第140話 春日鉄人チーム、魔王城へ到着する
春日鉄人チームは真っ直ぐに魔王城を目指していた。
その進軍のスピードは速い。
「いやー! すみませんね、ゲラルドさん! 僕たち背中に乗っちゃって!」
「とんでもありません。この新参者、あなた方の足となれることを誇りに思います」
桃色の盾・ゲラルドは身長3メートルを超える巨体である。
全長30メートルの超巨大モンスター・ザラタンを相手にしていたせいで感覚が狂っているかもしれないが、3メートル超えでも充分にバカでかい。
さらに、甲羅に生えたトゲは収納可能であり、何なら甲羅を平らにして背もたれまで構築するサービス精神に満ちているゲラルド。
その乗り心地は上々。
さらに魔王城のある山脈とサンボルト盆地の間には海があるのだが、そこも空飛ぶ亀のおかげで難なく突破。
本来は鉄人が適当に砦の壁とかをならして、それに浮遊魔法をかけて飛んでいく予定であった。
見た目は桃白白の移動スタイルである。
「それにしても、良かったですねー! ゲルゲさんもブロッサムさんもほとんど無傷で! 魔力は僕が補給しましたし!」
「おっしゃる通りでありまするな! これならば大魔王ごとき、ワシらで倒せるのでありますまいか? ぐーっはっはっ!!」
「ゲルゲ殿の言う通りでござる! これほどまでに充実した状態の猛者が4人も揃えば、いかにベザルオール様と言えど!!」
鉄人は「うんうん! そうですね!」と答えながら、内心では真逆の事を考えていた。
「あっ。これ死亡フラグだ。しかも、かませ犬パターンのヤツ」と。
とは言え、死亡フラグが立っていても今さら後には引き返せない。
鉄人は何にも縛られない自由なニートだが、唯一絶対に裏切らないと決めている事がある。
それは、兄からの信頼である。
「兄貴が僕の事を頼りにしてくれている」と言う事実は、鉄人に勝算のない行軍を強いていた。
この事実を黒助が知れば、何を置いても鉄人を止めるだろう。
だから、鉄人は何も伝えなかった。
ニートにとって自分を全肯定してくれる人間は宝石よりも貴重。
それが身内、実の兄であれば格別。
鉄人は人生で初めて「伸るか反るかの賭け」に打って出ようとしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
魔王城では、大魔王ベザルオールが凪月の杖を手に玉座に腰かけていた。
傍には虚無将軍・ノワール。
「ベザルオール様。アルゴムもやられてしまったようですわね。ガイルは先ほど、13キロほど離れた森に墜落したと報告がありましたわ。まったく、情けのないこと」
「くっくっく。ガイルもアルゴムも良くやってくれた。どちらもまだ息がある。ならば、早々に全てを片付けて彼らの救護に向かえば良かろう。余が自ら、な」
「あら、大魔王様が軽々に玉座から離れられるものではありませんわ。そのような雑事、わたくしにお任せくださいませ」
「くっくっく。ノワール。そなたの気遣いは嬉しいが、余にとってガイルとアルゴムは忠臣。……いや、主従関係を超えた絆で結ばれておるのだ。友が倒れ、傷ついておると言うのに玉座で足を組みカルピスソーダを飲んでいる訳にはいかぬ」
ノワールは「まあ、妬けてしまいますわね」と微笑んだ。
それから30分の時が過ぎる。
ベザルオールは思った。
「くっくっく。間がもたぬ。普段あんまり仲良くない部下と2人きりになるのは気まずい。相手が異性なところがまたキツい。何か失言をしてセクハラで訴えられたら、余は死ねる」と、深刻な心情であった。
何なら「くっくっく。早く来てくれ、女神軍」まである。
その願いが通じたのか、通信室の全権をアルゴムより委譲されたガーゴイルが2人ほど謁見の間に駆けこんで来た。
「あなたたち、大魔王様の御前ですわよ。騒々しいのではありませんこと?」
「くっくっく。良い。そちらの角が長い卿はベッツ。羽が灰色にくすんでおる方はナッシュであったな」
部下の名前は完璧に暗記しているベザルオール様。
「はっ! ご無礼をお許しください!!」
「くっくっく。構わぬ。ベッツよ。卿は最近、恋人ができたらしいな? こまめに連絡を取っているか? 仕事が忙しいと言っても、それはこちらの都合。恋人からすれば、自分をないがしろにされているように思えるものよ。ゆめゆめ留意せよ」
「はっ! ははっ!!」
「くっくっく。ナッシュ。卿はギャンブルで借金を作ったらしいな。余の元に金融を生業にする悪魔が訪ねて来おったわ。とりあえず余が立て替えておいたから、ギャンブルは嗜む程度にせよ。返済は、月給から生活に障らぬ程度に回収してゆく」
「ははぁっ!! 申し訳ございません!!」
末端の部下にも手厚いケアをする大魔王。
その名はベザルオール様。
ベッツが跪いて報告をする。
「女神軍の先発隊はアルゴム様がその身をもって倒されました! しかし、アルゴム様も傷が深く戦える状態ではないようです!」
「くっくっく。既に知っておる。アルゴム、余には過ぎた部下であるな」
続いてナッシュが跪く。
「こちらは新たな報告でございます! 女神軍の別動隊が、サンボルト砦から海を渡り……! 猛スピードでこちらに接近しております!!」
「くっくっく。……マ?」
凪月の杖を持つベザルオールの手が震える。
彼は不安を隠しきれずに聞いた。
「くっくっく。サンボルト砦より向こうに広がる死の海。そこに巨大な海洋モンスターや、隠し玉のトラップなどを結構な勢いで仕掛けておいたのだが。それは全部未読スルーされたと言うことでFA?」
「ふぁ、ファイナルアンサーでございます……!!」
ベザルオールは考えた。
死の海はそれなりに広い。
そこを乗り越えて来ると言う事は、女神軍には相当な飛行魔法の使い手がいると考えるべきであると。
「くっくっく。しかし、愚かなり。死の海を飛行魔法で超えるとなれば、凄まじい量の魔力を消費しておるであろう。魔王城に着く頃には出涸らしよ」
「お、恐れながら……! 女神軍の別動隊は、黒き盾・ゲラルド様に搭乗しております!!」
「くっくっく。ちょっと何言ってるのか分からない」
「黒き盾・ゲラルド様は謀反いたしました! 今は桃色の盾と名乗っております!!」
「くっくっく。ぴえん超えてぱおん」
「お、お気を確かに! その別動隊が、あと5分もしないうちに到着いたします!!」
「5分もしないうち」と言うと「まあ4分くらいじゃね?」と思うのがベター。
だが、「5分もしないうち」とは「今から30秒後」も含まれるという事実。
ゴォンと爆音を響かせて、魔王城の外壁を巨大な亀がぶち破って来た。
人数は4人。
そのうちの2人の魔力には覚えがあったため、ベザルオールは全てを悟った。
「くっくっく。ついに我が魔王城へと侵入してきたか。女神軍よ」
春日鉄人チーム、魔王城に到着する。
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