第111話 人手が足りない! ~春日鉄人(ニート)、ついに働く!~

 本日。

 コルティオールの春日大農場では、スイカの出荷が行われる。

 だがタイミングの悪い事に、いやさ農家としては嬉しい悲鳴ではあるのだが、同じ日にトマトの収穫が重なった。


 本来同じシーズンに複数の農作物を育てている場合、状況を見極めて出荷をしてくのがマスト。

 これをしくじると、最悪せっかく育てた作物が廃棄するしかないと言う悲運に襲われる。


 今回バッティングした作物がスイカとトマトと言う、どちらも出荷タイミングが比較的シビアな事も不運の一部だった。


 もちろん、黒助はスケジュール管理を完璧にしていた。

 だが、ウリネの『大地の祝福』の効果が予想よりも大きくなってしまったのだ。


 「だってー! ボク、スイカをいっぱい食べたかったんだよぉー!」とは、ウリネさん反省の弁。

 「なるほど。では仕方がないな」と大岡裁きを見せたのが黒助。


 とりあえず、サツマイモ班と稲作班のオーガとリザードマンたちの半数を連れて来たが、それでも圧倒的な人手不足であった。

 プリン班と加工食品班からは人員を割く事ができない。


 こちらも納品の期日が決まっているからである。


 農家が納期を破るのはギルティ。

 先方は「自然のものですから仕方がありませんよ」と言ってくれるパターンが大半だが、内心では「もうてめーんとこの野菜なんか買わねぇから!!」と思う相手も少なくない。


 特に飲食店や菓子店などが取引先だった場合は、7割程度の確率で関係が拗れる。


「ミアリス。俺は本気を出す時が来たかもしれん」

「どういうこと!? 何するのよ!?」



「お前がくれた、この最強の肉体を今! この時をもって、100パーセントで稼働させる!!」

「嘘でしょ!? クライマックスでもないのに!?」



 「農家のクライマックスは納期なんだ。分かってくれ」と悲し気な顔を見せる黒助。

 ミアリスも「そんな表情見せられたら、止められっこないじゃない!!」とクライマックスを許可しようとしたその時。


 救世主が現れる。



「兄貴! お困りのようだね!! 安心して! 僕に策があるよ!!」

「て、鉄人……!! 来てくれたのか……!!」



 ニートが修羅場にノコノコやって来て何ができるのか。

 そうお思いになるのは間違っていない。


 だが、このニートはハイスペック。

 兄の窮地を救うためならば、「ニート働くべからず」の禁をも破ること厭わず。


 鉄人は手始めに農場の外へ出た。


「この土なら、いいスケルトンが生み出せるよ!!」


 地球に襲来したナッパみたいな事を言い出した鉄人だったが、兄がスーパーヤサイ人なのでそんなに違和感はなかった。


「そぉぉれぃ! 出て来い、健康なスケルトンたち!!」

「「カカカカカカカカカカカカカ!!!」」


 死霊将軍・ヴィネの眷属であるアンデッドモンスターのリッチが、今ではデトックスされて健康な死体として働いている事を思い出していただきたい。

 ならば、同じアンデッドモンスターのスケルトンだって。


「あらー! もう骨の色艶からして健康そのものだね! カルシウムめっちゃ足りてそうで草!! それじゃあ、みんな! 兄貴の手伝いをしよう! 繊細な作業だから、頑張ってね!!」


 鉄人の言うように、今回は緻密な動きが求められる。

 そのため、彼は召喚するスケルトンの数を絞った。



 その数、300体。



 言うまでもないかと思うが、春日鉄人の魔力は四大精霊を飛び越えて、魔王五将軍よりも先のステージへと到達していた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



「スケルトンさんたちが丁寧に仕事をしてくれているですぅ!」

「カカカカカカカカ!!」


 トマト奉行、イルノさんのお墨付きを早速ゲットしたスケルトンお助け隊。

 あのイルノに初見で褒められるとは大したものであり、それは鉄人の遠隔操作が優れている証明でもあった。


「……あのさ。鉄人。聞きたい事あんだけど」

「なに? どうしたの? セルフィちゃんの質問なら、なんでも答えちゃう!!」



「なんでウチは鉄人に膝まくらしてあげてんだし!? 意味分かんねーし!!」

「いやー。だってね、ほら、僕って普段働いてないじゃない? だからさ、こうやって魔力を使うと疲れちゃって! 金髪ギャルの膝まくらがないと、厳しいかなって!!」



 春日鉄人のバトルフォーム。

 それは、ギャルの膝まくらの上であった。


「まあ、いいじゃない。セルフィだってホントに嫌だったらやってないでしょ?」

「なっ、なぁっ!! み、ミアリス様! 何言ってんだし!!」


「それに、魔力を使う時にはリラックスも大切なファクターの1つでしょ? 四大精霊で1番魔力が強いあんたなら分かってるくせに」

「だ、だけど! なんか、こ、こーゆうのは!! いきなりじゃなくて! もっと、タイミングが!!」


「えっ? なに? セルフィちゃん、呼んだ!?」

「うぎゃぁぁぁぁっ! 頭こっちに向けんなし!! へ、変態! 変態、変態!!」


「口では怒りながらも全然手を出してこないギャル、キタコレー!! うひょー! 仕事って、働くって素晴らしいなぁ!!」

「く、くぅぅぅ! こんなん、反則だし!」


「まあまあ、許してよセルフィちゃん! 今度、ブームが去りつつあるのに新しく出来た気骨のあるタピオカミルクティーの専門店に連れて行ってあげるから!」

「ほ、ホントに!? あ、や、……こほん。まあ、鉄人がそこまで言うなら、今日だけ特別にウチも働くし。ま、まあ、農場のピンチはほっとけねーし!」


 ミアリスは思った。

 「セルフィって、ちょろ可愛いわね」と。


 この女神様も結構な勢いでちょろくて可愛いのだが、得てして自分の事は客観視できないのが人間。

 どうもミアリスも本質的な部分は人間と同じようであった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 2つの太陽が山の向こうに沈んでいく。


「みんな! ご苦労だった!! 無事に収穫および出荷作業を終える事ができた!! 今日のお前たちの働きには感謝している! よって、明日からシフト制で3日ずつ休みを取ってくれ! テニスコートとプールも自由に使ってくれて構わん!!」


 黒助がそう言うと、オーガとリザードマンたちから歓声と拍手が巻き起こった。


 母屋に引き上げて来た黒助は、鉄人に頭を下げる。


「助かったぞ。やはり鉄人。お前はすごい人間だ。どこぞの会社で働かせるには惜しい。お前さえ良ければ、ずっとニートをしていてくれ!」

「兄貴! 僕の喜びは兄貴の願いが叶う事だよ! ……僕、来年もニートするよ!!」



 何を言っているのだろうか、この兄弟は。



 こうして、出荷の納期は守られた。

 鉄人は春日大農場で「やっぱり社長の弟はすごいお人やでぇ!」と評価を上げ、黒助から臨時の小遣い3万円が支給され、皆が幸せになった。


 なお、今回もトマトのつまみ食いをしたゴンゴルゲルゲは、イルノの『ホーリースプラッシュ・ジャッジメント』を喰らい、翌日冷たくなっているところをウリネに発見されたのである。

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