で、次回はイルノさんが現世へ行きます。
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