第176話 健康体になった死霊将軍・ヴィネ姐さん、満を持して現世へ行く!!

 コルティオール。

 春日大農場では。


「す、すまないね。ミアリス。それにイルノとセルフィも。あ、あたいの私事で迷惑かけちまってさ」


 早朝にも関わらず、コルティオール恋愛強者の3人がヴィネの家に集まっていた。

 理由は簡単。


 今日は、死霊将軍・ヴィネが初めて現世へ行く日なのである。


 先日、コルティオール浄化大作戦の最終工程に参加したヴィネ。

 そこで黒助に「温泉くらいならいつでも連れて行ってやる」と宣言されて、色々逝っちまいそうになった彼女だったが、「黒助は優しいからね。あたいなんかにもリップサービスしてくれるんだよ」と本気にしていなかった。


 が、その時は突然訪れる。

 では、短い回想シーンへ諸君をご案内しよう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 昨晩、春日大農場終業後の事だった。

 ヴィネの家を訪ねて来た黒助が、見覚えのある宿泊券を彼女に差し出したのだ。


「な、なんだい? これ? 時岡グランドホテル?」

「ああ。前に言っただろう。温泉に連れて行くと。このホテルには部屋風呂がある。そこなら気兼ねなく過ごせるかと思ってな。現世に行くのが初めてだから、他の人間がいると緊張するだろう。意外と繊細で優しいお前のことだ」



 鼻血を噴き出して逝っちまったヴィネ姐さんは、その後のことを覚えていない。



 黒助はミアリスを呼んで「なんかヴィネが倒れたから、後は任せた」と行って、春日家に帰って行った。

 事情を聞いたミアリスは、もちろん黒助を独占したい気持ちが強いため、一瞬ではあるがヴィネをこのまま顔に布でもかけて放置しておこうかと考えた。


 だが、創造の女神は思い出した。

 この死霊将軍は、これまで毒と腐敗属性と言う恋愛をするにはあまりにも重い足かせを付けられてなお、黒助の事を一途に愛していた事実。


 その恋心ひとつで魔王軍を裏切り、ブロッサムとギリーがヤンチャしていた頃には彼らの農場襲撃に際し、その身を挺して防いだことだってある。

 ミアリスは決意した。


 同じ男を愛したライバル同士、ヴィネだって思い出を作る権利があると。

 そうして同じステージに立ち、正々堂々と黒助のアレをナニする決戦を挑みたいと。


 そういう訳で、時計の針はリアルタイムと重なる。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ヴィネ姐さんのお出かけ服の選定が急ピッチで行われていた。


「ちょっと! ヴィネ! ダメよ、あんた! 全然ブラのサイズあってないじゃない!! ほら、今度はこっち付けて!!」

「や、だってミアリス……。あたい、下着なんて付けたことないから……」



「下着を付ける事を恥じらう前に、これまでノーバンノーブラだった事実を恥じらうべきだと思うですぅー」

「イルノってさ。最近は息をするように毒を吐くし。ヴィネから毒属性引き継いだんだし?」



 ミアリスに「ちょっとイルノ! わたしの勝負下着から大きいサイズ持って来て!!」と言われたイルノは「もうここにあるですぅー」と手回しが良い。

 彼女にとってこの手の騒動はミアリスとセルフィのせいで、お腹いっぱいなのである。


「あっ! キター!! これならヴィネのやたらと大きい胸も収まるわよ!! あとは色ね! んー。黒はなんか似合いすぎだし。白は逆に狙いすぎ? セルフィ、意見ちょうだい!」

「やー。ウチはそれより、ミアリス様が自分のサイズよりも2つも大きいサイズのブラを山ほど持ってることが気になるし」



「そんなの! ……黒助に揉まれてたら、成長するかもしれないからよ。ばかっ」

「いや、照れながら言ってもごまかされねーし。仮に揉まれる事で大きくなるとしても、2つもカップ上がったら事件だし」



 自分だって恋愛脳に支配されているくせに、ミアリスを相手にするとなんだかちょっと見下してしまう、ニート彼氏を独占していることで余裕のあるセルフィさん。

 彼女は「まあ、ピンクか緑とか、その辺が無難だし」と一応意見を述べた。


「うぅ。なんだろうね、恥ずかしいったらないよ……」

「まだこれからよ! はい、服着て! イルノが見繕ってくれたから!! この子、何故かスタイリスト並みに服を選ぶの上手くなってるの!!」


「原因はだいたいミアリス様ですぅー。セルフィさんもそこそこ面倒ですぅー」

「あ、ごめんなさいだし。いつもお世話になってるし」


 イルノのチョイスしたデート服は、ロングスカートのワンピースにカーディガンと言う、普段売るほど乳出しているヴィネにとって真逆のイメージであった。

 懐疑的になりながらもとりあえず彼女に服を着せたミアリス。


 しかし、女神に電流走る……っ!!


「うわぁ……。なにこれ……。コーデはすっごく清楚なのに。なんていうか、エロい……」

「ヴィネさんは褐色系巨乳お姉さんと言う完成されたキャラなのですぅー。そこをアピールしても、みんな知ってるんですぅー。それなら、エロさを隠した方が戦闘力はアップすると思うですぅー。パンチラよりもギリギリ見えないミニスカートの方がエロい理論ですぅー」


 セルフィは静かに恐怖した。

 「イルノが本気出したら、コルティオールの恋愛勢力図がひっくり返るし……!!」と。


 その日から水の精霊に対して親切になる風の精霊であった。

 こうして、ヴィネは慣れない服でぎこちない足取りのまま現世へと出かけて行った。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 既に待っていた黒助に軽トラに乗せられ、そのまま時岡グランドホテルへ。

 ルームサービスでブランチを取ったら2人でしばしまったり。


 春日黒助。

 相変わらず彼からは欲望が欠片も感じられないが、着実に女子の相手がこなれてきている。


「ヴィネ。聞くが、その服」

「あ、え、あの。や、やっぱり変だよね。あたいもさ、キャラじゃないと思ったんだけどね。ミアリスたちが一生懸命になって選んでくれたからさ……」


「いや。良く似合っているぞ。普段のお前も活動的で良いと思うが、そういうおしとやかな恰好も悪くない。お前はスタイルが良いから、どんな服を着ても女性らしさは損なわれんしな」

「は、は、はぁぁぁぁっ!! もう、もう逝っちまいそうだよ!! 帰りたい!! このままじゃ、あたいはどうかしちまうよ!!」


 黒助は「楽しそうで何よりだ」と言って、おもむろに服を脱ぎ始めた。


「はぁぁぁぁぁ!? ちょ、えっ、ちょまっ!? なんで全裸になるんだい!?」

「いや、風呂に入るからだろう。ああ、お前はこれまで毒を纏っていたから風呂について知らんのか? 服を着たままでは湯に浸かれんのだ」


「そ、そりゃ、分かってるさ」

「そうか。そう言えば、イルノが出した特殊な水で体を洗っていたな、お前は」


 ヴィネ姐さん、既に湯上りのように真っ赤になる。


「よし。では、約束通り温泉に浸かるぞ。ヴィネ。とっとと服を脱げ」

「はぁぁぁぁぁっ!! なんだい、これぇ!! あたい、多分これから死ぬんだね……!!」


 そのまま全裸の黒助に部屋風呂へ連行されるヴィネ。

 どうにか必死の抵抗でバスタオル着用だけは許してもらったが、緊張のあまり温泉の感想は記憶から消えたらしい。


 このあと、めちゃくちゃイチャイチャした。

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