第157話 土の精霊・ウリネさんが「自分はロリっ子である」と気づいてしまったお話

 春日大農場および、魔王農場の農作物が驚異的な生育スピードを誇るのは、誰あろう土の精霊・ウリネの『大地の祝福』の力のおかげである。

 彼女は全ての土に干渉する事ができる。


 農地の栄養価を高めるのはほんの序の口。

 農作物そのものに影響を与える彼女の能力なしでは、コルティオールの農場経営は立ち行かなくなるだろう。


「もうヤダー!! ボク、知らないもんっ!! 畑なんか知らないもーんっ!!」



 まさに今、農場経営が立ち行かなくなっているところであった。



 なにゆえこのような事になったのか、少し時間を遡ってみよう。

 では、時を戻そう。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「ふんふふーん! ふんふんふーん!」


 風の精霊・セルフィはご機嫌だった。

 先ほど現世から戻って来たばかりで、鉄人と一緒にショッピングモールに出掛けていたらしい。


「へぇー。鉄人がその服選んでくれたの? 意外とセンス良いわね。もっと露出激しいヤツとか勧めて来るのかと思ったけど」

「んふふー。ミアリス様は鉄人のこと分かってないしー! あいつ、結構見る目あるんだし! ウチに敢えて清楚系をコーデするあたり、なかなかやるしー!!」


 鉄人に服を買ってもらったセルフィさん。

 いつになく顔がにやけ切っており、幸せを隠せないでいた。


 なお、そのデートのための資金は兄の黒助が出しているのだが、ニートに「その金の出どころは?」と聞くのは余りにも無粋。

 その辺りをセルフィは弁えていた。


「ねーねー! セルフィの服、ヒラヒラしてて可愛いねー! ボクもそーゆうの欲しいなー!!」


 そこにトコトコ歩いて来たのがウリネさん。

 セルフィが秒で失言するのである。


「あー。無理だしー。ウリネみたいなロリっ子には、こーゆうのは早いしー」

「ほえ? ロリっ子ってなーにー? ミアリス様、教えてー!」


「えっ? いや、わたしはよく分からないから……」


 全てを察して面倒事を回避する創造の女神。

 想像力も豊かで、胸もそこそこ豊か。


 が、誤算だったのはこの日、母屋に全知全能の大魔王がやって来ていた事であった。


「ねーねー! おじいちゃーん! ロリっ子ってなーにー?」

「くっくっく。ウリネたん、キタコレ。余は全知全能の大魔王。教えてしんぜよう」


 トドメを刺したのがベザルオール様であった。


「くっくっく。ロリっ子とは一般的に顔は童顔であり、少女らしい特徴を持っておる。身長は低く、胸や腰つきの起伏が小さく、俗に幼児体型と言われる。つまり、まだ成育していない、もしくはもう成育しない女の子の事を指す」

「成育していない……? ボクってそのロリっ子なのー?」



「くっくっく。然り。ウリネたんはどこに出しても恥ずかしくないロリっ子よ」

「むー。むぅー!! ボク、大人だもんっ!! もう知らない!! ボク、怒ったから!!」



 ここでウリネさん、キレる。

 普段滅多に怒らない者がキレると実に厄介であり、一度へそを曲げるとちょっとやそっとでは元に戻らないものである。


「ま、まあまあ! ところでウリネ? 今日の『大地の祝福』が終わってないんだけど?」

「知らないもんっ! ボク、もうそんなのやらないもんっ!!」


 ストライキを敢行したウリネを見て、セルフィが顔を青くする。

 「う、ウチ、もしかして怒られるヤツだし?」と自分が発端となったウリネの怒りに今さらながら震え始める。


 さらにガタガタと体を揺らしながら、白目を剥いて泡を吹く老人が1人。


「くっくっく。春日黒助にこの事実が露見した時、余は死ぬだろう。ガイル、アルゴムよ。せっかく終えた戦争であったが、短い安寧の時は終わるやもしれぬ」


 こうして時計の針は現時刻と重なる。

 かつてないほどお怒りあそばされているウリネさんであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「う、ウリネ? 別に、ウチは悪い意味でロリっ子って言った訳じゃないし?」

「むぅー!! セルフィさ、ボクより年下なのにさ! 年長者を敬う気持ちがねー! 足りてないと思うんだもんっ!!」


 今明かされる、女神と四大精霊の年齢事情。

 ミアリスをはじめとする女子たちは先代から代替わりしてからまだ2年ほどしか経っておらず、ゴンゴルゲルゲ以外の者は皆が若年。


 ミアリスは22歳。

 イルノが20歳。

 セルフィは17歳。


 ウリネはなんと19歳。



 合法ロリっ子である。



「ミアリス様ぁ! ヴィネのヤツがセのピクルスを漬けましてな! これが絶品でして!! いかがですかな、セ! セですぞ!!」

「ふぃー。疲れましたですぅー。ちょっと休憩に戻りましたぁー」


「むぅぅー! ゲルゲがロリって言ったぁー!! いっぱい、ロリって言ったぁー!!」

「いかがした、ウリネ? セがどうかしたのか? セ、美味いぞセ!!」


 ミアリスが動く。

 彼女はイルノに短く命令した。


「イルノ! ゴンゴルゲルゲを黙らせて!!」

「えっ!? は、はぃぃ! ゲルゲさん、よく分からないけど罪を数えろですぅー。『ホーリースプラッシュ・ジャッジメント』!!」



「ぬぅおぉぉぉおぉぉっ!? な、なにゆえぇぇぇ!?」

「悪く思わないでね、ゴンゴルゲルゲ。これも農場の未来のためなのよ」



 泣いて馬謖を斬るミアリス様。

 だが、状況は好転しない。馬謖、斬られ損である。


「ボク、大人の女性になるまでもうお仕事しないからねっ! ふーんだ!!」

「う、ウリネ! あんたはもう立派な大人よ! みんなが認めてるから!!」


「むぅー。それって、ボクはもうこれ以上成長しないってこと? ミアリス様みたいに、おっぱい大きくならないってことー?」

「あ。これ、わたしが何言っても逆効果のヤツだわ……。黒助がいない事だけが救いだったわね……」


 噂をすれば影が差す。

 この世界ではそれがルール。


「呼んだか、ミアリス。聞くが、何の騒ぎだ」

「ほぎゃぁぁぁっ!! なんでそんな少女漫画みたいに都合よく通りかかるのよ!! やっぱりあんた、道明寺って名字なんじゃないの!?」


 春日黒助、職場に到着する。

 この日は午前休を取って、未美香とスポーツ用品店に出掛けていたらしい。


「やほー! 皆さん、こんにちはー! へへーっ! 新しいウェア買ってもらっちゃったー!! およ? ウリネさん、どしたの?」

「ミミっちー!! みんながねー! ボクのことをロリっ子って言っていじめるんだよぉー!!」


 ウリネから事情を聞いた未美香は「ふんふん。なるほどー」と頷いた。


「別にいいじゃん! あたしもね、よく言われてたんだよー。未美香ってロリ体型だねーって!」

「むぅー。ミミっち、おっぱい大きいじゃんかー!!」


「あははっ! 大きくなったの、去年からだよ? それまではぺったんこだったもんっ! だから、ウリネさんも焦らなくてもさ! きっとすぐに大きくなるよー!!」

「ホント……? ミミっち、嘘言ってない?」


「もちろん! それに、ウリネさんは今のままでも充分可愛いし! 可愛いがスタートでこれからナイスバディになれるとか、超いいじゃん!!」

「そっか。そっかー!! ボク、まだ成長期が来てないだねー! なんだー! 安心したー!! ミミっち、ありがとー!! さてと、お仕事するぞー!!」


 こうして、コルティオールの危機は1人の舞い降りた天使によって救われた。

 なお、そのあと事の経緯を聞いた黒助によって、セルフィとベザルオールはむちゃくちゃ怒られるのであった。

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