第155話 大魔王・ベザルオール様のサッと世直し
大魔王ベザルオール様の『
春日鉄人は言った。
「平日の真昼間から公園にいるヤツなんて、ろくなもんじゃないですよ!!」
ベザルオールも応じる。
「くっくっく。然り。卿の言い様、実にもっともである」
あなた方も該当者である現実から目を逸らしてはならない。
そのまま警戒態勢へと移行する2人。
犯行時刻の1分前になったところで、品のある身なりの老婦人がおぼつかない足取りで彼らの目の前にやって来た。
「くっくっく。して、いかがする。名軍師よ」
「犯罪行為が起きてないので、まだ動けませんね。ですけど、みすみすおばあちゃんに怖い思いをさせたくもないです。ベザルオール様。犯人の特徴は?」
「くっくっく。原付バイクに二人乗りしておる、髪を金色に染めた若い男の二人組である。あと40秒で現れる」
「なるほど。結構なスピードで来るんですね。危ないなぁ。……あ。あれですかね? 公園の敷地内に躊躇なく入って来た!! ベザルオール様! 犯行の瞬間にあいつらを止めてもらえますか? 僕、後始末の準備するんで!!」
「くっくっく。心得た。ちょうど、余のたこ焼きもなくなったところよ」
「あー。もしもし! どうもー。春日鉄人ですー」
原付バイクに乗ったひったくり犯(予定)が、今まさに老婦人に襲い掛かろうとしていた。
だが、彼らは気付かない。
全知全能の大魔王と、メンタル最強のニート魔法使い。
コルティオールの1位と2位の魔力を操る者たちがその愚行を目撃している事実に、彼らは気付けない。
「ひゃっはっはー!! ばあさんのバッグ獲ったどー!!」
「ばばあ! 公園をとろとろ歩いてたら危ないっしょー!! 轢かれても文句言えねーなぁ!!」
瞬間、全ての動きがスローモーションになる。
その現象を起こしているのは、当然だがベザルオール様。
「くっくっく。岡本さんのようにはいかぬが、余にも空間魔法は使える。大魔王ベザルオールが命じる。時よ動きを止め、供物を捧げよ。『
ひったくり犯たちの動きだけが、まるで時間に拒絶されたようにゆっくりと動く。
その間に鉄人が老婦人を保護する。
「おばあちゃん、なんか危ない人がいるんで! こっちを歩きましょうね!」
「あらあら、ご親切に。すみませんねぇ。わたしゃ、足が悪くてねぇ」
「とんでもない! 健康のために歩いてらっしゃるんでしょう? 偉いなぁ! 僕があと50歳年取ってたら、おばあちゃんをお茶に誘ったんだけどなぁ!」
「まあ、うふふ! ありがとうねぇ。面白いお兄さんだねぇ」
鉄人は老婦人に「お気をつけてー」と言って、手を振った。
それを見届けて現場に戻ると、未だ大魔王の魔法は発動中。
「くっくっく。ヤツらの体感では、既に半日ほどの時が流れておる。何が起きておるのか理解できぬままな。まあ、仕置きはこの程度で良いか?」
「甘いなぁ! ベザルオール様ってば! こう言う手合いはね、徹底的に叩いておかないと! 喉元過ぎれば熱さを忘れるって言うんですけどね! まーた似たようなことするんですよ!! あー! 来た来た! おーい! こっちですよー!!」
仕事のできるニート、春日鉄人。
適材適所な人材をチョイスして、速やかに現場へ招集をかけていた。
「お待たせしやした! テツの坊ちゃん!! ワシ、間に
春日家に呼ばれたら地獄の果てから異世界の端まで、どこへでも馳せ参じる男。
極道から農の道へ入って約半年。
鬼窪玉堂がやって来た。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「事情は分かりやしたけぇ! あとは任せちょってくだせぇ、坊ちゃん! おう、大魔王! 魔法解いてええで!」
「くっくっく。なるほど、無法者には無法者をか。さすがは春日鉄人。その知略、恐ろしきものよ」
鬼窪は原付バイクを蹴り飛ばして、ひったくり犯2人の首根っこを摑まえる。
彼らの体感時間は遅くなっているので、「目の前に明らかに堅気じゃない人が来た」と言う恐怖をもう何時間も体感している事になる。
ベザルオールが空間魔法を解除すると、ひったくり犯たちは怯えた表情で事態の認識を試みるが、それは無駄な努力である。
「おう、ボケェ! このクソガキどもがぁ!! おどれらぁ、よくもワシのシマでそがいなふざけた事をやりよったのぉ!? 落とし前つける覚悟はあるんじゃろうのぉ? おおん!?」
「あ、はっ!? ひ、ひぃぃ!! 違うんです! マサシがやろうって言って!!」
「お、おまっ! ふざけ!! タカシです! 全部、タカシが!!」
「ボケェ!! スーパーひとしくんか何か知らんけどのぉ! 誰かに死ね、言われたらおどれらは死ぬんか!? あぁ!? 人の道外れたのを他人のせいにするっちゃあ、外道に落ちる資格もないのぉ!! まあええわ。事務所で話は聞かせてもらうけぇ。ワシの車行こうか?」
鬼窪がひったくり犯たちを連行していく。
彼は車に2人を蹴り飛ばして叩き込むと「失礼しやす!!」と最敬礼で頭を下げる。
そして黒塗りの高級車は走り去っていった。
「いやぁ! 良いことしましたね! ベザルオール様!」
「くっくっく。卿と鬼窪がほとんどを済ませたではないか。余はただ魔力を使っただけよ。さて、アルゴムに土産でも買って、コルティオールに帰るとしよう」
鉄人は近くのショッピングモールまで軽トラを走らせ、アルゴムの好物であるチーズケーキを買ったのち春日家へ戻る。
そのまま、コルティオールへと転移するのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ほう。じいさん、やるな。すっかり正義の味方じゃないか」
ちょうど仕事を終えて母屋に引き上げてきていた黒助は、事情を聞いて開口一番ベザルオールの行為を称賛した。
「くっくっく。全ては春日鉄人の案内のおかげよ」
「確かに鉄人は優れた才能を持っている。だがな、じいさん。あんたがやった事も、間違いなく正しい行いだ。そこはしっかりと胸を張れ」
「くっくっく。そんな風に持ち上げられるとバイブスまで上がるから困る」
「まあ、慣れん土地でそんなアクシデントにまであったら疲れただろう。晩飯も食っていけ。帰りは飛竜に乗って行くと良い」
こうして、大魔王ベザルオール様の現世旅行は幕を閉じる。
だが、我々は忘れてはならない。
いつか、第二、第三の大魔王漫遊記が起きるかもしれないと言う事を。
魔王城に帰宅後、ベザルオールは汗を流し布団に入ると、すぐに眠りについた。
どのような夢を見たのかは分からないが、今日の行いの分は良い夢を見る権利が彼にはある。
「ベザルオール様……。実に安らかなお顔をしていらっしゃる。おやすみなさいませ」
アルゴムが主の枕元にある常夜灯を静かに消した。
翌日から、再び農業大魔王としてコルティオールに君臨するベザルオール様なのであった。
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