第175話 力の邪神と亀(解任済み)の「コルティオール浄化大作戦」 ~最終工程。最強の魔力と最強の物理の共演再び~

 コルティオール。

 春日大農場では。


 「コルティオール浄化大作戦」の進捗状況を聞くために、黒助がメゾルバとゲラルドを呼び出していた。

 彼は2人に「柚葉が作ってくれた牛乳寒天だ」と言って、まずお菓子を差し出した。


「くははっ。我は邪神ゆえ、このように白くてプルプルしたものなど口にはいたしまうわぁ! おいしー!! これおいしー!! これぇ!!」

「ああ……。ほのかに感じられるあの娘の香りが……。きっと、私の事を思って作ってくれたのだ……」


 黒助はとりあえずまた少し桃色になって来たゲラルドにビンタする。


「うちの妹で気持ちの悪い妄想をするな!! おらぁぁぁ!!」

「あべぇあぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 再び無色透明になった亀を見て、メゾルバは「これまでの我の立ち位置が奪われて、少し寂しく感じるのは何故か」と複雑な心境を抱いたと言う。


「それで。メゾルバ。聞くが、計画はどうなっている?」

「くははっ。順調である。魔王軍からもガイルが出向してきておるゆえ、主には良き報告ができるかと」


「そうか。ヴィネに聞いたのだが、もう既にコルティオールの9割を浄化して回ったらしいな?」

「死霊将軍め、余計な事を主に告げ口しおって。全てが終わってから報告するサプライズが台無しではないか」


 結構な勢いで俗な感じに染まっていく力の邪神・メゾルバ。

 ついに彼はサプライズを覚えた。


「いや。充分に驚いている。俺の中では1年以上かけるくらいの見積もりだったのだが。まさか、たったの2か月で結果を出すとはな。残った場所はどこだ?」

「はっ。ペコペコ大陸の南東部である。かの地の毒はあまりにも強力で、さすがに我らも時をいささか必要とする次第」


 黒助は「なるほど。聞いていた通りだな」と頷いて、情報提供者を呼んだ。


「おい。じいさん。こっちに来てくれ」

「くっくっく。牛乳寒天にみかんではなく、キウイフルーツを入れる発想。柚葉たんの嫁力高すぎ問題。卿は良き妹に恵まれておる。正直うらやますぃー」


 今日も普通に母屋にいるベザルオール様。

 ウリネと遊ぶために、魔王農場はアルゴムに任せて来たらしい。


「じいさん。あんたが何百年か前にむちゃくちゃやらかした場所が、このペコペコ大陸の端だな?」

「くっくっく。然り。時の女神が強大であり、余はノワールと共にかの地で1週間にわたる戦闘を行った。その結果、毒が地盤に馴染んでしまったのであろう。余は猛省しておる。ガチしょんぼり沈殿丸」


 黒助は「よし。話は分かった」と言って、立ち上がる。

 メゾルバが「どうなさるのか? 我が主」と牛乳寒天を食べながら問いかけた。


「お前たちはよく働いてくれた。従業員ばかりに大変な仕事をさせているようでは、事業主として恥ずかしいからな。あとは俺とじいさんに任せろ。それから、人と話す時はお菓子を食うな」

「くははっ。よもや、英雄と大魔王様が出張られると申すか? それにしても、実に美味。手が止まらぬ」



「お前は数秒前に聞いた話を忘れるのか!! このバカタレが!!」

「ぎゅぅぅぅぅぅぅんっ!! く、くははっ。激痛に交じるこの懐かしさよ。ぐふっ」



 力の邪神と無色の亀の役目はここまで。

 あとは、2つの農場のトップが仕事をこなす。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 黒助とベザルオールが飛竜に乗って1時間半。

 ペコペコ大陸が見えて来た。


「見るからに色の悪い土地だな。聞くが、じいさん。あの大陸には生き物がいないのか?」

「くっくっく。ノワールの放った毒によって完全に汚染されておるゆえ、毒に相当な耐性がある者でなければ半日もせぬうちに命を落とすであろう。まぢ反省してる」


「まあ、何百年も前の罪を今さらどうこう言うつもりはない。俺は生まれてもいないからな。ところでヴィネ。どうしてそんな端にいる? 飛竜から落ちるぞ。さっきから心配で仕方がない」

「は、はぁぁぁぁっ!! さり気ない言葉にたっぷり含まれてる優しさ!! 逝っちまうねぇ!! この前、柚葉と未美香に温泉の話を聞いてさ。ちょ、ちょっと刺激が強かったせいで、なんだか黒助の顔を見ると、想像しちまってね……」



 ヴィネ姐さんはエロい恰好をしているが、毒に覆われていたためこれまでの人生で男女交際をした経験はない。ピュアなエロいお姉さんなのである。



「なんだ。ヴィネも温泉に入りたかったのか。早く言え。今度、連れて行ってやる。そうだな。背中くらいは流してやろう」

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」


 ヴィネ姐さん、ついに飛竜から落ちる。

 鼻血を噴きながらの転落事故であった。


「何をしとるんだ、あいつは。じいさん。頼む」

「くっくっく。今のは卿が悪いと思うが。何にせよ、余が同行しておって良かった。『フライングゲット』……。くっくっく。ちなみにこの魔法の名前は最近変えた。由来を聞くか? 春日黒助よ」


「いや。いらん」

「くっくっく。ぴえん」


 救出されたヴィネにペコペコ大陸の毒の鑑定を任せた黒助。

 ヴィネは鼻血を垂らしながらも、完璧な仕事で期待に応える。


「かなり強いね。これは、あたいでも数日はかかるよ。神経に作用する毒から毒の魔力まで、ものすごい種類の毒素が蓄積されてるね」

「くっくっく。やはりか。では、春日黒助。計画通りに始めるとしよう」

「ああ。そうだな」


 恐らく毒の浄化には強力な魔力と、それを打ち消す力が必要になるだろうと察していた大魔王と救国の農家。

 まず、ベザルオールが『フライングゲット』で全ての毒素に干渉し、それらを浮遊させる。


「さ、さすがだねぇ……! ベザルオール様!! まさか浮遊魔法で毒まで浮かせちまうなんて!! こんな芸当、大魔王にしかできやしないよ!!」

「くっくっく。美人に褒められるのはいくつになっても嬉しいものよ。では、これを1か所に凝縮させる。ぬぅん。春日黒助よ。このくらいで良いか」


 大陸を覆っていた毒素が、2トントラックのタイヤサイズにまで圧縮される。

 その内包しているエネルギー量は凄まじく、常人ならば近づくだけで命を落とすだろう。


「ど、どうするんだい? 黒助?」

「ああ。考えたんだがな。屁をした時に手であおぐと匂いが消えるだろう? その要領で毒も消せるのではないかと思ったんだ。ちょっと行ってくる」


 そう言うと、空中を走って勢いをつけた黒助は毒の塊に向かって拳を振るった。

 何発、何十発、何百発。

 ついに数えきれないほどの殴打を加えられた毒の塊は「生まれてきてすみませんでした」と申し訳なさそうに消滅していった。



「くっくっく。相変わらず理屈も原理も言ってること全てが理解不能過ぎて草。それで結果を出すところがマジヤバみ」

「はぁぁぁぁっ! なんて力強さ! 乱暴なところも逝っちまいそうだねぇ!!」



 こうして、コルティオール浄化大作戦は完了した。

 いつかこの世界に再び人間が誕生する時に、すぐ農業従事者になれる環境を整えるためならば助力は惜しまない春日黒助。


 彼は英雄としてではなく農業の伝道者としても、のちのコルティオールの歴史に名を刻むのである。

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