第128話 ウェアウルフを迎え撃て! 火の精霊、覚醒の時!!

 飛竜が使うテレパシー。

 念話の原理は魔力を介した通信であり、突き詰めていくとそれは『通信魔法』と呼んでも差し障りのないものである。


 魔法ならば、魔力があり素養もある者が扱えないはずがない。

 春日鉄人はその魔力を使い、テレパシーによる通信を試みていた。


「もしもーし!! セルフィちゃーん!! 聞こえるー?」


 通信相手に風の精霊・セルフィを選んだ理由はいくつかあった。


 日頃から一緒にいる事の多い彼女ならば、魔力の干渉が他の者よりも容易であるだろう。

 それに、四大精霊の中で1番多くの魔法を扱えるのも彼女。


「セルフィちゃーん!! この間、僕が寝てた時にさー! ほっぺにチューしたじゃん? あの時ねー! 実は僕、起きてたんだよねー!! ギャルって大胆だよねー!!」

『うわぁぁぁぁ!! ヤメろし!! なにこれ!? 鉄人の声が頭の中に響くんだけど!!』



 とりあえず、愛の力で無理やり回線を開通させたニートであった。



「ああ、良かったー! セルフィちゃんに通じなかったら、同じ内容を不特定多数に向けて発信するところだったよ!!」

『ば、バカなんじゃないの!? ヤメろし!! 聞こえてっから、絶対やんなし!!』


 鉄人は嬉しそうに頷いた。

 セルフィを選んだ最たる理由は「僕らはいつも以心伝心だったらステキじゃん?」と言う、結構ロマンチックなものであった。


 彼は端的に事情を告げた。


「ってことでね、そっちのドラゴンが7匹飛んで行ってんのよ! しかも、あと5分くらいで到着するっぽい!」

『マジ!? ヤバいじゃん!!』


「そうなのよ! で、僕が敵さんだったら、とりあえず初手でドラゴンに火を噴かせるんだよね。そうなると、畑と田んぼがまずいよね。サツマイモもスイカもトマトも、せっかくコンバインで田植えしたばっかりの田んぼも、全部壊滅的な被害を受けるよ」

『ちょーヤバいじゃん!!』


「そう! 何が一番ヤバいかって、そんな事を目の前でされたらね! 兄貴は怒り狂って、コルティオールそのものを消滅させかねない! 兄貴にとって農業って命より重いから!! ってことで、どうにか対応してみてくれる? こっちが片付いたら、僕もすぐに戻るから!!」


 事の重大さが充分に伝わったらしく、セルフィは「りょ!!」と短く答えて、通信を終えた。


「いやー。これは困ったぞ。さて、僕もこっちの掃討戦に参加を……。Oh……」



「ぐわぁあぁぁぁぁっ!!」

「げ、ゲルゲ殿ぉぉぉぉぉぉ!!!」



 ゴンゴルゲルゲが秒でやられていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 鉄人がテレパシーを習得していた頃。

 回想っぽく言っているが、わずか2分前の事である。


「ぬぅおぉぉぉぉぉっ!! 喰らえぃ! 『フレアボルトナックル』!!!」


 ゴンゴルゲルゲの必殺技が炸裂した。

 が、ウェアウルフの先頭を走っていた10体程度が吹き飛んだだけで、後に続く軍勢が炎の拳をかき消してしまう。



 使えば使うほど弱くなっていくゴンゴルゲルゲのフィニッシュブロー。



 その後、無防備になったゴンゴルゲルゲはウェアウルフの大群にボコられた。

 『フレアボルトナックル』は一度使うとゴンゴルゲルゲの生命の源である体内の炎が弱くなり、数分間ほど防御力が激減する。


 そもそもこの必殺拳は体が燃え盛っている状態を想定して代々イフリート族の間で伝承されて来たのであって、「燃えていない火の精霊」が使っても本来の威力は得られない。


 そんな訳で、吹き飛ばされたゴンゴルゲルゲ。

 器用に鉄人の足元に叩きつけられる。


「ゲルゲさん!! 大丈夫ですか!?」

「も、申し訳ございません、鉄人様……。ワシはここまでのようでごさいまする……」



「えっ!? ウソでしょう!? まだ何も成していないのに!? 最終戦争始まって5分も経たずに退場するんですか!?」

「む、無念でござりまする……」



 余りにも不憫な火の精霊。

 ニートの慈悲の心に、彼の悲哀に満ちた炎が燃え移った瞬間でもあった。


「ゲルゲさん! あなたの体は炎だったら何でも耐えられますよね?」

「ぐ、ぐふっ。無念でございまする……」


「こりゃダメだ!! じゃあ、無許可でいきます!! せぇりゃ!! 魔の邪神の魔導書直伝!! 『メギドの炎』!!」

「うっ!? ぐぅあぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


 鉄人はトドメを刺すためにゴンゴルゲルゲを燃やしたわけではない。

 諸君、線香花火が燃え尽きそうな時に、隣で弾けている友人の線香花火とコアをドッキングさせて延命を図った経験はあるだろうか。


 鉄人のやったのは、まさにそれである。


「こ、これは……!! この力は……!! ワシの体が真っ赤に燃えるぅぅ!! 敵を倒せと轟き叫ぶぅぅぅぅ!!」

「おおー! 来ましたね! ゲルゲさん、覚醒するパターンのヤツ! キタコレ!!」


 爆熱の精霊・ゴンゴルゲルゲ。

 ここに爆誕する。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 魔獣将軍・ブロッサムは、孤独な戦いを強いられていた。


「ウェアウルフたちよ! 吾輩は魔獣将軍でござる!! かつての同胞と戦いたくはないでござる!! どうか、降伏してくれぬでござるか!?」

「うるせぇ! この素人童貞が!! 裏切り者のあんたに今さら用なんかねぇんだよ!! この見た目だけ強そうな中身スッカスカの素人童貞が!!」



 辛辣な言葉責めで、ブロッサムのライフが一気に目減りする。



「ぐぅぅぅっ!! お主ら、かつては共に女神軍打倒を誓ったではござらぬか!!」

「その女神軍に下って今や鉄砲玉扱いされてんのはどこのどいつだ!! おらおら、お前ら噛みつけ、噛みつけ!!」


 ウェアウルフの知能は魔獣軍団の中でも極めて高く、敵を煽らせたら右に出る者なしと謳われると言う。


「ぐはぁぁぁっ!! い、致し方ない!! 『狂獣進化トランスフォーム』!!!」

「おっ! ブロッサムの野郎の必殺技だ! あの技は変身するまでに時間かかるから、その隙に噛み殺せ!!」


 容赦がなさ過ぎる。


 だが、そこにやって来たのは強力な援軍。

 その拳から放たれた炎のパンチは、地獄の業火と表現するに値する破壊力であった。


「ぬぅおらぁぁぁぁぁぁっ!! 『ギガフレアボルト・ナックル』!!!」

「ぐぇあぁぁぁっ!? なんだァ!? さっきの雑魚が……!! 燃えているぞ!!」


 さらに後方からは突風が刃となってウェアウルフに襲い掛かる。


「セルフィちゃん直伝!! 『スパイラル・ゲイルストーム』!!! やっぱり炎の相棒と言えば、強風でしょ! よいしょー!!」


 軍師・春日鉄人が、魔法使い・春日鉄人へとチェンジ。

 ニートは何にだってなれる。

 無限の可能性を秘めているのだ。


「おお! ゲルゲ殿! なんと猛々しい姿でござろうか……!! 鉄人殿も!!」

「ワシはこの世に生を受けて120と余年……!! これほど力に満ち満ちた時はなかった!!」


「さあ! 早いとこ片付けましょう! ケツカッチンなんで!!」


 燃える事を許された火の精霊。

 かつての同胞にボロカス言われた魔獣将軍。

 失うものは少ないニート。


 この三人衆は、結構強い。

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