家の倉庫が転移装置になったので、女神と四大精霊に農業を仕込んで異世界に大農場を作ろうと思う ~史上最強の農家はメンタルも最強。魔王なんか知らん~
第154話 ニート共に! ベザルオール様、ご贔屓の量販店を訪ねる!
第154話 ニート共に! ベザルオール様、ご贔屓の量販店を訪ねる!
春日鉄人の運転する軽トラは、一路現世へ。
転移装置を抜けるともうそこはベザルオールにとっては異世界であり、2000年以上の時を生きる大魔王の未体験ゾーン。
「くっくっく。空に太陽が1つしかないとは。知識として知ってはおるが、実際にこの目で見るとやはり違和感がマシマシである」
「僕もコルティオールの太陽にはしばらく慣れませんでしたよー。さて、今日は行きたいところがあるんでしたよね?」
ベザルオールは頷いた。
「くっくっく。然り。日頃から世話になっておる量販店の主に礼を言いたい。春日鉄人、卿の進言を是として、卿らの世界で金と呼ばれておる鉱物を持参した。よもや、コルティオールの宝玉『ベイラニオニキス』が現世で無価値であるとは……」
「ねー。僕もビックリしましたよ。あんなに綺麗なのに。なんでも、現世では鑑定された事がないから値段を付けられないらしいですよ。ミアリスさんが言ってました」
「くっくっく。次元の違いって怖い」「ホントですよねー」と感想を言い合っていると、目的地の量販店に到着した。
入店すると、鉄人は迷わず店員さんを捕まえる。
「すみません。店長さんをお願いできますか?」
「は、はい? あの、どういったご用件でしょうか?」
「こちら、大魔王様なんですけど。ああ、違った。異国の大富豪の方なんですけど。以前からこちらのお店にお世話になっていまして。そのお礼を是非にと」
「わ、分かりました。少しお待ちください」
店員のお姉さんは首を傾げながらも、スタッフルームへと駆けて行った。
ベザルオールは鉄人の物怖じひとつ見せない態度を称賛する。
「くっくっく。卿の堂々とした交渉術はあっぱれである。世が世ならば、是非とも魔王軍の軍師として召し抱えたかったものよ」
「たはー! 褒められちった! そんな大したものじゃないですって! 引っ込み思案がニートやってても得るものは少ないですからね! おっ、来たんじゃないですか?」
少しくたびれたシャツとネクタイの上にエプロンをした中年男性が頭を下げながらやって来る。
彼の名前は田中勝。
この量販店の店長であり、魔王城に2日に一度召喚魔法で商品を持っていかれても笑顔で許していた仏の類でもある。
「お待たせいたしました。私が店長の田中です」
「くっくっく。卿がこの店の主か。何も言わずにこれを受け取って欲しい」
ベザルオールは懐からプレート状に加工した金を取り出すと、田中店長に差し出した。
「えっ、ええっ!? ちょ、困ります!! 事情も分からないのに、そのような高価なもの受け取れませんよ!!」
「そうなりますよね! あのですね、信じられないかもしれないんですけど、聞いてもらえます? この人、異世界の大魔王でして……」
鉄人は真実を田中店長に語った。
事前に聞いていた情報から「この人には真実を明かす方が後の事を考えても有益なはず」と結論を出していたニート脳。
損得勘定をさせたら、ニートの右に出る者はそうそういない。
もちろん、半信半疑どころか一信九疑がスタート地点だった田中店長だが、鉄人の話術に少しずつ「本当かもしれない」と気持ちを動かされ、仕上げに見せられたベザルオールの魔法を見て「……本当なんですね」と信じるに至る。
「確かに、おっしゃる通り、商品が倉庫から消えて宝石が代わりに置いてある事はありました。従業員にも伝えていない事実をあなた方は知っておられますし、なによりお話に不自然な点がまったくない。……しかし、異世界ですか。驚きました」
「という訳でして! ベザルオール様は今後も御社と取引を継続したい意向をお持ちなんです! その前払いと言う事で、今日は金をお支払いに伺いました!」
「くっくっく。受け取って欲しい」
「事情は分かりました。当店としても、ベザルオール様をお得意様として扱わせて頂きます。ですが! これはあまりにも頂き過ぎです! 困りますよ!!」
「ベザルオール様にとって金はそれほど価値のあるものではないんですよ! それよりも、無価値の宝石を対価にお菓子やDVDを召喚させてもらっていた事実! その感謝の印として受け取って欲しいそうです! これ以上は押し問答になりますし、お年寄りの気持ちを汲むって事で、どうかひとつ!!」
「くっくっく。それな」
最終的に、田中店長が折れた。
「では、この先の前払い料金としてこれは受け取らせて頂きます」と言って、彼は金のプレートを受領する。
「くっくっく。これで余も心がスッキリとした。ずっと気に病んで負ったのだ。異世界の店主よ。卿の幸せとこの店の繁栄を願わせて頂く。今後とも、よしなに頼む」
「分かりました。今後は注文書を出してもらえますと、ご要望の商品をしっかりと用意させて頂きますのでご検討ください。またこの世界にお越しの際には、是非お立ち寄りください!」
ここにコルティオールの魔王城と現世の量販店との間に売買契約が成立した。
もちろんだが、コルティオールの歴史上初めての偉業である。
◆◇◆◇◆◇◆◇
目的を達成したニートと大魔王。
とりあえず近くにあった屋台でたこ焼きを購入して、公園のベンチでそれを食す。
「くっくっく。たこ焼きなるもの、アニメで見て知っておったが……。これは良きものであるな。甘い炭酸が飲みたくなる」
「そうだと思って! はい! コーラも買っておきましたよ!」
「くっくっく。卿、有能すぎて草。卿ほどの人材であれば、どこに行っても引く手あまたであろう」
「いやー。僕はただのニートですから! どこに行っても舌打ちされる存在ですよ!!」
「くっくっく。謙遜も過ぎれば嫌味となるぞ、春日鉄人よ。……む?」
「どうしました?」
ベザルオール様の目が光る。
彼の瞳は魔力を持っており、数分先の未来を映し出すことが可能なのだ。
「くっくっく。春日鉄人よ。これより5分後。老婆が若者数人に手に持った巾着袋を奪われる未来を視た。余の魔王軍では窃盗は死罪と決めておったが、現世での法はどうなっておる?」
「ひったくりですか! しかもおばあさんから!! それはギルティですね! 刑法の前に、僕の正義が裁いちゃいますよ!!」
ベザルオールは頷いた。
「異世界の賢者が是とするならば」と行動の指針を決める。
「くっくっく。であれば、春日鉄人。余は卿の世界の秩序のために一肌脱ごう。ちと手荒になるが、問題はないか?」
「オッケーでーす! 後始末は僕がやるんで! 悪いヤツにアッツアツのお灸のっけてやりましょう!!」
大魔王ベザルオール様が現世の悪を討つまで、残り3分と20秒ほどである。
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