第124話 妹が告白されたので、今日は戦争を休みます

 ついに本格的な戦争状態へと移行したコルティオール。

 いよいよ救国の英雄として異世界に転移した男、春日黒助。

 最後の戦いが迫っていた。


 現世の春日家では。


「離せ! 鉄人、離してくれ!! 俺は行かねばならん!! そして、この肉体を100パーセント解放する時が迫っているのだ!!」

「ダメだって、兄貴! 現世では5パーセントでも解放したら大惨事だよ!!」


「よぉし、分かった! ならば5パーセント解放することにしよう!!」

「たはー! 兄貴が屁理屈言ってる! これはレアだなー!!」


 救国の英雄がコルティオールに出勤もせず、ニートを相手に駄々こねていた。

 そこにやって来るのは、コルティオールの女神。


「ちょっと、何事なのよ!? 鉄人が緊急事態って言うから来てみたけど! 黒助、どうしたの!? あんたがそんなに取り乱す事なんて……! たまにあるけど!!」

「あー、良かった! ミアリスさんが来てくれた! セルフィちゃーん! そこにいるのは分かってるんだよ! ちょっと来て、手伝ってよー!!」


 ちゃっかり女神にくっ付いて来た風の精霊。


「ゔっ。べ、別に隠れてねーし! ただ、今日の恰好……その、スカート短すぎたかもって……。だから、あんま見んなし!!」

「ギャルなのに露出したら照れるヤツー! キタコレー!! それだけで僕は今日を生きていられるよー!!」


 春日鉄人が春日黒助から離脱しました。


「え、ちょっ、まっ!! まず、事情を言ってからイチャイチャしなさいよ!! 鉄人ぉ!! セルフィも! その服を創造したのわたしなんだからね!? 5回もリテイク出して来たのは誰!?」



「セルフィちゃん……。でゅふふ……」

「そ、その顔、ヤメろし!! 違うから! これは、ウチが気に入らなかっただけだし!! スカート短くしたい気分だっただけだしー!!」



 その後、ミアリスがガチめに怒ったので、鉄人とセルフィも黒助をなだめる作業に参加した。

 それから入念な事情聴取が行われるのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 ミアリスは「ふむふむ」と頷いた。


「要するに? 未美香を訪ねて同じ学校の男子が来て、ちょっと話があっからよ……! とかイケボで未美香を誘い出して、今頃しっぽりしているんじゃないかって?」

「さすがだな、ミアリス! 話が速くて助かる! 俺が野郎を一発殴るから、お前は想像魔法であのクソガキの未来を消してくれ!!」


「……わたしの魔法は創造ね。あと、人の未来を消すってどういう発想なの? って言うか、まだ未美香が告白されてるのか分からないじゃない」

「いや! されている!! 鉄人がそう言うんだ、間違いない!! 鉄人のコミュ力は本物だ!! セルフィが秒で恋に落ちるんだぞ!! 精霊なのに!!」


 その件に関しては黒助に概ね同意だが、彼自身も女神や死霊将軍を落としている事実から目を逸らしてはならない気がする。


「やー。まあね、あれは告白ですわ。うん。高校二年生ってそーゆう年頃だもん。後輩ができて、先輩もいて、同級生も当然いる。選択肢が増えるからこそ、自分が一番好きな子が誰か分かるんだよねー」

「なんかモテてたみたいな発言だし。……えっ? 鉄人、もしかしてモテるん!?」


 黒助が代わりに答えた。


「ああ。モテるぞ。高校時代はバレンタインデーに山ほどチョコレートを貰って来ていた。ニートの職に就いてからも、色んな所で何かを貰ってくるな」

「やー。なんでだろうね? 僕なんか、取るに足らない人間なのにさ!」


「……。ウチも、チョコレートあげるし」

「涙目でプルプルするギャル! キタコレー!! 安心して! 今は僕、セルフィちゃん一筋よ!!」


 度々脱線する話の流れ。

 ミアリスは「もうこのままうやむやにならないかしら」と考えていた。


 そんな折、玄関を開けて未美香が戻って来た。


「ただいまー。およ? お兄とミアリスさんだ! セルフィさんも! 何してんの?」

「み、みみ、未美香ぁ! 大丈夫か!? 何もされていないか!?」


「ちょ、なになにー? お兄、体触り過ぎー! もー! くすぐったいってー!!」

「……よし! 着衣に乱れはないな!!」


 ただいまのプレーについて説明します。

 春日黒助は、血の繋がっていない女子高生の義妹の体をまさぐりましたが、これは愛深き故の行為とみなしセーフとします。


 ミアリスとセルフィの冷たい視線を加えて、アウトカウント2から試合を再開いたします。


「さっきのクソガキ……いや、小僧……でもないな。学友はどうした?」

「学友ってお兄、ウケるー! 山中くんのこと?」



「鉄人! 山中くんの住所を調べてくれ!!」

「あんた、未美香がラブレター貰った時から何も成長してないわね……」



 未美香は「もぉ」と笑って、事の顛末について話し始めた。


「山中くんはね、あたしと付き合いたいんだって!」

「鉄人! まだ分からんのか!? よし、俺が今から山中と言う家を一軒ずつ回って来る!!」


「お兄、テンパり過ぎー! ちゃんと断ったよ?」

「そ、そうなのか!? それで、山中のくそったれ野郎はどうした!? 強引に交際を迫って来たのか!? 野郎、ぶっ殺してやる!!」


「あははっ! 山中くんは納得して帰ってったよー。あたし、好きな人がいるって言ったから、その辺は大丈夫!!」

「そ、そうか。それならばよかった。いや、良くない!! 好きな人がいるのか、未美香!?」


「うんっ! いるよー!」



「ミアリス。一生のお願いだ。呪いで人を殺せる魔法を教えてくれ」

「いや、あんた魔力ないんだから教えても意味ないわよ……。人差し指一本でだいたいの人間を殺せるでしょうが」



 黒助が「そうだった! では、戦争だ!!」と鼻息荒く出陣しようとすると、未美香が控えめに愚兄の服の裾を引っ張った。

 続けて、上目遣いで言うのである。


「あたしの好きな人って、お兄だよ? えへへっ。だーいすき!!」


 天使の波動は凄まじく、ミアリスとセルフィは危うく意識を失いそうになったと言う。

 鉄人は「こりゃあ告白もされますわ。未美香ちゃんに笑顔で話しかけられただけで勘違いしますわ。そりゃあもう」と見解を述べた。


 黒助は涙を流しながら、未美香を抱きしめていた。


「ああ! 神様、ありがとう!! こんなに素晴らしい妹を俺に出会わせてくれて!! なんと礼を言ったらいいだろうか!! 今日も世界が平和でありますように!!!」


 最終的に、巡り巡って世の中に優しくなった黒助であった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 その日の出勤は昼過ぎになった。

 最近の黒助は、コルティオールに着いたらまず、魔王軍の動向を確認する。


「メゾルバ。聞くが、魔王軍に動きはあるか?」

「くははっ。我が主。ヤツらは着々と砦を建造しておりますな。あの調子だと、1週間もすれば完成するかと」


 黒助は「そうか」と言って、会話を締めくくる。


「ならば、戦争だな。2度と歯向かえないように、その身に恐怖を覚えさせてやる」


 喉元過ぎれば熱さを忘れる。

 世界平和はどこへ行ったのか。

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