第168話 春日黒助ハーレムの乙女4人による闇のゲーム!!

 日が暮れた後の春日大農場。

 従業員たちは皆、自分の家に帰り疲れを癒している。


 この日は柚葉と未美香も遊びに来ており、彼女たちが「ちょっと用があるから、遅くなってもいい?」とたった今、黒助に聞いたところであった。


「ああ。構わんが。もう魔王軍がどうこうと言ったこともないしな。しかし、夜更けに女の子だけで何をするんだ? よし、俺もついて行こう」


「あ。兄さんのお気遣いは嬉しいんですけど、今日は大丈夫です!」

「うんっ! むしろ、お兄は参加しちゃダメなヤツ!! 先に現世に帰ってて!!」


 春日黒助に致命傷を与える方歩は非常に少ない。

 が、そのうちの1つ。


 義妹たちからの拒絶がさく裂した。


 彼は力なくうなだれ、スマホを操作して一本の電話をかける。



「ああ。鉄人か? たった今、妹たちにお前はいらんからとっとと帰れと言われた。どこか気晴らしになるところへ連れて行ってくれ。ゲームセンター? ああ、良いな。太鼓を思い切り叩きたい。では、今から帰る」



 傷心の黒助にはここで退場してもらおう。

 今宵は乙女たちのターンである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ヴィネの家に集まった、コルティオールと現世の美人、セクシー、清楚、キュートの4人。


「……揃ったわね」

「ああ。揃っちまったね」


「ふふっ。腕が鳴ります」

「あたしも負けないんだから!!」


 ろうそくの頼りない明りに照らされて行われるのは、女子会。

 それも、「春日黒助に関する事オンリーイベント」である。


 そのため、イルノやセルフィは近づかない。

 以前遊び半分で参加したセルフィがあまりの熱量に負けて、2日ほど寝込んだことがある。

 よって、四大精霊たちにはこの危険な集いがどれほどのものか知れ渡っている。


「じゃあ、やるわよ! 第18回! チキチキ! この想いを言葉に込めろ! 春日黒助の良いところ山手線ゲーム!!」


 ミアリスのタイトルコールに3人が「わーわー」と手を叩く。

 この実にしょうもない集いは定期的に行われており、極めて深刻な内容で終始する。


「じゃあ、わたしからね! 自分にはホント無頓着なのに、実はわたしにすっごく気を遣ってくれるところ!!」


 3人が一斉にボタンを連打する。

 すると、「逝っちまうねぇ!」と声が響き各人の頭上にある数字がボタンを押しただけ増える。


 これは『逝っちまうねぇボタン』と言う名の、創造の女神・ミアリスが創造したものの中で過去に類を見ないほどのゴミである。


「はぁぁぁ! 分かる!! そーゆうとこあるよ、黒助!」

「むむっ。ミアリスさん、さすがです! 兄さんの気遣いって、一度でもこっちが自覚するともう破壊力がすごいんですっ!!」


「ねー! お兄に言っても、知らんな。とか言って、バレバレなのにぶっきらぼうなリアクションとか、なんか可愛いよねっ!!」


 ミアリス様、50逝っちまうねぇを獲得。

 トップバッターとしてはなかなかの高得点。


 続いて、ヴィネの順番が来る。

 彼女は力強く言った。


「こっちはわざと薄着してんのにさ。さり気なく上着を羽織らせてくれて。お前は魅力的だから、他の男の視線に注意しろ。って、クールに言ってくるところだね!!」


 乙女たちは無言でボタンを連打した。

 特に同調したのは未美香。


「分かるーっ!! お兄って、急に褒めてくるもんね! お兄をドキドキさせようとしてるのに! 結局こっちがドキドキさせられちゃうの!!」


 ヴィネ姐さん、52逝っちまうねぇを獲得。

 出番の少なさは見識の深さでカバーする、健康になった死霊将軍。


 ここで一旦、休憩時間がもうけられる。

 この山手線ゲームは闇のゲーム。


 適切な栄養および水分補給を怠ると、命にかかわるのだ。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「兄さんって車道側をいつも歩くんです。で、この間なんですけど。急に軽自動車が歩道に乗り上げてきて。兄さんってば、片手で受けとめて一言! 怪我はないかって!!」


 後半戦が始まって、最初の一撃がフィニッシュブロー。

 柚葉の体験談をすぐに自分の体験談に脳内で置換した乙女たちは「はぁぁぁぁ!!」と叫びながらボタンを連打した。


「黒助に身を任せたらもう全部安心なヤツじゃない!! うらやまけしからん体験してるわよ、柚葉!! わたしも今度やってもらおう!!」

「じゃ、じゃあ、あたいは暴漢に絡まれるパターンのヤツを……! ガイル辺りに絡んでもらうよ! あいつ頑丈だから!!」



 狂竜将軍・ガイルに迫る、命の危機。



 こうして柚葉さん、55逝っちまうねぇを獲得。

 誰も的を外さない高レベルな戦いの様相を呈して来たが、これはいつもの事である。


 最後は未美香の番。

 彼女は無邪気でピュアなため、選んでくるエピソードが他の3人と違う傾向がある。


 当然だが、そんなエピソードをよだれ垂らしながら待ち構えているのがこの乙女たち。


「んっとね。あたしも体験談でいいかな? この間、お兄がお風呂に入っててね。シャンプーがなかったんだって! それで、あたしのシャンプーを貸してあげたの! で、お風呂上りに一緒にリンゴ食べたんだけど。どっちの髪からも同じ匂いがしてね! お兄、ちょっと極まりが悪そうにして、一言だけ。すまんなって!」



「ふぉぉぉぉぉぉっ!! なにそれぇ!! もう話聞いてるだけで妊娠しそう!!」

「はぁぁぁぁっ!! 未美香視点だとピュアなエピソードになるから!! くぅあぁっ!!」

「ううううっ! まさか同じ家でそんなことがあったなんて!! 私の妹は恐ろしい子ですっ!!」



 叩き出したポイントは60逝っちまうねぇ。

 1人の持ち点が20なので、最高得点である。


 それからしばらく、ミアリス様とヴィネ姐さんは奇声を上げながら床を転がっていた。

 春日未美香。3回連続、通算9回目の優勝の瞬間だった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その頃、母屋では。


「今日も盛り上がってるですぅー。この後、ミアリス様が朝まで寝かしてくれないパターンですぅー」

「前回はウチが聞き役やったんだから! 今日はイルノだし!!」


「ミアリス様、最近テンションが上がるとすぐに下着のカタログ広げるんですぅー」

「……ウチ、この間ストッキングとタイツを全部で30種類穿かされたし」


 ため息の漏れる水と風の精霊であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ちなみに、ウリネさんは。


「ねーねー! おじいちゃん! どうしてミアリス様はいっぱい下着持ってるのー?」

「くっくっく。全知全能の余が答えてしんぜよう。それは、ミアリスが汗っかきであるからよ。ウリネたんも、ベタベタした服はすぐに着替えたくなるであろう?」


「そっかー! おじいちゃん、物知りだねー!!」

「くっくっく。この無邪気な心を守るためならば、余はいくらでも虚言を吐こう。どれ、今日はメロンのアイスを持参したゆえ、一緒に食べよう」


「わーい! すごーい! メロンの形の入れ物だー!!」

「くっくっく。守りたい、この笑顔」


 今日もベザルオール様によるナイスセーブで、無垢な心は無垢なままなのであった。

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