家の倉庫が転移装置になったので、女神と四大精霊に農業を仕込んで異世界に大農場を作ろうと思う ~史上最強の農家はメンタルも最強。魔王なんか知らん~
第113話 大魔王・ベザルオール様のよく分かる召喚魔法
第113話 大魔王・ベザルオール様のよく分かる召喚魔法
現世にある某量販店。
幅広い商品を取り扱っており、お菓子から家電までだいたい何でも揃うのが売り。
その量販店の店長をしている男が、近頃不思議な現象に遭遇していた。
名前は
49歳の働き盛りで気立ての良い妻と3人の子宝に恵まれている。
家族のために働く彼は、なんだかどこかの農場の主と似ている気もする。
そんな田中店長が、前述の通り悩んでいた。
「井沢くん。倉庫のチェックの結果はどうだったんだい?」
「それが、店長……。今日もなくなっているものがかなりあります」
ここのところ、倉庫から商品がなくなる事が多い。
食料品とDVDが特になくなるのだが、それ以外にも直近ではビニールプールや浮き輪なども姿を消していた。
「やはり、盗難でしょうか?」
「でも、ちゃんとお代が置いてあるんだよねぇ。今日もあったかい?」
「はい……。とても綺麗な宝石が。でも、店長」
「そうなんだよねぇ。貴金属に詳しい知人に聞いても、こんな宝石はない! って言うんだよねぇ。不思議だよなぁ」
「やっぱり通報した方が良くないですか? 宝石を換金することも出来ない以上、やっぱりこれは盗難ですよ」
「そうだねぇ。うーん。……だけど、悪い人がやってるんじゃない気がするんだよねぇ」
田中店長と井沢チーフは腕を組んだまましばらく話し合ったが、「とりあえず、仕事をしようか」と言ってスタッフルームを後にした。
◆◇◆◇◆◇◆◇
コルティオールのとある山脈。
魔王城では。
「くっくっく。これで『世界名作劇場』は全て見終えた。そこで卿らに問おう。ナンバーワンはどの作品かとな」
ベザルオール様はアルゴムに作らせたシアタールームにて、『ロミオの青い空』を見終えたところである。
かつてワインを注いでいたグラスには氷とファンタグレープが満たされており、それをゴクリとやって「くっくっく」とご満悦の様子。
「ベザルオール様! キャベツ太郎でございます!!」
「くっくっく。ガイルよ」
「はっ! もしやコーンポタージュの気分でございましたか!?」
「くっくっく。コーンポタージュも美味であるが、あれはたくさん食べると奥歯にくっ付くゆえ、歯磨きが必須。よって、今はキャベツ太郎で良い」
「ははっ! それでは、パーティー開けをしても!?」
「くっくっく。良い。スナック菓子はパーティー開けで、皆で摘まむのが一興よ」
アルゴムは「キャベツ太郎も割と歯にくっ付くけど……」と思ったが、マウンテンデューでその言葉は胸の奥に押し流した。
「それにしても、ついに世界名作劇場のDVDが全て揃いましたな! 壮観でございます!!」
「私が軽い気持ちでおススメしたばかりに、ベザルオール様のお時間を費やす事になってしまいました……」
「アルゴム! 何を言っているのかね! 君の通信指令としての手腕が生きた結果ではないかね! 世界名作劇場を見る時間こそ至高!! 確かに、七つの海のティコを見終えた後に旧ムーミンを見るといささか古臭さを感じたが……」
ベザルオールがキャベツ太郎を鷲掴みにしながら言った。
「くっくっく。ガイルよ」
「はっ! なんでございましょうか!!」
「くっくっく。確かに卿の言うように、ティコの後のアンデルセン物語などは適応するまでに数話かかる……。だが、アルゴム!」
「はっ! 申し訳ございません!!」
「くっくっく。何を謝る。感謝するぜ。現世のアニメに出会えたこれまでの全てに」
「はっ、ははっ! それはようございました!!」
魔王城では現世のアニメが大ブームとなっており、ベザルオールは毎日のように召喚魔法を使ってDVDを呼び寄せている。
その対価として、コルティオールでも1番の宝玉『ベイラニオニキス』を惜しげもなく代金代わりに現世へと送る。
『ベイラニオニキス』は、指の爪ほどの大きさのものでも城が建つほどの価値があるとされており、魔族の間では「地位と栄誉のステータス」として扱われている。
「くっくっく。余の召喚魔法の仕組みについては、なぜだか既に説明された気がする。だが、敢えて言っておこう。現世のアニメ1クール分の対価は、どのような宝石でもまかなうことは叶わぬと」
「ははっ! その通りでございます! 『スレイヤーズ』、最高でございます!!」
「ガイル様。ドラゴンがやられる回で大はしゃぎでしたね」
「これもベザルオール様のおかげでございます! まさか、ティコから声優さん繋がりで名作と名作の橋渡しをされるとは!! 敬服いたしました!!」
「くっくっく。余は今、声優さんにファンレターをしたためておる。転送魔法で自宅のポストに届くのはキモいかと思い自重しておったが、もはや我慢ならぬ。この感動を伝えたい」
いつの間にか空になったキャベツ太郎の袋を見て、アルゴムはハッピーターンを用意する。
ガイルは冷凍庫からアイスの実を取って来た。
「そう言えば、世界名作劇場の話でございましたな。つい話が脇道に逸れてしまいました」
「くっくっく。それな。アニメの話をすると、いつの間にか話題が変わってて困る」
「では、アルゴム! 君から言いたまえ!!」
「えっ!? 私からですか!?」
ガイルの無茶振りにアルゴムは怯える。
失言をしようものならば、大魔王の怒りを買うのは必至。
ゆえに、発言も命がけ。必死である。
「ぺ、ペリーヌ物語が、私は……! い、いえ! もちろん、ティコも素晴らしいですが!!」
「くっくっく。アルゴム」
「は、ははっ!」
「くっくっく。いいね。ペリーヌの波乱万丈な生き様はエモい」
「ははっ! 共感頂き、恐縮でございます!!」
「私は小公女セーラが刺さりました!」
「くっくっく。なるほど。悪くない着眼点だが、1つだけ余は許せぬ事がある」
「はっ! お聞かせください!」
「くっくっく。ミンチン先生、ひどくね? よくハイジのロッテンマイヤーさんと比較されるが、余が思うにロッテンマイヤーさんは融通が利かないだけで悪人ではないと思うのだ。対して、ミンチン先生は見ていて胸がキュッとなる。正直、かなりの覚悟を持たないと余はミンチン先生の嫌がらせに心が折れそう」
なお、大魔王ベザルオールは、コルティオールを2000年前から支配する、この世界の王である。
その後も、アニメ談議で沸いた魔王城のシアタールーム。
今日は魔王城も平和であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、現世の某量販店では。
「店長! またDVDが根こそぎなくなっています!」
「じゃあ、宝石も?」
「はい。今回は3つもありました。もう警察に届けましょうよ」
だが、田中店長は首を横に振る。
「いいよ。きっと、直接お店に来られない事情のある人なんだよ。その宝石だって、その人にとっては価値のある物なんだと思う。欠損分は私のポケットマネーで補填しておくからさ」
大魔王ベザルオールの召喚魔法は、現世の優しい田中勝と言う男によって維持されている。
その事は、全知全能のベザルオール様ですら知り得ない事実なのであった。
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