第119話 遭遇戦 ~邪神と魔王四天王の小競り合い~
それは、ほんの些細な偶然から始まった。
「メゾルバよ。本当にこの辺りにデビルオニオンが群生しているのだな?」
「くははっ。火の精霊は堪え性がなくて困る。もうすぐだ」
力の邪神・メゾルバと火の精霊・ゴンゴルゲルゲ。
彼らはコカトリスの餌になる植物型モンスターの群生地を目指して飛行していた。
「ゲルゲさんもメゾルバさんも、仲良くしてくださいですぅー」
「ねー! 2人ともおじさんなのにー! 聞き分けがないんだからさー!!」
2人の背中には水の精霊・イルノと土の精霊・ウリネの姿が。
翼を持つメゾルバと炎をジェット噴射させる事によって飛べるゴンゴルゲルゲ。
彼らの背中には農場で仕事がなかった乙女たちが行儀よく座っていた。
「くははっ。我が主の命とあっては、誰が随伴しようと文句は言わぬ。どれ、見えて来た。あの森だ。見えるか、四大精霊どもよ」
「あー! 見える、見えるー!! デビルオニオンだけじゃなくて、サタンキャロットまでいるよー!! メゾっち、意外と物知りだよねー!!」
「くははっ。この辺りは魔王軍の領地であるゆえ、少し考えればモンスターが巣食っている事など分かるのだ。降りるぞ、火の精霊よ」
「まったく、この男はいちいち偉そうな喋り方なのがワシは好かん。そうは思わぬか、イルノ」
イルノは「ゲルゲさんも似たようなものですぅー」と思ったが、口には出さなかった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その森は植物系モンスターのバーゲンセール状態だった。
早速ウリネが追いかける。
「待てー! あははー! 活きの良い子がいっぱいだー!! えーい! 『ガイアウォール』!!」
「ほう。手際が良いな。土の精霊は四大精霊の中でも見どころがある」
「わー! メゾっちに褒められたー!!」
逆サイドでは、ゴンゴルゲルゲが歩くタマネギに苦戦していた。
「ぬう! ええい、まどろっこしい!! こうなれば、我が拳で焼き尽くしてくれるわ!!」
「ダメですぅー! 生け捕りにしないと黒助さんに怒られますぅー!!」
「ぬぅぅぅ! こんな事ならば、ミアリス様に大きな網でも創造してもらって来るんだったわい! イルノ、そちらから追い込むのだ! ワシはこっちから行く!!」
「わ、分かりましたぁー。……多分、追い込んでも捕まえる術がないから普通に逃げられると思うですぅー」
4人は各々の方法で、コカトリスの良質な餌をゲットした。
最初に異変に気付いたのは、ウリネだった。
「ねーねー。メゾっちー」
「何用か?」
「なんかねー! 大きな魔力が近づいてくるけどー? これってメゾっちのお友達ー?」
「むぅ! ウリネの言う通りではないか! 凄まじい魔力であるぞ!!」
お忘れかもしれないが、力の邪神・メゾルバは元魔王軍。
封印されていた時間が長いものの、その内情に四大精霊よりは詳しい。
「……これは、少々厄介なヤツに見つかった。この魔力は我にも覚えがある。そうか、四天王はまだ1人残っていたか」
やって来たのは、魔王四天王の序列1位。
黒き盾・ゲラルド。
彼は飛行魔法を使い高速で飛来したかと思えば、次の瞬間には地上に降りていた。
「やはり……! 貴様は三邪神のメゾルバ!! 裏切り者の分際で、よくもぬけぬけと大魔王様の領地に足を踏み入れたな! 某が八つ裂きにしてくれる!!」
ゴンゴルゲルゲがメゾルバに耳打ちした。
「おおい! お前ぇ!! 安全な場所であると申したではないかぁ!!」
「くははっ。この世に絶対に安全な場所など存在せぬ。火の精霊は頭が固くて困る」
相性の悪い2人の間を、イルノが取り持つ。
「今はケンカしないで欲しいですぅー! それよりも、あの亀っぽい人、すっごく強いですぅー! 亀っぽいのに動きが速いとか、そんなの反則ですぅー!!」
メゾルバが「くははっ」と笑ってから続ける。
「ここは我が引き受けよう。貴様らは農場へ戻り、我が主に事の次第を伝えよ」
「そうか! 良し、そう言う事ならば遠慮はせぬぞ!! 頑張るがよかろう、メゾルバ! 死んだ後の葬式は任せておけ!! 綺麗に死体を灰にしてやる!!」
「……くははっ。何の躊躇いもなく逃げおったか。おのれ、火の精霊。普通は誰か1人くらい残るものだろう」
急に1人にされたメゾルバ。
目の前には、魔王四天王の最強格が立ちはだかる。
「お仲間とは上手くいっていないのか? どうだ、魔王軍に戻って来るか? その気があるのならば、某が大魔王様やガイル様、アルゴム様に口利きをしてやっても良い」
「くははっ。残念だが、我は主をもはや終生変えるつもりはない。我の主はただ一人! 圧倒的な力を持つ農家のお方よ!!」
ゲラルドは「やれやれ」と両手を挙げた。
そして、盾から無数のトゲを生やす。
「では、ここで死ぬが良い!! 大魔王様の後顧の憂いを1つ、確実に潰す!!」
「やってみるがいい。邪神には敵わぬ」
力の邪神・メゾルバの孤独な戦いが始まった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、春日大農場では。
戦いに際して一時的に急上昇したメゾルバの魔力を察知した者がいた。
彼は今日、予定していた移動ちびっこふれあい動物園の視察をキャンセルして、コルティオールにやって来ていた。
「大人の方はちょっと……。おひとりですよね?」と係のお姉さんに言われて、彼は「はい! ひとりです!!」と胸を張った。
あまりにも堂々としていたため係のお姉さんが折れそうになったが、そこはベテランのおばさんがやって来てカバーし「お引き取りください」と言われて引き取って来た、その男の名前は。
「どうしたし? 鉄人が珍しくマジメな顔してんだけどー」
「いやー。これはちょっと、面倒な事になりそうな予感がするんだよねー」
春日鉄人である。
ニートの活動が潰れたので、異世界で風の精霊とデートしていた。
「セルフィちゃん。兄貴がどこに行ったか知らない?」
「黒助様なら、ヴィネさんとピンポコ豆拾いに行ったし。なんか、あれらしーよ? ピンポコ豆を養殖するんだって」
黒助の場所は彼に魔力がまったくないため探せずとも、ヴィネの魔力を辿ればそこに行くのは難しくないと思われた。
だが、鉄人はその役目をセルフィに任せる。
「黒助様のとこ行けばいいん? おっけ。鉄人はどこ行くんだし?」
「鉄人くんはこれからねー。ちょっとバイオレンスな場所に行かなきゃなんだよねー。いやー、僕に血と土煙の立ち込めるステージへ行けとか、ちょっとニート使いが荒いよねー」
ニートはセルフィに「晩ごはんまでには戻るよ!」と言って、飛行魔法を発動させる。
目標は、ユリメケ平原から西に80キロほど。
「うわぁー。メゾルバさん、苦戦してるねー。僕、行っても平気かしら? やだー、怖いー!!」
これが最終決戦の始まりである事を知っている者は、まだ誰もいないのである。
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