家の倉庫が転移装置になったので、女神と四大精霊に農業を仕込んで異世界に大農場を作ろうと思う ~史上最強の農家はメンタルも最強。魔王なんか知らん~
第147話 農協は虚無に屈さず ~平和と人々の利益を愛する最高の組織、それが農協~
第147話 農協は虚無に屈さず ~平和と人々の利益を愛する最高の組織、それが農協~
ノワールの四方八方へと無差別に放たれるエネルギーの塊。
「憎しみと争いが種の負のエネルギー」と謳うだけあって、その威力に遠慮はない。
「まあ、まあまあまあ! もう終わりですの? わたくしが真の姿を現したのですから、もう少し楽しませてくださいませ!! あなたたちを殺してしまえば、残っているのはカスのような者だけ!! ほんの数時間でコルティオールは消滅しますわ!!」
黒助は光弾を破壊しながら、ノワールに聞いた。
「おい、お前。聞くが、コルティオールを破壊した後はどうする? お前も消滅するのか?」
その質問には特に意味がなく、時間稼ぎが目的のようであった。
だが、ノワールは圧倒的有利の状況。
であれば、今わの際に立つ農家の言葉にも耳を貸す。
「わたくしはエネルギー生命体! 時空を超える事など造作もありません! 次の異世界へと赴き、またじっくりと時間をかけて世界を消滅させますわ! そうですわね……。次は農家! あなたの世界に行くのも良いかもしれませんわ!!」
「そうか。それは聞き捨てならんな」
黒助の言葉に応じる声が1つ。
「ええ。それは困りますねぇ! 私の家族も住んでいますので! ならば、ここであなたの野望を食い止めるべきでしょう! ねぇ、春日さん!!」
「……助かります! 岡本さん!! 来てくださいましたか!!」
「もちろんですよ。定時に退社したところ、まだ戦っておられるようでしたので。農場の従業員の方に怪我でもされては大変だ。共済は使わせずに更新させていく。これが正しい運用方法ですよ! ひぃえぇぇやぁ!!」
時空を歪めて、農協の岡本さんが出現した。
彼は「まずはあいさつ代わりに」と、名刺をノワールに向かって投げつけた。
プラスチック製の名刺には空間魔法が付与されている。
「今さら汚い中年が増えたところで、何が変わると言うのです!? うふふ! そんな飛び道具に頼るような野蛮な攻撃方法で……! なっ? わ、わたくしの体を切り裂いた!?」
「コツは手首のスナップです。まだ名刺はありますよぉ! ひぃえぇぇぃやぁぁっ!!」
岡本さんの連続トランプカッターが、これまで余裕の表情しか見せていなかったノワールを初めて驚かせることに成功する。
だが、それ以上に驚いている人物がいる。
「くっくっく。ニートよ。あの者は一体なんなのだ? 見たところ、時空を切り裂いておるようだが。くっくっく。意味が分からなさ過ぎて笑える」
「あの人は岡本さんです! 兄貴が唯一認めている、現世で最強の職業に就く人ですよ!!」
ベザルオール様、軽いめまいと頭痛を覚える。
「最強の農家よりも更に上がいるのか?」と言う事実は、彼の体を震えさせた。
「さて。私の魔法であの方の周囲を一時的に凍結しました。しばらくは動けないはずです」
「お、おのれぇぇぇ!! 何者ですの、あなたは!!」
「名刺をあれだけ差し上げたのに、見てもいないのですか? やれやれ、困った人ですねぇ。私は岡本と申します。農協に勤めています。短い間ですが、お見知りおきを」
ノワールの動きを封じて見せた岡本さん。
だが、エネルギー生命体の力は絶大。
農協の力をもってしても「封じておけるのはせいぜい数分が良いところでしょう」との事である。
だが、その時間があれば春日黒助には充分である。
喉から手が出るほど欲しかったわずかな時間。
それが手に入った今、勝機はそこにある。
あとは手を伸ばして、それを掴み取るだけ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
黒助はツナギを脱いだ。
最終決戦では守られていた乳首が、ここに来て露わになる。
「じいさん。まだ魔力はあるな?」
「くっくっく。無論。余の魔力は無限である。が、農家よ。何か策があるのか?」
「ああ。ある。俺の肉体は、女神がくれた最強の身体らしい。それを100パーセント解放する」
「くっくっく。ちなみに、今までは何パーセントで戦っていたのか」
「15パーセントだ。それを超えると、ツナギが破れて妹に怒られる」
「くっくっく。ほんま何なん、この子。頭おかしいわ。こっちの頭までおかしくなるで」
開いた口が塞がらないベザルオールの傍にやって来たのは、岡本さん。
彼は丁寧に名刺を差し出し、「あなたが大魔王様ですか」と深く頭を下げた。
「くっくっく。卿ほどの実力者がなんと殊勝な態度であろうか。卿は何を目的にこの戦いに加わった?」
「いえいえ。目的だなんて。畑があればそこに参上するのが農協職員の務めですので。ところで大魔王様、お聞きしますが」
「くっくっく。いかなことでも答えよう。申してみるが良い」
「感謝いたします。あなた、医療共済にはお入りですか?」
「くっくっく。それはなんだ?」
「ああ! お入りじゃない! ちなみに、大魔王様はおいくつでいらっしゃる?」
「くっくっく。2000を超えた辺りで数えるのはヤメたが」
「なるほど! 後期高齢者ですね! 安心してください! ありますよ、良いプランが! 最近はね、お年を召した方でも入れる共済がありましてね! こちらがパンフレットなのですが! 今ご契約いただけると、手ぬぐいを差し上げます!!」
ベザルオールは黒助に対して「初めての恐怖」を覚えたが、岡本さんに対して「真なる恐怖」を抱き、子犬のように震えながら力を溜めている農家に助けを求めた。
「くっくっく。農家よ。この男はなにゆえ動じぬ? あまつさえ、余に対して謎の契約を迫って来るのだが? この男は一体、何者であるか」
バリバリと肉体から火花を散らしている黒助が答えた。
「岡本さんは農協の次長だ。その意味が分かるな?」
「くっくっく。マジでイミフで草こえて森こえてアマゾンこえてマダガスカル」
岡本さんは顔色一つ変えずに、プレゼンを続けた。
この戦いが終わった後、多くの共済の契約をする事になるベザルオール様である。
多くの者が見守る中、春日黒助の肉体の解放率が向上していく。
それに伴い、ほとばしる火花は激しさを増し、電撃のような破裂音も響き始める。
黒助には魔力がない。
ならば、あの現象は何なのか。
「ひょー! キタコレ!! 覚醒したら急にエフェクトが付いて超映えるヤツー!!」
鉄人が理屈を無視した感想を述べる。
すると、全知全能の大魔王もそれに同調する。
「くっくっく。分かる。クライマックスで起きるヤツ。髪が逆立ったり、空気が渦を巻いたりしたら完璧」
2分ほどが経った。
春日黒助はいつもと変わらない穏やかな口調で、ノワールに問う。
「聞くが、お前。反省してやり直すつもりはないな?」
ノワールは顔を歪めて高笑いで応じた。
「あーっはは!! バカな人間はどうしてつまらない情をかけるのでしょうね!! そんな事を考えるのならば、最初から争いなどしなければ良いのに!! 矛盾ばかりの完全からほど遠い、愚かな生き物!! わたくしはそれを滅する!! それだけのために生まれたのですわ!!」
「そうか。よく分かった」
春日黒助。
彼の最後の攻防が始まろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます