第115話 春日未美香とケルベロスのぶらり異世界散歩
今日はコルティオールに春日未美香が訪れている。
午前中はテニスコートで汗を流し、お昼ご飯を食べてから母屋のシャワーでサッパリして、今は縁側に座っていた。
「ミミっちー! スイカ持って来たよー! 一緒に食べよー!!」
「わー! ありがと、ウリネさん! 美味しそうっ!!」
「ボクが作ってるんだもん! おいしーよ!! こっちはね、スイカのゼリー! ヴィネっちが最近作ってるんだー! ミミっちが来てるって言ったら、持って行っていいってー!!」
「えへへ! やたー! ここの人たちみんな優しいよね! あたし大好き!!」
未美香は春日大農場の従業員全員から愛されている。
彼女も従業員全員と仲が良い。
その中でも特に仲良しなのがこの土の精霊・ウリネさん。
農場にやって来た頃にはやる気がなくダラっとしていたウリネだったが、未美香との交流によって今では活発系健康少女の仲間入りを果たしていた。
「ミミっちさー。今日はもうテニスしないのー?」
「うんっ! しないよ! オーバーワークはダメなんだって! お兄が言ってたから!」
「そうなんだー! じゃあ、暇なのー?」
「暇だよっ! ウリネさんは?」
「ボクもね、暇なんだー! もう『大地の祝福』は使い終わったしー! ねーねー、ミミっち! 遊ぼうよー!」
「いいよっ! 何して遊ぶ? あっ! あたしね、お散歩がしたい!!」
「え゛っ? それはクロちゃんに怒られるから……」
「ダメ? そっかぁ……」
春日未美香のコルティオールでの二つ名を覚えておいでだろうか。
そう、天使である。
「だ、ダメじゃないよー! ボクもお散歩したいと思ってたしー!」
「ホント!? じゃあ、お散歩行ってもいいの!?」
「あ、あれー? いいのかなぁー? うーん。いい気がしてきたけどー」
「やたー! じゃあね、ケルベロスちゃんも連れて行ってあげよ! きっと喜ぶよっ!」
「そうだねー! ……あれ? お散歩に行く事になってる?」
ウリネさん、天使の魔法にかけられる。
それからケルベロスの小屋と言う名の母屋より大きな家に向かい、三つ首の魔獣を解き放った春日未美香。
「くぅーん! わっふ、わふ!」
「あははっ! くすぐったいてばー! じゃあ、お散歩に出発だよっ!!」
「わわっ! 待ってー! ミミっちー!!」
先にオチを言っておくと、このあと黒助が農場の外周を何度も走り回った挙句、悲観に暮れて崩れ落ちます。
◆◇◆◇◆◇◆◇
天使は人を惹きつける。
彼女が歩いて行く先に、何故か農場の関係者がタイミングよく現れるのも天使の御業をもってすれば説明不要の事実となる。
「これは我が君の妹君。くははっ。ケルベロスを従えて、どこへ参られる?」
「あ、メゾルバさんだ! こんにちはー!」
「くははっ。こんにちは」
「……メゾっちがこんにちはって言うの、初めて聞いたよー」
まず手始めに、力の邪神にフレンドリーな挨拶をさせて見せた未美香。
彼はコルティオールに現存する唯一の邪神である。
「メゾルバさん! お仕事頑張ってね! いぇーい!」
「くははっ。いぇーい」
邪神とハイタッチを交わす天使。
メゾルバはコカトリスの餌になるモンスターを捕獲すべくユリメケ平原を回遊していたのだが、彼はこの後、とても幸せな気持ちになって職務放棄をする。
ニコニコした顔でノコノコと農場に帰って、黒助にぶん殴られるまでがワンセット。
さらにしばらく歩くと、ケルベロスが吠えた。
その視線の先には竜の頭にトゲトゲしたボディが特徴の、魔獣将軍・ブロッサム。
「ややっ、これは未美香殿! このようなところで一体何をしているのでござるか?」
「ブロッサムさんだ! こんにちはー!」
「こんにちはでござる!」
「ブロたんがこんにちはって言うのは、別にそこまで珍しくないなー!」
ケルベロスが「わっふ!」とブロッサムに吠える。
コルティオールの言語は統一されているが、ケルベロスのようにそもそも人語を発音できないモンスターとの意思疎通は一部の魔族にしかできない。
「そうでござるか! えっ!? ……そうでござるか」
「わぁ! いいなぁ、ブロッサムさん! ケルベロスちゃんとお話できて!!」
「ブロたんのアイデンティティだかんねー! ケルベロス何て言ってたのー?」
「ボクの中で、主従関係の順位は未美香が一番になったよ! ブロッサムは7番だよ! ……と言っておるでござる。かつては様付けだったのが、いつの間にか呼び捨てになっておったでござるよ。ふ、ふふ……」
「……なんかごめんねー。ブロたんにはもっと色々いいとこあるからさー。元気出してー」
それからケルベロスと追いかけっこをして遊んだ未美香。
未美香の走るスピードに合わせて彼女を追いかける様子はどこからどう見ても完璧な主従関係で結ばれており、ブロッサムは肩を落として農場へ戻って行った。
ひとしきり遊び尽くした未美香。
ウリネも気付けば一緒になって遊んでおり、時間はあっという間に過ぎていた。
「ふぃー! 楽しかったぁ! ケルベロスちゃんも楽しかったかなぁ?」
「わっふ! くぅーん! くぅぅーん!!」
明らかに「楽しかったです!」と言っているケルベロス。
と、ここでウリネが気付いた。
「あっ。そう言えば、クロちゃんにいってきますって言ってなかったー。もしかして、今頃心配してるかなー?」
「お兄は心配性だからねっ! 困っちゃうんだよ! 心配してくれるの、嬉しいけど!」
それでは、農場の様子を見てから、今日の未美香の散歩を締めくくろう。
◆◇◆◇◆◇◆◇
「未美香ぁ!! 未美香、どこだ!? くそっ! 魔王軍!! これがお前たちのやり方かぁぁぁぁぁ!! メゾルバ、ブロッサム! 離せ!! 今すぐ魔王城を粉々に砕いてやる!!」
「お、落ち着かれよ、我が主! 妹君ならば先ほども申したように、元気に散歩をひゅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ」
「どうしてお前はそれを俺に報告しなかった!!」
力の邪神・メゾルバ。
今日も元気に地面に埋まる。
「ブロッサム!! ケルベロスを呼び戻せ!!」
「それが……黒助殿……。吾輩の序列が未美香殿よりも低くなっているでござるよ。つまり、吾輩が呼んでも帰って来ないと思われるでござる……」
黒助は「ああ! もうお前らじゃ話にならん!!」と言って、農場の周りを走り散らかした。
その速度は尋常ではなく、魔王城でユリメケ平原のモニタリングをしていた通信指令・アルゴムは椅子から転げ落ちたと言う。
20分後に未美香が満面の笑みで戻って来たので、農場の入口で崩れ落ちていた黒助は息を吹き返した。
そののち、ブロッサムの肩を叩き、メゾルバを地面から掘り起こし、2人に「なんか、すまんかった」と詫びる黒助であった。
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