家の倉庫が転移装置になったので、女神と四大精霊に農業を仕込んで異世界に大農場を作ろうと思う ~史上最強の農家はメンタルも最強。魔王なんか知らん~
第120話 援軍 ~軍師・春日鉄人(ニート)、今日も陰から異世界を守る~
第120話 援軍 ~軍師・春日鉄人(ニート)、今日も陰から異世界を守る~
春日鉄人がコルティオールの空を行く。
そのスピードは鳥よりも速く、雲を突き抜けフライアウェイ。
「やや。あそこにいるのは……!」
40キロほど飛んだところで、鉄人はゴンゴルゲルゲとその背中に乗っているイルノ、ウリネを見つけた。
「おーい!」と彼は手を振って呼びかける。
「おお! 鉄人様ではありませぬか! もしや、事の次第をご存じで!?」
「だいたいはご存じですよー! とりあえず、ゲルゲさんたちが無事でよかった!!」
「メゾルバのヤツに借りを作るのは癪だったのですが……。正直なところ、あの場に残っておったところで大した戦力にはなれぬと判断した次第でありまする」
その割には、実に爽やかに撤退した気がするのは何故か。
「てっちゃん、てっちゃん! メゾっちを助けてあげてよー! ボクたちを逃がしてくれたんだよー!」
「はいぃ! イルノからもお願いしますぅー。メゾルバさんは立派でしたぁー」
「ぐぁあぁぁっ!? なにゆえお主らはワシの背中を叩くのだ!?」
「だってー。ゲルゲ、全然戦おうとしないんだもーん」
「せめて、いつものフレアボルトなんとかくらいは使って欲しかったですぅー。絶対に効かないとは思いますけどー」
なんだかひどい扱いを受けているゴンゴルゲルゲを見て、春日鉄人は親近感を覚えたと言う。
怒られ続ける火の精霊に向かって、サムズアップの鉄人。
「まあまあ、ゲルゲさんはこのまま無事に農場に戻るのがお役目ってことで! 2人もあんまり怒らないであげてー!」
「かしこまりましたぞ! 鉄人様、戦場へ参られるのならばお気を付けを!! 相手は四天王の筆頭であると申しておりますれば、鉄人様にも万が一と言う事が!!」
「なるほどー。バトルものでは、四天王の最後に出て来る人は大幹部に匹敵する強キャラのパターンが多いですもんねー。分かりました! 注意します!!」
そう言うと、鉄人は再び速度を上げた。
何となくメゾルバの魔力が小さくなっていくのを感じ取ったからである。
春日鉄人にとって、力の邪神・メゾルバは魔法の基礎を教えてくれた恩がある。
「恩知らずにニートはできない」が鉄人のモットー。
親切にしてくれた人の事は一生忘れないのが、ニートの仁義だと彼は心得ていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
鉄人の察知した状況は正しかった。
地面に膝をつき、額からは大粒の汗と緑色の血液を流すメゾルバ。
「やはり! 邪神など恐れるに足らず!! ベザルオール様が某の封印を解かれなかった理由も分かる!! この状況を見越しておられたのだぁ!!」
ゲラルド、違う。ベザルオール様は君の事をすっかり忘れていたのだぁ。
「く、くははっ。威勢は良いが、我を滅するにはまだ足りぬようだが?」
「ほう。悪くない面構えだ。邪神は死など恐れぬか?」
「くははっ。死は怖い。だが、真に恐れるは我が主の期待に応えられぬことよ!!」
「裏切り者が献身について賢し気に語るな!! ベザルオール様のお気持ちも知らずに!!」
ベザルオール様はそれほど悲しんではおられません。
「くははっ。ゲラルドよ。貴様、スイカなる果実を食したことはあるか?」
「ない! 魔族は果実など食さん!!」
「そうか。ならば、我の心など貴様には永遠に分かるまい」
「ああ、分からんな! 今から死ぬお前の心の中など、知りたくもない!! お喋りは終わりだ!! 死ね! 『スパイク・サイクロン』!!」
甲羅からトゲを生やし、高速回転しながらメゾルバに迫るゲラルド。
力の邪神は静かに目を閉じた。
生を諦めたからだろうか。
否。
彼が到着したからである。
地面から現れたのは、巨大なスケルトン。
通常の骸の怪物のサイズを考えると、5倍ほどの大きさだろうか。
そのスケルトンは、ゲラルドを弾き飛ばした。
「な、なんだぁ!? どうしてモンスターが某の邪魔をする! そもそもスケルトンに意思などないはずだ!! 従属だけが取り柄の骸ではないか!!」
「あらー。酷いことおっしゃる! スケルトンくんもちゃんと感情あるんですよー? 今もね、今日も1日頑張るぞい! って思ってます!!」
「誰だ!? 姿を現し、名乗らんか!!」
「えー。そんな、鎌倉時代の武士みたいなこと言うタイプが魔王軍にもいるんですねー。まあ、いいか。よっと! お待たせしました、メゾルバさん!!」
春日鉄人。戦場に到着する。
この絶妙なタイミングの良さは兄を彷彿とさせる。
そして、この余裕もやはり兄に似ていた。
本人に指摘しても「兄貴に似てるとかおこがましいっすよー!」と否定するだろうが。
「僕の名前は春日鉄人! 異世界の聖戦士、ニートと言う職業をしています!!」
「くははっ。弟君……! お手間をかけさせる。面目ない」
「なんの、なんの! お互い様ですよ! さあ、名乗ったし早いところ帰りましょう! 晩ごはん、ちらし寿司らしいですよ! 僕好きなんですよねー、お寿司!!」
黒き盾・ゲラルドは戦慄していた。
目の前のどうみてもひ弱な人間が、どういう訳かアンデッドモンスターを使役しており、さらにそのスケルトンに力比べで負けている事実。
魔王四天王の序列1位を自認しているゲラルドにとって、それは屈辱だった。
それ以上に、恐怖した。
「く、ぐぅあぁぁぁぁ!! たかだかスケルトン風情がぁ! このゲラルドに対してぇ! いつまで剣を立てている!! 身の程を弁えろぉぉぉ!!」
「おっ! さすが四天王の強い人! 僕のデカスケルトンがバラバラに!!」
ゲラルドは魔力を放出させ、と言うよりも暴発に近い形で絞り出し、どうにか巨大スケルトンを破壊する。
だが、混乱と疲労により満足な思考ができない。
その様子を見た鉄人は、すぐ行動に出る。
「メゾルバさん! はい、魔力をちょっと分けましたから! 飛べますか?」
「くははっ。痛み入る、弟君。無論!」
「じゃあ、逃げましょう! ここで熱くなって戦うのは僕の流儀じゃないので! では、失礼しまーす! もう会いたくないな! ええと、亀っぽい人!!」
その引き際は鮮やかだった。
あまりにも呆気なく行われた退却に、ゲラルドはしばし呆然とする。
「な、なんなのだ、あの人間は……! 聞くところによると、コルティオールの人間は絶滅済み。異次元の農家だけが現存していると言う話だったはずなのに……!! これは、すぐにベザルオール様へと報告に向かわねば!!」
ゲラルドも魔王城に向かって飛び去った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
帰りながら、鉄人はメゾルバに質問する。
「あの怖い人って、魔王軍の何番目くらいの強さですか?」
「くははっ。弟君も敗者の我に容赦のないことで。ヤツの上には、長らく五将軍の地位に就くガイルとノワールが。さらにアルゴムと言う男もなかなか」
「なるほどー。で、そのテッペンが大魔王様ですかー。結構面倒ですね。僕には付いて行けない次元の戦いになりそう!」
「弟君は謙遜家であられる。本気を出せば、先ほども勝てていただろうに」
「やだなぁ! ニートがいきなり本気出したら、えらいことですよ! じゃあ、明日から本気出します!!」
遭遇戦はこうして終わる。
魔王城に「第二の脅威的な人間」の報がもたらされるのは、それから1時間後の事であった。
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