第122話 暗躍するのか! 魔王軍!!
とある山脈。
魔王城近くの集落では。
オークたちが暮らす村があり、そこには巨大な棺が置かれていた。
中は得体のしれない青い液体で満たされており、何なのかは気になるものの積極的に触れたいとは思えない異様な雰囲気を垂れ流していた。
そこにやって来たのは、黒いドレスを着た女。
虚無将軍・ノワールであった。
「ノワール様! ご命令通り、誰にも近づかせておりません!!」
「ありがとう。助かりましたわ、オークデビルのあなたがいてくださって。だって、他の方は何を言っているのか分からないのですもの」
オークはゴブリンと同じく、人語を発声できない。
だが、ハイオークやオークデビルと言った上位種は高い知能と優れた肉体を持ち、人語を口にする事も魔法を操ることもできる。
「あなたの出番がこんなに早く来るとは思いませんでしたわ。けれど、どんな廃物でも大事に取っておくと良い事がありますわね。なかなかいい感じに仕上がっているじゃありませんこと? ねえ、茂佐山?」
培養液に漬け込まれて良い感じに育っているらしいのは、かつて現世で新興宗教団体の神として君臨し、コルティオールに召喚されたのち強欲の邪神と名を変えた茂佐山安善であった。
彼の体にはいくつかの機械が埋め込まれており、かつて第四の邪神を名乗っていた頃よりも今の方がずっと神秘的な雰囲気を持っている。
彼の表情にはまったく変化が見られないが、ノワールの呼びかけに応じて目を見開いたことから死んではいないようであり、意思も存在していると思われた。
「このままあなたは力を増幅させ続けなさい。そうすれば、きっと神にだってなれますわよ? ねえ、茂佐山。では、ごきげんよう。次にあなたと会う時には、戦いの始まりを告げる鐘の音を一緒に聴きましょう」
そう言うと、ノワールはオークデビルに「引き続き見張りをお任せしますわ」と告げてオークの村から出て行った。
正直「いや、勘弁してくださいよ。ノワール様」と言いたいオークデビルだったが、五将軍に逆らって村が焼け野原に変わるのは避けるべきであり、結局貧乏くじを引き続けなければならない状況にため息をついた。
モンスターだって、哀しみを川に流してでも翔ばなければならない事もある。
これを哀川翔と言う。
◆◇◆◇◆◇◆◇
魔王城では。
「くっくっく。卿らに問う。なにゆえ余以外の者が全員でドロー2を出すのか。余の手札がえらい事になったのだが? これが卿らのやり方か?」
大魔王・ベザルオール様と愉快な側近たちによる、ウノ大会が開かれていた。
ただ遊んでいるように見えるが、それは勘違いである。
彼らは出撃の順番をこのウノによって決める事にしていた。
そして、ゲラルド以外は割と全力で出撃したくない。
ゆえに、ガチンコバトルの様相を呈すもの当然。
結果としてガチ勢に囲まれたエンジョイ勢のベザルオール様が煽りを食って、大量のカードをゲットしていた。
「しかし、先陣を務めるとなればやはり女神軍の本拠地を襲撃するのですか? あ、ワイルドドロー4で。緑」
「事はそう簡単ではないのだよ、アルゴム。既に過去の襲撃作戦から、女神軍の本拠地である農場を叩こうとするだけで難易度が跳ね上がるのだからね。ゲラルド、4枚寄越すのだよ」
「はっ! ……しかし、それではどうするのですか? 相手が攻めて来るのならば良いですが。そう思い通りにはならないと思いますが。ワイルドカード。緑」
「くっくっく。卿らの討議の熱気はなかなかに心地よい。それからゲラルド、ナイス緑。ドロー2なら売るほど持っておるわ」
ガイルの懸念している通り、これまでと同じ攻め方をすればどんな名将の用兵術をもってしても恐らく結果は同じだろう。
どの方角から、あるいは地中、もしくは空中、いずれの角度から攻め込んでも、結局異次元の農家と言う存在が移動してくれない限り、迎撃戦となって最終的にボコボコにされるのが関の山。
抜本的な戦いの変革が求められていた。
「例えばですが、異次元の農家の弱点を突くと言うのはいかがでしょうか。私もドロー2を持っておりました」
「なるほど。悪くない作戦なのだよ。だが、異次元の農家に弱点などあるのかね? 通信指令殿はそれを見つけたとでも? ……ゲラルド、4枚寄越すのだよ」
「はっ! 某は封印を解いて頂いてから日が浅く、力になれそうにありません。ゆえに、一番槍を務めるお方の右腕として働きたく思います! リバースで」
「くっくっく。……ゲラルドよ。余の大量の手札を見てなお、敢えてのリバースとは。今日のおやつはオレオであるが、卿にだけは牛乳を出してやらぬからな」
アルゴムは考える。
リバースにより反転した順番の中で、思考も渦を巻く。
「では、人質を取るというのはどうですか? あまり好みではありませんが、効果的な手段だと思います。スキップで」
「くっくっく。正々堂々としている事だけが戦ではないゆえ、アルゴム。卿の考えは正しい。それから、余を飛ばすとかマ? 卿らにはこの手札の数が見えんの?」
「さすがですなぁ、皆様。某のいない間も戦い続けておられたのは伊達ではないと。ドロー2です」
「ふうむ。人選によるが、悪くない手だと私も思うのだよ。では、アルゴム。モルシモシを使って数日の間、偵察を行うのだよ。今回は異次元の農家の弱点になり得る者がいるか。いるのならば、その者を拉致する事は可能か。これに留意するのだよ。ドロー2」
「了解しました。良いターゲットがいると助かるのですが。ドロー2です、ベザルオール様」
「くっくっく。卿らは先ほど余が申した、ドロー2なら売るほどあると言う言葉を真に受けておるな? くっくっく。あれは嘘だ。……ゲラルド、6枚ちょうだい。あともう余の負けで良いから、もう一度最初からやりたい」
こうしてウノは先陣を決める戦いから作戦会議へと姿を変え、最後はベザルオール様を3人で痛めつけるゲームに進化を遂げた。
異次元の農家。つまりは春日黒助に有効な人質。
候補はすぐに何人も浮かぶが、それをすると黒助の怒りを買うだけのような気がしてならない。
今のところ専守防衛に努めている彼を無意味に刺激するのはお勧めできないと誰か魔王軍に伝えて欲しい。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃。
春日大農場では。
「へっきし! ちくしょう!! ……すまん。食事中に失礼した」
「黒助、風邪かしら? ちょっと待って。柚葉が持って来てくれた葛根湯があるから。あ、でも葛根湯は空腹時の方が良いんだったわね。じゃあ、とりあえず鼻炎薬でも飲んでおく? 眠くならないヤツがあるわよ」
余りにも噂をされるものだから、お約束が発動してくしゃみをした黒助。
彼の身に悪意が忍び寄るのか。
それとも忍び寄らないのか。
まずはそこが大事なポイントである。
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