第110話 水着回だ! 魔王城!!
コルティオールのとある山脈。
魔王城では、通信指令局長・アルゴムが通信モンスター・モルシモシを使い、女神軍の本陣、つまり春日大農場の偵察を行っていた。
無事に映像を見る事が叶った彼は、すぐに端末を持って謁見の間へと走る。
「失礼いたします! ベザルオール様!! このように慌ただしく駆け込むご無礼をお許しください!!」
「くっくっく。良い。アルゴム。卿がそれほど慌てるとなれば、よほどのことであろう?」
「はっ、ははっ! モルシモシを1日おきに少しずつ女神軍の本陣へと近づけておりましたところ、ついに1匹がその外壁まで到達したよしにございます!!」
これまで謎のベールに包まれていた、女神軍の本陣。
それもそのはず。
送り出した魔王軍の幹部は半分が女神軍に吸収され、もう半分は再起不能となって戻って来ないのだから、知りようがない。
その女神軍の本拠地にカメラ代わりのモンスターが接近した事が既にちょっとした奇跡であった。
「でかしたのだよ、アルゴム! やはり通信司令長官の名は伊達ではなかったのだな!」
「ガイル様……。通信指令局長でございます」
「くっくっく。余は通信指令室長と思っておったわ」
ここに来て、アルゴムの役職が渋滞する。
だが、一大事の前にそのような些末なことで話の腰を折るのは愚行。
「いえ。もう、何でも良いので、お好きなように呼んでください!」
「くっくっく。アルゴム。卿のそういうところ、好き」
アルゴムは「恐悦至極に存じます」と頭を下げて、モルシモシの視覚とモニターをリンクさせた。
そこに映し出されたのは、巨大なプールである。
「……これは。何なのだね? あそこにいるのは、女神。水と土と風の精霊もいる。……ああ! 死霊将軍・ヴィネもいるのだよ!! あいつめ、楽しそうにして……!!」
「察するに、水遊びをするための遊興施設かと思われます」
「遊興施設!? ちょっと待つのだよ。女神軍の本拠地と言う話だったのではなかったのかね?」
「はっ! おっしゃる通りです」
「女神軍は、魔王軍と戦争状態なのにも関わらず、水遊びをしていると?」
「ガイル様のおっしゃること、いちいちごもっともでございます」
アルゴムの操作により、モルシモシの映像はより鮮明になる。
そして、ついに現世から来ている春日一家の黒助抜きをモニターに映そうと言う、まさにその刹那。
大魔王が勅命を下す。
「くっくっく。アルゴムよ。映像を切れ」
「はっ! ……はっ!? お、お言葉ですが、ベザルオール様! モルシモシがここまで接近するのに、15日の時を費やしております! この機会を逃せば、もう次の好機はないかもしれません!!」
「くっくっく。アルゴム。卿の仕事に対する熱意。余は敬服しておる。しかし、熱き想いがゆえに卿は大切な事を忘れておる」
これには狂竜将軍・ガイルも異を唱える。
ベザルオールは魔族の全てを従える偉大なる大魔王。
その意にそぐわぬ事を言おうものなら、即刻罰せられる可能性だって孕んでいる。
だが、アルゴムもガイルも、魔王軍のためにと敢えて自分の主に反論する。
その様子を満足そうに眺めていたベザルオールは、重い口を開いた。
「くっくっく。女の子が極めて薄着をしておる。これは覗き、および盗撮に該当する。余はそういうえっちぃの、良くないと思う」
「はっ、ははぁっ!! ベザルオール様の道徳心の深さを見誤っておりました!! このガイル、いかなる処罰も受ける覚悟でございますれば……!!」
アルゴムは、無言でモルシモシとのリンクを切断した。
頑張ったモルシモシは、野生にかえす事にしたと言う。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、春日大農場では。
「ふぃー! お姉! なんか目の大きなモンスターさん、いなくなったよ!」
「本当ですね! 姿を隠しておいて良かったです!」
春日家の乙女たちが、モルシモシの存在に気付いていた。
「2人とも、そんなに気を付けなくても大丈夫だよ! いざとなったら、僕が身を挺して妹たちを守る構えだったのにさ!!」
「鉄人さんはセルフぃさんとイチャイチャしておいてください」
「鉄人さー。スマホで動画撮りながらそんなこと言っても、全然説得力ないんだよねー」
コルティオールにおける春日鉄人の地位は高い。
が、そこに妹たちが加わると、その地位は一気にストップ安まで暴落する。
「げ、元気出せし! ウチは別に、その、鉄人が撮りたいなら……。撮ればいいんじゃん!? 別に、減るものじゃねーし!!」
ただし、約1名。
既に泥沼と言う名の恋のアリジゴクにハマっている乙女もいる。
「ひょー! セルフィちゃん!! 金髪ポニテスク水ギャルのツンデレキタコレー!! 属性盛り盛り、マシマシで、こりゃあセルフィちゃんフォルダが潤うよー!! あー! いいね! そのほっぺ膨らませた感じ、すごくいい!! ひょー! セクシーだよー!!」
こうして、魔王軍通信指令・アルゴムの仕事は終わった。
ミアリスをはじめ、女神と四大精霊がまるで気付かなかった偵察を見事に見破った春日家。
気付けば春日家の全員が、それぞれの個性で四大精霊を超えようとしていた。
◆◇◆◇◆◇◆◇
再び、魔王城。
「くっくっく。我が召喚に応えよ、異世界の商店。ぬぅんっ」
「お、おお! これがプールなるものですか! ……いささか、先ほどの映像のものとは違っているようにも思えますが」
ベザルオール様。
「魔王城にもプールが欲しい」と思った時が召喚の合図。
現世の量販店に例のごとくコルティオール産の宝石を置き、代わりに倉庫に保管してあったビニールプールを取り寄せていた。
「くっくっく。説明書まで付いておる。異世界の民のサービス、目を見張るものがあるな」
「私が拝読しましょう! ふむ。なるほど。まずはこの平面になっているものに空気を吹き込み、立体化させるようですな!」
なお、いつもの注意書きである。
コルティオールでは言語が統一されているため、魔王軍でも現世の文字を読む事ができるのだ。
「くっくっく。ガイルよ」
「ははっ! 私の『カイザーブレス』をもってすれば、このようなもの一瞬で!!」
バァンと言う音と共に、ビニールプールが弾け散った。
「くっくっく。余は優しくしてね、と言おうと思っておったのだが。卿の行動の方が早かったようであるな」
「も、申し訳ございません!! わ、私は、何と言う事を……!!」
「くっくっく。良い。宝石ならばまだ山のようにある。もう一度召喚すれば良いだけのことよ。あと、ちょっとアルゴム呼んできて。ガイル。卿は応援をせよ」
「はっ、ははっ! 拝承つかまつりましてございます!!」
その後、アルゴムが口でビニールプールを膨らませると言う拷問に近い任務を果たし、魔王城にも無事、プールが誕生した。
「くっくっく。これはこれで良いものである。アルゴム。ガイル。卿らも入るが良い」
「お、恐れながら……! では!! ああ、生ぬるい水が何とも言えませんな!!」
「はぁ、はぁ……。はぁ、はぁ……」
アルゴムは呼吸を未だ乱しながら、心の底から思った。
「もう、女神軍の偵察をしても報告するのは必要最低限にしておこう」と。
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