アフターストーリー
第153話 大魔王・ベザルオール様、現世へ行く!!
春日黒助がコルティオールにやって来てから、そろそろ1年が経とうとしていた。
その間に彼は上の妹を大学に入学させ、下の妹のテニスを全力応援し、弟にはニートの精力的な活動の支援を行っている。
それも全てはコルティオールに作った大農場で得られる収入のおかげ。
「よし。働くか」
異世界を救った英雄、春日黒助。
これは、彼のその後の話である。
◆◇◆◇◆◇◆◇
魔王城では、大魔王がソワソワしていた。
「くっくっく。アルゴム。ミアリスが用意してくれた服を着てみたのだが。卿の忌憚なき意見を聞きたい」
「よくお似合いでございます! 角を帽子で隠すと言うアイデアはさすが、創造の女神様であらせられますな!」
「くっくっく。それな。ちょっと戯れに現世に行ってみたいと言ったら、とんとん拍子で準備をしてくれる。あの者たちは良い人すぎん?」
「我らの罪を追求するでもなく、勝者としての生殺与奪の権を放棄し、家族として迎えて下さった。女神軍、いえ、春日大農場の方々の優しさは五臓六腑に染み渡りますな」
明日は、ベザルオールが現世へと赴く。
全知全能の大魔王でも、異世界に行くのは初めての事である。
ゆえに、もうソワソワしっぱなしなのである。
「くっくっく。しかし、ガイルは残念であった。よもや病に倒れるとは」
「芽の出たジャガイモをまだイケる! と3つも口にされましたからな。今も土の精霊・ウリネ様の集中治療を受けておいでです。ウリネ様には私が、何か甘いものでも包んでお持ちしておきますゆえ」
本来は、ベザルオールの随行者として狂竜将軍・ガイルも共に現世へと向かうはずった。
が、「イモ類なら何でも美味い!!」と芋を見ると見境なく口に入れるようになった狂竜将軍をジャガイモの洗礼が待ち構えていた。
狂竜将軍をも腹痛にさせる芽の出たジャガイモ。
厚めに皮を剝き、しっかりと芽をとれば問題なく食べられる場合が大半ではあるものの、場合によっては命にかかわるのがジャガイモの毒。
諸君にも注意をして頂きたい。
ジャガイモは新鮮なうちに食べる。
大魔王ベザルオール様との約束である。
◆◇◆◇◆◇◆◇
夜が明けて朝になる頃には、ベザルオール様が春日大農場に到着していた。
寝ぼけまなこのミアリスがそれを発見する。
「あんた……。もう来たの? 案内してくれる鉄人がこっちに来るの、お昼前よ?」
「くっくっく。これはミアリス。良い朝であるな」
「いい年したおじいさんが目を輝かせてるんじゃないわよ。……まあ、母屋に来なさいよ。その様子だと朝ごはんも食べてないでしょ? そんな状態のお年寄りを無視してたら、黒助に怒られちゃうもの」
「くっくっく。アットホームな雰囲気の職場とはこうあるべきである。余、そなたらの事が好き」
「はいはい。イルノー。ゴンゴルゲルゲー。大魔王来たから、ご飯一人前多く作ってねー」
今日の食事当番は水の精霊と火の精霊。
彼らは「分かりましたですぅー」「承知いたしまする!!」と台所から返事をする。
こちらも朝が早い、死霊将軍・ヴィネ。
食品加工工場から顔を出すと、かつての上司とエンカウント。
「これはベザルオール様! ああ、今日だったんだね、現世に行くって言うのは!」
「くっくっく。ヴィネか。朝から精が出るな。先日お裾分けにもらったモッコリ草の佃煮、激ウマであったわ。そなたにこのような才能があるとはな」
「あたいも驚いてばかりです。腐敗属性を利用して発酵について勉強してたら、気付いた時にはこんな感じになっちまってまして。逝っちまいそうです」
「くっくっく。逝っちまうと春日黒助が悲しむであろう。健康には留意せよ」
死霊使いに健康であれと進言する大魔王。
魔王軍がこれほどまでクリーンに仕上がると、一体誰が予想しただろうか。
「ベザルオール様ぁ! 朝ごはんができましたので、母屋にお越し下され!!」
「くっくっく。これは火の精霊。急に来たのにすまぬ。それから、余に敬称は不要であると申しておるのに」
「とんでもないことです! 黒助様から常々、年長者を敬うようにと申しつけられておりますれば!! ベザルオール様はワシの20倍以上の時を生きておられる大先達でごさいまするぞ!!」
「くっくっく。火の精霊は情にも厚いと見える。まったく、春日黒助の教育の賜物であるな。さて、朝ご飯を馳走になろう」
「今朝は昨日の残りの炊き込みご飯と、コカトリスちゃんの卵焼きですぅー。それから、お漬物とお味噌汁もありますぅー」
「くっくっく。最高過ぎてあげみ」
農家の朝食を美味しく召し上がったベザルオール様。
それからウリネに治療されているガイルを見舞ったりしていると、あっという間に時間は過ぎていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
転移装置から軽トラが出現する。
運転手は黒助。助手席に鉄人。
「おはよう、お前たち。む。じいさん、早いな。鉄人との約束の時間にはまだあるだろう?」
「くっくっく。おはよう春日黒助。今日は忙しいニートの時間を拝借するのだ。ならば、4時間前待機はマストよ。礼儀を失した者に明日は来ないと余は知っておる」
「そうか。良い心がけだな。現世でのガイドは俺なんぞよりも鉄人の方が何百倍と優れているから、安心して弟を頼れ」
「くっくっく。そうさせてもらおう」
セルフィとイチャイチャして来た鉄人が遅れて会話に参加する。
「ベザルオール様! おはざーっす!! バッチリおしゃれしちゃって! 準備万端って感じですね!!」
「くっくっく。春日鉄人よ。此度は卿の世話になる。よしなに」
「何言ってんですかー! 僕らの仲に遠慮なしっすよ!」と大魔王と肩を組むニート。
ニートにとって怖いものは養ってくれる者に見放される事だけである。
「鉄人。それからベザルオール。これは少ないが、小遣いだ」
「ひょー! 兄貴、太っ腹ー!! ベザルオール様、見てこれ! 20000円もありますよ!! これだけあれば何でもできちゃう!!」
「くっくっく。良いのか? 卿に小遣いを貰う理由はないが」
「気に入ったヤツに小遣いをやる。それに理由が必要か?」
「くっくっく。卿、いくらなんでもイケメン過ぎん? まさか、余までもが攻略対象に入っておるのか? くっくっく。ならば案ずるな。既に落ちておる」
大魔王を攻略した農家は「そうか。まあ楽しんで来るといい」と言い残し、手を振って母屋へと消えていった。
「じゃあ、ちょっと早いですけど行っちゃいますか! ベザルオール様!!」
「くっくっく。余の準備はいつでも整っておる。正直、テンション上がり過ぎておかしくなりそう」
軽トラの運転席に鉄人が乗りこめば準備完了。
大魔王ベザルオール様、いざ現世へ。
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