第117話 稲刈りだ! 春日大農場!!
本日、春日大農場では一大イベントが執り行われる。
こればかりはかのエリート農業戦士・春日黒助ですら経験がないと言うのだから、実に一大事。
「よし。全員揃ったな。ミアリス、号令を頼む」
「一番後ろの子まで聞こえてるー? はい、大丈夫ね! 今日は予告していた通り、これから稲刈りを行います! 全部手作業でやるから、頑張るのよ!! 収穫したお米はわたしたちのご飯になるんだからねー!!」
作業に参加する四大精霊。
オーガとリザードマンたちも「はい!!」と良い返事で女神の檄に応える。
「うむ。素晴らしい農業コールだ。やはり、号令はもっと早くミアリスに任せるべきだったな。俺のような男の声よりも、女神の可愛らしい声の方がみんなも気合が入るだろう」
「ほ、ほ、ほぁぁぁぁぁぁったぁい!! 油断するとすぐこれよ!! 可愛いとか、特別な時以外言わないでください、何でもしますからってこの間お願いしたじゃない!!」
「俺がお前を可愛らしいと思った時が、それすなわち特別な時なのだが?」
「んぁぁぁぁ!! その鋭い中に垣間見える純粋な瞳で見られるとぉぉぉ!! これはもう、逝っちまうしかないじゃなぁぁぁぁい!!」
最近、死霊将軍よりもちょいちょい逝っているミアリス様。
再起動までしばらく時間がかかりそうなので、先導役を引き取った黒助。
「あー。ミアリスも言った通り、今回の稲刈りは全てを手作業で行う。これは俺もやった事がない。よって、アドバイザーにお越しいただいた。お前たち、拍手でお迎えしろ」
ゴンゴルゲルゲが「はい! 待ってましたぁ! よいしょー!!」と合図をすると、従業員が勢いよく両手を叩く。
軍手をしているためくぐもった音の手拍子が鳴り響くのは、農業イベントならではである。
「これは皆さん。活気があっていいですねぇ!」
「ご存じ、農協の岡本さんだ。岡本さんは農協が主催する、『稲作体験』の主任を務めておられた事もある、プロフェッショナルだ。今日は春日大農場の全権を委任している! お前たちも俺の戯言よりも岡本さんの至言を聞くように!!」
「おやおや、困りましたねぇ。しかし、皆さんしっかりとした服装で驚きましたよ。リザードマンさんたちまで、バッチリ長袖長ズボンに帽子と完璧じゃあないですか。なっはっは! 春日さんの指導の賜物ですな!」
「ミアリスが一晩でやってくれました。もみ殻がくっ付くと痒くなりますので、リザードマンがいかに強靭な皮膚だろうと油断はしません」
岡本さんは「そうですね」と頷く。
「鎌を使って稲を刈りますからねぇ。用心と用意はあり過ぎて困る事はないのです。リザードマンさんたちもしっかり軍手をしてくださいね。鎌以外にも、稲と言うものは案外皮膚を傷つけますからねぇ」
「はっ!! 了解いたしました!!」
その後、岡本さんによる正しい稲刈りの手順についてレクチャーが行われた。
全てを諸君に伝えようとすると、だいたい20000文字くらいになるので割愛する。
非常に残念。
収穫の開始を告げるのは、復活した女神様のお仕事。
「よーし! みんな、頑張るわよ!! 美味しいお米のために!!」
「「おおおおおっ!!!」」
こうして、コルティオールにおける初の稲作。
その集大成への道が始まったのである。
◆◇◆◇◆◇◆◇
ゴンゴルゲルゲとウリネが一緒になって、おぼつかない手付きで稲を握る。
「んー!! ゲルゲー! ボクもそんな風に一度にいっぱいゲットしたいよー!!」
「ぐーっはは! ワシくらいの力があれば、さらに量を増やす事も可能であるぞ!!」
黒助の目が光る。
「バカ野郎!! 『
「ぐあぁぁあぁぁっ!! く、黒助様ぁ!?」
稲刈りはスピードを競うものではない。
むしろ、量は少しずつ、回数を増やして作業するのがベター。
『
「いや、お前のビンタした相手、まさに刃物持ってるやんけ!」と言ってはいけない。
女神と英雄から同時に冷たい視線を浴びせられる恐れが高い。
コルティオールにおいて、それは死も同じこと。
「も、申し訳ございませぬ……! ワシが間違っておりました……!!」
「ああ。ゲルゲならば分かってくれると思っていた」
「ウリネさん。鎌を当てた後は、下から上に引き上げるようなイメージで刈ると力の弱い方でもスムーズにできますよ」
「わー! ホントだー! ありがとー! 岡本のおじさんー!!」
反対側では、ミアリスがイルノとセルフィに熱のこもったエールを送っていた。
「イルノ! 腰が入っていていいわね! セルフィはもっと踏ん張りなさい!!」
「はいですぅー。トマトちゃんで培った足腰を見せる時ですぅ!」
「うぅー。ウチは力仕事に向いてないしー! こんなの魔法使えばいいし!!」
ミアリスは黒助のように、力で指導をしようとはしない。
彼女は四大精霊を統べる創造の女神。
「セルフィ? 聞いた話だと、農家に嫁いだらご近所の稲刈りの時とかにお手伝いに行く事があるらしいわよ。そこでもたついていると、旦那が恥ずかしい思いをするとも聞いたわ」
「そんなん、ミアリス様にとっての問題だし! ウチは別に!!」
ミアリスの目も光る。
「セルフィ? ……鉄人も農家の家の次男よ? しかも、農業をしている家でニート。高確率で将来はなし崩し的に実家を手伝うことになると思わない?」
「……うぐっ!! し、仕方ねーから頑張るし!! べ、別に、鉄人のためじゃねーし! ウチがお米を愛しているからだし!!」
イルノはせっせと稲を刈り進めながら、思った。
「この2人、将来は姉妹になるかもしれないですぅー」と。
その後、こまめな水分補給と昼食休憩を挟みつつ、春日大農場の稲刈りは順調に進んで行った。
◆◇◆◇◆◇◆◇
昔ながらの稲刈りでは刈り終えた稲を縛り、逆さにして干す。
これを『
逆さにするのは「茎の部分に残っている栄養を余すことなく落とすため」とも、「自然の風に当てて水分を抜く際にこうする事で甘みが増すから」とも言われている。
是非、この情報を明日にでも友人や同僚と世間話ついでに広めて欲しいと、我らが創造の女神・ミアリス様が上目遣いでお願いしておられる。
「皆さん、お疲れさまでした! 架け干しは現世ですと1ヶ月前後行うのですが、晴天続きのコルティオールでしたら10日から2週間で良いでしょう! それから籾摺り、精米と進んでいくのですが、そこは不肖、わたくし岡本が一肌脱がせて頂きます! 農協が誇る機械をご覧にいれましょう!!」
岡本さんの言う事は、つまりこうなる。
「農協の機械で面倒な作業は済ませるので、次に待っているのは自分たちで育てたお米を美味しく食べる工程ですよ!」と。
要するに、これから日めくりカレンダーが2週間分ほど高速で破かれる。
その先にはお米の収穫祭が立ちはだかっているのだ。
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