第162話 春日未美香のターン! 天使だって恋がしたい!!

 春日未美香は焦っていた。

 なにやら、近頃大好きな兄の周りが騒がしい。


 しかも、その騒がしさの9割が女子のものである。

 姉の柚葉は一緒に大学の学祭に出かけて、異世界の女神であるミアリスはあろうことか一緒にホテルに泊まったと言う。


 自分の兄の性格を考えると、そこにやましい性質の考えがまったくない事は確信が持てるものの、周囲にやましい考えがまったくないかと言えば大いに疑問符が付く。


「ねね、アキラちゃん。どう思うかなぁ?」


 未美香は部活を終えて体操服を脱ぎながら、部室で後輩のアキラちゃんに事の次第を説明し、相談に乗ってもらおうとしていた。

 なお、アキラちゃんはかつて未美香にラブレターを送ったことのある後輩女子で、この天使を崇拝していた。


「未美香先輩! こうなったら、ウチらの武器を使うしかないですよ!」

「ほえ? あたしたちの武器? あ! テニスだ!!」


 アキラちゃんは「どこかの訳の分からない男に未美香を奪われるくらいなら未美香が好いている兄に奪われるべきである」と言う謎の理論を構築しており、そのために一肌脱ぐ構えでもあった。


「違います! 確かに、未美香先輩のテニスウェアは犯罪的に可愛いですけど。ミニスカから伸びる健康的な太もも……でゅふふ。あっと、失礼しました! よだれ出ちゃってました!! ウチらの武器と言えば、現役女子高生のブランドですよ!!」

「ほへー。女子高生ってブランドなの?」


「ブランドですよ! ウチのとった統計によると、女子高生が制服でデートしてあげるだけで、世の中の野郎の8割が落ちる! と言うデータが出ています!!」



 アキラちゃん個人の感想です。



「そ、そうなの!? じゃ、あたしも制服でお兄と出かけたら、お兄ドキドキするかなっ!?」

「します! します!! もう、今の未美香先輩の恰好!! 制服スカートにキャミの組み合わせだけでウチは痙攣して倒れそうなくらいドキドキしてます!!」


「そっかぁ! じゃあ、今度の土曜日にお兄と出かけてみようかなっ! 制服着ていくだけでいいの?」

「あっ、待ってください! よろしければ、こちらのニーソを穿いてもらってですね! スカートの丈を数センチ折って短くしてもらえるとより完璧です!!」


「そうなんだっ! ありがとー、アキラちゃん! あたし、男の人が喜ぶ格好とかまだ分かんなくてー! すっごく参考になったよっ!!」

「でゅふ、でゅふふ……。あ、失礼しました。お役に立てたなら、ウチはこの上なく幸せです!!」


 こうして、天使が悪魔に唆されたのである。

 今回は春日未美香のターンでお送りいたします。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 土曜日。

 朝から忙しなく支度をする未美香を見て、鉄人が声をかけた。


「未美香ちゃん、分かってるぅー! ニーハイにミニスカはたまらんですよ!!」

「うわぁー。鉄人、なんか目つきがキモい。……でも、そっか。鉄人も一応男の人なんだよね。その鉄人が反応してくれるってことは、やっぱりアキラちゃんすごいっ!!」


「うんうん。アキラちゃんはマジで慧眼だよ! 土曜日に敢えての制服デート! それは相当な通ですわ!! なんかね、僕とすごく話が合いそうな気がする!!」

「うへぇー。あたしの後輩が鉄人と意気投合するのはなんかヤダー」


 未美香がジト目で鉄人を見つめていると、階段を柚葉と黒助が降りてきた。

 黒助はジーンズにジャケットを羽織っており、かつてないほどのオシャレである。


「わわっ! お兄、どうしたの!? なにそのカッコいい服!!」

「ああ、これか? 鉄人の服を借りてな。柚葉が見繕ってくれたのだ。このように動きにくい服は着慣れないのだが。やっぱり変か?」


「ううん! 全然! ぜんっぜん、変じゃない!! お姉、ありがとー!!」

「ふふっ。私はこの間、たっぷりデートしてもらいましたから! 今日は未美香の番ですよ!」


 農場仕事の代打と衣類提供は春日鉄人。

 油断するとすぐにツナギを着る男のコーディネートは春日柚葉。

 可愛い春日家の末っ子のためならば、彼らも共闘することやぶさかないのだ。


「すまんな、2人とも。鉄人だけではなく、柚葉まで農場の手伝いに行ってくれるとは。土曜日なのに迷惑をかける」

「何言ってんの! 僕の事なんか気にしないでよ! 未美香ちゃんと楽しんで来て!!」



「いえ、本当に気にしないでいいですよ、兄さん。鉄人さんって毎日が日曜日なんですから。土曜日だからって気を遣う必要性をまったく感じません」

「ひょー! 義妹からガチで蔑む視線キタコレ! これはこれでアリ寄りのアリ!!」



 今日もニコニコ、笑う門には鉄人が来るニート。

 鉄人の前以外が笑う門な聖女。


 2人が転移装置に消えて行った。


「では、俺たちも出かけるか。未美香はどこに行きたいんだ?」

「んっとね、ショッピングモールでクレープ食べたり、服見たりしたいなっ!!」


「そうか。なら、軽トラで行くか」

「えーっ! やだっ! 駅まで歩いて、電車がいいなっ!!」


「そうなのか? だが、制服では目立つぞ?」

「うっ……。それはちょっぴり恥ずかしいけど……。でも、車で移動したら制服デートがっ!!」


 黒助は「うむ」と頷いた。


「よくは分からんが、未美香のしたいようにしよう。今日は未美香のために時間を作ったのだからな。では、駅まで散歩がてら歩くか」

「わぁぁ!! お兄、そーゆうとこ好きー!! じゃあね、ギュッてくっ付いてもいい!?」


「やれやれ。柚葉もそうだったが、お前たちも成長したと思えば変なところがまだまだ子供だな。構わんぞ。体の好きなところにくっ付いてくれ。何ならおんぶしよう」

「えへへー! じゃあ、腕組むねっ! ギューッと!!」


 春日家の乙女のたしなみとして、デートの際には男の腕を胸で挟むのは基本である。

 未美香の胸も柚葉ほどではないものの、なかなかに立派なので春日家乙女のたしなみは十分に実行可能。


「それにしても。気づけば10月も終わるか。時間が過ぎるのは早いものだな」

「ねーっ! あたし、もう少ししたら三年生だよっ! ……はっ!!」


 その時、未美香の脳裏に電流が走る。

 この時の流れの身を任せていれば、あと1年と半年も経たずに「女子高生ブランド」が失われるという事実に彼女は気付いた。


 未美香は別に女子高生でなくとも超の付く美少女なのだが、柚葉と言う姉がいるため彼女の自己評価は低め。

 つまり、女子高生ブランドを最大限に活かすデートを今日はキメてやるという強い意志を持っているのであった。


 駅に到着した2人は、電車に乗り込む。


「土曜日の昼間だからそれなりに空いているな。……どうして座らないんだ? 未美香」

「これはね、んっとね……。作戦!!」


 黒助は「そうか」と何か企む愛しい妹に笑顔で応じた。

 春日未美香の良くない入れ知恵による作戦は既に始まっているのだ。

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