第118話 お米祭りだ! 春日大農場!!

 さて、何事もなく2週間が経過したコルティオール。

 春日大農場では本日、満を持して稲作体験学習の締めが執り行われる。


「申し訳ありません、岡本さん。精米までして頂いて。なんとお礼を言ったら良いか」

「いえいえ、お気になさらず春日さん。私もここの人たちを随分と好きになってしまいましたからねぇ。これはサービスですよ。なっはっは」


 岡本さんの持って来た農協印のマシーンたち。

 どのマシーンも今や米農家には欠かせない逸品である。


「それにしても、こんなにたくさんの機械をタダで貸してくれるなんて! 農協って太っ腹なのね!!」

「よせ! ミアリス!!」


 黒助が語気を強めて女神を止めた。

 この話題を広げると、誰かが大けがをするからである。


「なっはっは! 稲作体験は未来の農業従事者育成の期待値を込みで提供していますからねぇ! 実にお安くなっておりますよ!!」

「あれ? さっきサービスって……?」


 黒助はミアリスの肩を強引に掴み、抱き寄せた。

 そして彼女の顎をクイッとやって、ワイルドに叫ぶ。



「これが農協のサービスだ!! 農協のサービスは、過不足なく農協のサービスなのだ!! 分かってくれ!!」

「くぅぅぅぅぅぅぅぅっ! なんか分からないけど、分かったわ!!」



 実にぼやっとしたセリフでこの話題を収める事に成功した我らが救国の英雄。

 岡本さんは「これは本当のサービスです! なっはっは!」と言って、ビニール袋に入った手ぬぐいを差し出した。


 農業従事者の家には、農協の手ぬぐいとサランラップ。

 それから謎のキャラクターの貯金箱にトイレットペーパーとボックスティッシュ。

 これらが高確率で存在している。


 知り合いに農家がいる人は、「定期預金ってさー」と呟いてみて欲しい。

 だいたい乾いた笑いで対応されるだろう。

 ただし、場合によってはぶん殴られる。


「兄さーん! お料理が出来上がりましたよー!!」

「あたしも作ったんだよっ! お芋の肉そぼろー!! じゃーん!!」


 米を作ったら、食べるまでが仕事である。

 より美味しく味わうのがジャスティス。


 春日家も総動員で新米に花を添える。


 テーブルには、サツマイモのコロッケとサツマイモの肉そぼろ和え。

 イノシシ型モンスターのしぐれ煮。

 トマトとモンスター肉のマヨネーズポン酢炒め。


 まだまだ続く。


 柚葉が持って来た漬物シリーズ。

 たくあんにぬか漬け。大葉のニンニク漬けもある。


 ヴィネの食品加工場からは、梅干し。

 キュウリのピクルスとピンポコ豆の味噌を使ったネギ味噌。

 ヒョッポロキノコを使ったなめ茸和えモドキ。


 そして新米を食べるのならば絶対に外せないのが豚汁。


 これはイルノとセルフィの合作。

 火加減はゴンゴルゲルゲが担当し、ウリネは傍で「頑張れー!」と応援した。

 四大精霊の力を結集して作った意欲作である。


 それらがミアリスの創造した凄まじく長いテーブルに、ドンと並ぶ。

 壮観であった。


「こりゃあすげぇぜ、ブロッサムの旦那ぁ!!」

「うむ。とんでもない事が起きておるのは吾輩にも分かるでござるよ」


「おい。ブロッサム。養鶏場からコカトリスの卵をいくつか持って来い。卵かけごはんが食いたい」

「なんと! 米にはそのような食し方が……!! すぐにご用意するでござる!!」


「ヴィネは醤油だ! あまり甘くないヤツを頼む!!」

「こ、こんな一致団結する系のイベントにあたいが参加できるなんて……!! はぁぁぁぁ!! 逝っちまいそうだねぇ!!」


 ヴィネが逝っちまったので、醤油はリッチが持って来た。

 役者が出揃い、ホカホカご飯も続々と炊きあがっている。


 ならば、事業主が開幕を宣言せねばならない。


「あー。お前たちには、今日! 米の素晴らしさを骨の髄まで味わってもらいたい! コルティオールに米食を定着させる、偉大な一歩をお前たちはこれから踏み出す! 野暮な事は言わん! 好きなおかずをゲットしたら、ご飯と一緒に口の中にかきこめ!!」


 「うおぉぉぉぉぉぉ!!」と言う唸り声と共に、春日大農場の収穫祭が始まった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 炊き立ての新米は、誰と組んでも名バッテリーとなる。

 ならば、春日大農場に集いし多種族の全てが例外なく虜になるのは必定。


 その過程を細かく語っていくと、朝が来て夜が来て、また朝が来る。

 よって、彼らの満足そうな表情と「もう食えない」と言う嬉しい悲鳴は割愛する。


「すまなかったな。柚葉、未美香。2人にはずっと料理をさせてしまった」


 黒助は家事スキルの高い妹たちを労った。

 彼女たちは兄の言葉に顔をほころばせる。


「にへへーっ! お兄が嬉しそうだから、あたしも嬉しいっ!」

「あ、ズルいですよ、未美香! それ私が言おうと思ったのに!!」


「まあまあ! 兄貴のために一家が団結するのって、ステキじゃん?」



「今日に関しては鉄人さんを悪者にできないのが悔やまれますね……」

「ねー。鉄人が珍しく裏方に徹して、しかも役に立つとかー。コルティオールに雪が降るかもだよー」



 いつもは晩年の横綱・白鵬を彷彿とさせる烈火の如き張り手で義兄をこてんぱんにする義妹たちだが、今日はその攻めが緩い。

 それもそのはず。


 実は鉄人、ほとんど1人で全従業員が満足する量の米を炊いていたのだ。


「いやー。この日に備えて遠隔同時魔法の特訓しといて良かったよ! 120の釜を管理できるのは、ニート界広しと言えど、僕くらいのものだよ!!」

「恩に着るぞ、鉄人。本当にお前は頼りになる男だ。これ、お前の欲しがっていたニンテンドースイッチの新モデルだ。鬼窪が転売ヤーとか言う気前の良い人に譲ってもらったらしい。さあ、納めてくれ!!」


「ひょー! 兄貴、そういうとこだよねー! こりゃあ皆がついて行きますわ!! セルフィちゃんとこれでスマブラするんだー!!」

「スマブラが何なのかは分からんが、心行くまでやってくれ。それから、もう一仕事だけ頼めるか?」


 黒助は鉄人に密命を願い出た。

 「なにそれ! 兄貴ってやっぱ優しいわ! オッケー、任せといて!」と彼は快諾したのであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 とある山脈。

 魔王城の謁見の間では、数分前に外壁を壁ドンされてベザルオール様が怯えていた。


「失礼いたします! 外壁の確認をしたところ、このようなものが突き刺さっておりました!!」

「くっくっく。ガイルよ。それ、何なん?」


「手紙が添えられておりますな。ええと、いいから黙ってそれを食え! と書いてありますぞ! どうやら、この白い粒を凝縮させた三角形の物体は食事のようです」


 アルゴムがスッと手を挙げた。


「毒が入っているかもしれません。私がまず毒見をいたしましょう」

「くっくっく。良い。どこの誰がくれたのか知らぬが……。お裾分けに対してそれは失礼であろう。礼を失してはならぬ。どれ……。ぬぅ……」


 迷いなくおにぎりを口にしたベザルオール様。

 ちなみに具は梅おかかである。


「くつくっく。なにこれ、めちゃうま。卿らも食べてみよ。そして、これをお裾分けしてくれたあしながおじさんに無上の敬愛を。くっくっく」


 コルティオールは本日、平和であった。

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