家の倉庫が転移装置になったので、女神と四大精霊に農業を仕込んで異世界に大農場を作ろうと思う ~史上最強の農家はメンタルも最強。魔王なんか知らん~
第165話 力の邪神と亀の「コルティオール浄化大作戦」 ~進捗40パーセント~
第165話 力の邪神と亀の「コルティオール浄化大作戦」 ~進捗40パーセント~
コルティオールの大地には、戦争の遺した負の遺産。
毒に汚染された地域が多く存在しており、それを重く見た春日黒助の発案によって「コルティオール浄化大作戦」の発令がなされた。
その任に当たることになったのは、力の邪神・メゾルバ。
副官として暇そうに透明になっていた無色の盾・ゲラルド。
彼らによる毒の浄化作業がいよいよ始まろうとしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
メゾルバとゲラルドは水の精霊・イルノに弟子入りをして、水魔法の習得に励んでいた。
「メゾルバさん、なかなか筋がいいですぅー。もう浄化魔法だけなら合格点をあげられるクオリティですぅー」
「くははっ。これも水の精霊の教えのおかげよ。時に、ゲラルドはどうであるか?」
「亀さんは正直、お話にならないですぅー。何回教えてもハイドロポンプ! とか言って、肩から水鉄砲を撃つですぅー。イルノの手に負えないですぅー」
亀に生まれた悲しき宿命であった。
「くははっ。ゲラルドよ。やる気はないのか?」
「ございますとも。しかし、何をしていても不意に思い浮かぶのは可憐な少女の横顔。集中力など保たれるはずもありません」
「確かに、我が君は実に清らかで可憐なお方よ。ゲラルド。良い機会だから言っておくが、身の丈に合わぬ恋慕の情は身を亡ぼすぞ」
「その言葉、できればもっと早く聞きたかったです。せめて、私が色を失う前に……」
亀がまったく役に立たないと言う報告は、既に黒助のところまで上がっていた。
彼はすぐに対応策を講じる。
「あんたたち、やってるかい?」
「これは死霊将軍。何用か?」
「黒助に言われてね! 空いた時間で良いから、あんたたちを助けてやりなってさ! 毒の浄化ならあたいも役に立てるからね!!」
「くははっ。これは助かる。実質、我が独りで各大陸を巡ることになると覚悟しておったところ。来援に感謝する」
「あんたもずいぶんと素直になっちまったねぇ! そんじゃ、とりあえずポンポロリ大陸の浄化から始めるかい?」
ポンポロリ大陸とは、春日大農場のあるユリメケ平原を含む広大な土地であり、コルティオールに存在する最大の大陸でもある。
「うむ。まずはこの大陸から始めよとは、主のお達しよ。では、参ろうか。ゲラルド、せめて貴様は移動手段となれ」
「そうですね。私のような非モテ亀野郎は、適当に空でも飛ぶのがお似合いでございます。では、どうぞ。私の背にお乗りください」
「……なんか、見るたびに卑屈さが増していってないかい? この亀」
「ウジウジした男の人はイルノのタイプではないですぅー」
女性陣に追い打ちをかけられながら、ゲラルドは空飛ぶ亀に変形して農場を飛び立っていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ポンポロリ大陸で最も毒の多い場所は、かつて魔王軍と時の女神軍が十数年にわたって攻防を続けた北西部にある。
そこまで飛んでいくと、飛竜が彼らを待ち構えていた。
「お待ちしていたのだよ。メゾルバ、ヴィネ。元気そうで何よりだがね。……ゲラルドはまた色が薄くなったように見えるが、触れないでおくとしようかね」
狂竜将軍・ガイルであった。
彼はベザルオールの命を受けて「コルティオール浄化大作戦」に助力するべく馳せ参じていた。
「くっくっく。毒の元となった我ら魔王軍から誰も出さぬのでは筋が通らぬ。かと言って、余が自ら出ていくとせっかく頑張っておる者たちに対して角が立つ。よって、ガイルよ。卿に任せる」とは、全知全能、気配りと気遣いのできる大魔王ベザルオール様のお言葉であった。
「くははっ。これは心強い。なにぶん、我は毒に関しては門外漢であるゆえ」
「任せるのだよ。ベザルオール様がお作りになられた各地の毒の成分表はバッチリ持参したのだからね。私たちが集まれば、毒の浄化などすぐなのだよ」
ヴィネが「ははっ」と笑ってから、今の状況の感想を口にする。
「おかしなものだね。あたいたちは全員が元魔王軍だって言うのに、今はこうしてコルティオールのために働くなんてさ。1年前には女神軍と戦っていたのにだよ」
「まったくなのだよ。だが、このような形で平和が訪れて私は嬉しいのだよ。ベザルオール様も以前よりも笑顔になられる機会が増えた。臣として、こんなに幸せなことはないのだよ」
魔王軍の同窓会もそこそこに、彼らは毒の浄化作業へと移行する。
なお、無色の盾・ゲラルドだけは100年以上封印されていたため、彼らの懐かしい話に参加できなかった事を付言しておく。
◆◇◆◇◆◇◆◇
まず、ガイルが毒の成分について説明した。
浸食度は「中」であり、汚染範囲も「中」と告げた彼は、続けて「我らの魔力ならば5割程度で浄化は済むはずなのだよ」と自信を持って胸を張る。
「そんじゃ、どうするんだい? あたいがやろうか?」
「いや、待て。我に任せよ。水の精霊に学んだ浄化魔法がどの程度の効果を発揮するのか確認しておきたい」
ヴィネは「好きにするといいさ」とメゾルバに出番を譲る。
「痛み入る」とメゾルバは両手に魔力を集約させ、邪神のエネルギーを聖なるエネルギーへと変換させていく。
「ほほう。器用な事をするのだよ」
「まったくだね。まあ、お手並み拝見させてもらおうじゃないか」
「くははっ。見よ! これが我の水魔法よ!! 『ホーリーリザレクション』!!」
メゾルバの放った青い光球はゆっくりと大地に沈んでいき、しばらくすると眩い光を放ち始める。
それが15分ほど続いたあとには、澄んだ水をたたえた湖が現れる。
「お見事なのだよ。しかし、邪神の身でありながら浄化魔法とはね。君はずいぶんと変わったものなのだよ」
「それはあたいも言ったところさ。やっぱり、黒助に関わるとみんな変わっちまうのさ。ベザルオール様だって逝っちまいそうになるほどなんだからね!!」
メゾルバは新たな力の芽生えに慢心することなく、すぐに次の現場についてガイルに案内を要請する。
ガイルはもちろん快諾して、そこから東へ20キロほど行ったところにある、毒の沼地へと一行は移動していった。
結局、その日だけでポンポロリ大陸の毒の約8割を浄化するに至り、この元魔王軍チームの優秀さを証明する結果となったのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
日が暮れたので農場に戻って来たメゾルバとヴィネを、聖女が出迎えた。
「お疲れ様です! みなさん!! お漬物の差し入れに来ました!!」
「これは我が君! ご機嫌麗しゅう……」
「もぉ! メゾルバさんったら、大げさなんですから! はい、味見をどうぞ!」
「くははっ。我は邪神ゆえ、漬物の良し悪しなど分からうわぁこれおいしー! これぇ!!」
柚葉はヴィネにもぬか漬けを差し出したあと、ゲラルドに向かってほほ笑む。
「ゲラルドさんも! たくさん移動されたって聞きました! はいっ! よろしければこれ、どうぞ!!」
「は、ははっ! 頂きます!! ……これは、愛の味がいたします!!」
久しぶりに柚葉の顔を見て、会話をしてお手製の漬物まで手渡しで食べさせてもらった亀が少しだけ桃色に染まったのは、実にどうでも良い余談である。
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