第132話 満を持して! 春日黒助、空を駆ける!!
飛竜のバリブが気付いた。
自分の吐く炎が押し戻される感覚と、強い魔力が接近して来る気配にである。
『ガイル様!! 敵襲です!!』
「確かに! それなりに強い魔力なのだよ! 飛行魔法も使えるとは、農家も存外器用なようだ。では、お相手を務めさせていただくのだよ!!」
炎を割って上空に飛び出したのは、黒いスーツを着た男。
その姿に、その顔の傷に、ガイルは見覚えがあった。
「よぉ、頭ドラゴンズ!! 久しぶりじゃのぉ!!」
「お、お前は……!! 鬼窪ではないのかね!? い、生きていたのかね!?」
鬼窪玉堂は新魔王として、大魔王ベザルオールが召喚した男。
その魔力に対する素養の高さはガイルも認めており、粗暴な態度と傍若無人な行動にも目をつぶっていたが、敢え無く異次元の農家の前に敗れ去った。
と、魔王軍は考えていたのだが、実際のところは諸君もご存じの通り。
鬼窪は黒助にボコボコにされたのち、春日柚葉の慈愛よって救われ、さらに黒助に認められた今は春日大農場の渉外担当として日々働いている。
しかし、繰り返すが魔王軍としては「鬼窪は農家に敗れた」事までしか把握しておらず、ならばこのタイミングで現れた彼をガイルはどう受け止めるか。
「よくぞ戻ってきてくれたのだよ! なんと言う絶好のタイミングで!! さあ、共に女神軍の本拠地を攻撃するのだよ!!」
こうなるのも致し方ない。
鬼窪はとっくに農の道を歩き始めた農の者。
だが、見た目は相変わらずとても堅気の人間には見えず、ならばガイルが「まだこいつは魔王軍に属している」と勘違いするのも無理からぬこと。
サングラス越しに、鬼窪の目がギラリと光った。
「そがいな
「「グオォォォォォオオォォンッ!!」」
鬼窪の拳銃捌きは言うほどの事はあるようで、3発放った弾丸は全て飛竜に命中した。
腐敗属性を付与された魔弾の威力は抜群。
飛竜たちが力なく地上へと落ちていった。
「な、なんなのだね、君は!? 鬼窪!! 裏切ったのかね!?」
「おどれぇ……。どんだけ頭ン中お花畑なんじゃ!! 勝手に人様拉致って、今日からお前は新魔王じゃとか訳の分からんこと言うじじいと! 襲ったにも関わらず
狼狽えるガイルを背に乗せたバリブは思った。
「それはそうやで。ほんま。普通はそうなりますよって」と。
◆◇◆◇◆◇◆◇
地上に落下してくる飛竜。
彼らは全長15メートルある巨体であり、畑に墜落でもされたら目も当てられない。
「ギリー!! ウリネとセルフィ!! 各々、どうにか飛竜を受け止めろ!!」
黒助の号令でまず鬼人将軍・ギリーが飛び出した。
彼はこの戦いにおいて今のところ無役だが、持病のある母親と兄弟たちを快く受け入れてくれた黒助に対する恩義と忠誠心は元魔王軍の中でも随一。
「任せてくれ、黒助の旦那ァ!! ウリネとセルフィの嬢ちゃんたちは、オレが受け止めた飛竜を治療してやってくれ!! いくぜぇぇ! おらぁぁぁ!!!」
鬼人と呼ばれるだけあって、その怪力は伊達ではない。
数トンの重さがある飛竜を軽々と空中で受け止めると、農耕地ではない場所へと優しく放り投げる。
そこに駆け寄るのが土の精霊・ウリネ。
「オッケー! ギリっち、ナイスー!! どんどん送ってー! セルフィは風魔法でふんわりキャッチお願いねー!!」
「もうやってるし! そのふんわりキャッチが難しいんだけど!! ギリーの力が強いしー!!」
救護班の動きも早い。
さすが、これまで何人もの魔王軍幹部を治療して来た実績は嘘をつかない。
「……よし。これで条件は整ったな。ミアリス」
「分かってるわ。気を付けてとかは言わないわよ。あんたが言って欲しい言葉はこれでしょ? 柚葉と未美香の安全は任せて! わたしが命に代えても守るから!!」
「ああ。信頼している。だが、命は大事にしてくれ。お前が死ぬと、俺が困る」
「ふ、ふぁぁぁぁぁぁっ!! ……くぅっ!!」
ここぞで逝きかけるのを踏みとどまるミアリス。
ついに彼女も明確な成長を見せた。
「メゾルバ。聞くが、お前は飛竜を何体倒せる?」
「くははっ。さすがは我が主。よもや我は忘れられておるのかと怯えておりました」
「ああ。さっきまで忘れていた。もう一度聞くが、お前は俺の役に立てるか?」
「ご随意に。主のためならば、空飛ぶ大トカゲなど物の数ではありませぬ」
黒助は「そうか」と答えて、勢いを付けて空を走っていく。
まるで階段を駆け上がるように、トントンと上空めがけて全力疾走。
その原理が明かされる日はいつか来るのだろうか。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「ふ、ふーははっ! 鬼窪! その厄介な弾丸、全て避けきって見せたのだよ!! さあ、次はどんな手を打って来る!? 言っておくが、君の使う魔法は把握しているのだよ! 私の前で、君は裸も同然なのだからね!!」
鬼窪は拳銃を腰に差してから「仕舞いじゃあ」と短く答えた。
「意外と利口な男なのだよ! 降伏するのかね! 良いだろう、先ほどまでの無礼は許すのだよ!!」
「おどれはそがいな事じゃけぇ頭ドラゴンズなんじゃ! ワシが手ぇ出しても仕方がのうなったから、仕舞いっちゅうんたじゃ! おどれも仕舞いじゃぞ?」
先ほどまで続いていたブレス攻撃と、それを相殺していた岡本さんの凍結魔法によって発生した湯気で視界が悪い上空。
そこに突如として現れる、2つのシルエット。
「メゾルバ。残りのドラゴンを任せた」
「くははっ。拝承。我が主はごゆるりと大将戦をお楽しみになれば良い」
狂竜将軍・ガイル。
ついに彼らの言う「異次元の農家」と対面を果たす。
「……君が、我ら魔王軍にことごとく壊滅的な被害を与えて来た。その元凶なのかね!?」
黒助は右手をギュッと握りしめて、叫んだ。
「お前らがちょっかいかけて来ていたのに、何て言い草だ! このバカタレがぁ!!」
「いべぇやぁっす!? が、がはっ!? この鋼竜を超える硬度の皮膚にダメージを!?」
今日も正論と一緒に魔力0の物理的攻撃を繰り出して敵を黙らせる男。
名前を春日黒助。
「お前は今までの輩の中でも特にひどいな。野焼きは確かに有用性もある! が、しかし!! 近年では延焼火災も増え、その実施には慎重になっていると言うのに!! 農業新聞を読んどらんのか、バカタレがぁぁぁ!!!」
「ぐ、ぐぉぉぉっ!? 全然意味は分からんのだがね。……何と言う迫力。これが、異次元の農家かね!!」
ガイルは心の中でベザルオールに詫びた。
「ウマ娘のライブは一緒に観賞できそうにありません」と。
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