第109話 水着回だ! 春日大農場!!

 黒助が鉄人になぐさめられながら、桃鉄をプレイし始めた頃。

 ミアリスとイルノが春日家にやって来ていた。


「わー! ミアリスさんとイルノさん!! いらっしゃい!!」

「すみません! 急にお呼びしてしまって!」


 春日家の乙女たちの出迎えに笑顔で応じる女神と水の精霊。

 こんな風に来訪を喜んでくれるのに嫌な顔をする理由を知りたいと彼女たちは思った。


 台所に移動した柚葉と未美香は服を脱ぐ。

 イルノはミアリスによってひん剥かれる。


「み、ミアリス様ぁ! じ、自分で脱ぎますぅ!!」

「ふむふむ。これが水着特集ってヤツなのね。ものすごい種類があるわね。要するに、いつかの試着会みたいに、気になる水着を創造すれば良いのね!」


 ミアリス様、春日家に完璧な順応を見せ始めていた。


「助かります! 水着って選ぶのにどうしても時間が掛かっちゃうので!」

「ねーっ! 明日すぐに水着買いに行って! 日曜日はプールで遊びたいもん!!」


 既にお目当ての水着には付箋で印をつけていた春日家の姉妹。


「それにしても、随分と多いのね。に、よん、はち、12種類もあるじゃない」

「あ、それはミアリスさんとイルノさん! それからウリネさんとセルフィさんの分です! ヴィネさんは普段から水着より露出が多いので、私が選ぶのはおこがましいかなって思いまして!」


「ヤダ! あんたたち、わたしたちの分も水着を選んでくれてたの!?」

「そだよー! ミアリスさんはねー! やっぱり白がいいと思うの! 清楚なフリル付きのビキニ! イルノさんはね! こっちのタンキニ! あんまり肌見せたくないのかなって!」


「未美香ちゃん……! イルノの事をよく分かってくれてて、感動ですぅ!」

「早速みんなで試着してみましょ! 2人はどれにするの?」


「私は、ちょっぴり攻めてみようかなと思いまして……。この、黒のビキニにしようかなと」

「あたしはねっ! この緑のヤツ! 初ビキニなんだよ! ドキドキするーっ!!」


 こうして、春日姉妹と女神たちの試着会は夜遅くまで続いた。

 それが終わる頃には、黒助が桃鉄で20兆の負債を抱えているのだった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 やって来たのは日曜日。

 春日大農場のプールには、色とりどりの水着に着替えた乙女たちが勢揃いしていた。


「兄さん! 見てください! どうですか!?」

「ああ! 実に可愛らしいぞ! 油断すると失神してしまいそうだ!!」


「お兄、お兄! あたしは!? あたし! 初ビキニだよっ!!」

「うむ! 実に健康的で良いな! 緑と言うのも未美香にピッタリだ!!」


「嬉しいです!」

「やたー! お兄に褒められたぞー!!」


 ちなみに、黒助は水着に着替えていない。

 決して全裸で泳ぐわけではなく、彼は普通に今日も仕事をするのである。


 女性陣が抜ける分、やるべき仕事は増えるので当然とも言える。

 だが、水着のお披露目には付き合うと言う無自覚モテ系主人公の鑑。


「く、黒助? どう、かしら。や。どうせあんたの事だから、野菜の方が魅力的に見えるんだろうけどさ」

「何を言っている。ミアリス。お前、意外とスタイルが良いな。俺も男だから、それなりに欲求と言うものはある。その上で言うが、ミアリス。実に魅力的だ」


 もはや説明不要だろうか。

 これから、ミアリス様は準備運動もせずにプールへ転がり落ちます。



「んぁぁぁぁぁぁっ!! もぉぉぉぉぉ!! なんなの! 黒助がわたしの水着で欲情するとかぁぁぁぁ! ご褒美が凄すぎてしんどいんだけどぉぉぉぉぉ!!」



 その後、タンキニ姿のイルノと黄色が基調のパンツビキニスタイルのウリネがやって来た。


「クロちゃん、見てー! ボク泳げないのにさ、水着作ってもらっちゃったー! ミミっちが選んでくれたんだよー! いいでしょー!!」

「イルノもウリネも良く似合っているぞ。プールには腰までの深さしかないものも作っているから、今日はそこで涼をとると良い」


 残るは死霊将軍と風の精霊。

 2人はなかなか出て来ない。


「あ、あたいはいいよ! 着替えはしたけどさ! 似合わないって分かってるから!」

「そんな事言ってないで、おいでよヴィネっちー! ほら、クロちゃん! 連れて来たー!!」


 ヴィネはホルターネックのビキニを着ており、その上からパーカーを羽織っていた。

 今回、ミアリスが最も創造を頑張ったのはこのパーカー。

 ヴィネから発生する腐敗属性を完全に防ぐ事の出来る繊維を新しく創造したのだ。


「ヴィネ。お前」

「な、なんだい!? ハッキリ言ったらいいじゃないか! いつもの方がエロいってね!!」


「いや。普段の恰好も確かに露出は多いが。その姿も充分色っぽいぞ」

「はぁぁぁぁぁぁっ!! ストレートに褒められたぁぁ!! あ、あたいは……!! もう逝っちまうよぉ!!」


「ヴィ、ヴィネっちー!! ヴィネっちが鼻血噴き出して倒れたよー!!」

「そうか。治療を頼むぞ、ウリネ。では、後は任せた。鉄人」


 もちろん、当然のようにブールにやって来ている春日鉄人。

 彼は今回、プールの監視員とライフセーバー役である。

 泳ぎも得意であり、去年の夏は暇に任せて5キロの遠泳に挑戦したほどの実力者。


「何かあったら呼んでくれ。セルフィの姿は見ていないが。まあ、鉄人が見てやった方が喜ぶだろう。では、楽しく遊ぶようにな」

「オッケー! 兄貴、行ってらっしゃい!」


 更衣室から顔だけ出していたセルフィが、くるりと振り返った鉄人にタイミングよく見つかった。


「セルフィちゃん! 僕の持って来た水着、どうだった? ねえ、ねえねえ!」

「ばっ、バカじゃねーの? 確かに、露出少な目のヤツが良いと思ってたけどさ! なんなん、これ!? 絶対特殊なヤツでしょ!? 分かんだからね!? ひゃっ!?」


「観念して出て来なさいよ、セルフィ」

「や、ヤメ! ミアリス様、ひどいし!!」


 セルフィの水着だけは、鉄人の持ち込みである。

 彼はネット通販を駆使して、上質の水着を購入していた。



「ひょー! 金髪巨乳ギャルの旧スクール水着キタコレー!! はいはい! 動かないでー! 写真撮るからねー!! あー! 動いても良いよー! 動画にするからねー!!」

「な、なんなん! マジでキモい! あーキモい!! ホント、なんか変態が好きそうな水着だし! 鉄人が持って来なきゃ、ぜってー着ねーし!! マジさー」



 結局、「鉄人が選んだ」と言う理由のみで、何なら貝殻で出来たビキニですら文句を言いつつ着るのが確定しているセルフィさん。

 お察しの通り、既に彼女は落ちていた。


「ひゃー! 冷たくて気持ちいー! お姉、みんなー! ビーチボールで遊ぼっ!」

「いいですね! ミアリスさんとイルノさんもご一緒に!」


「よーし! 女神の底力を見せてあげるわよ!」

「水の中はイルノのフィールドですぅー」


 ウリネとヴィネは浅いプールへ。


「ヴィネっちー。ボクたちはこっちで遊ぼー!」

「ウリネは良い子だねぇ。あたい、魔王軍辞めて良かったよ!」


 そして、楽しそうなカップルが1組。


「よし! セルフィちゃん! 泳ごう!」

「や。ウチ、泳げねーし」


「キタコレ! なんでもできるギャルが実は泳げないヤツー!! ツボを押さえてるなぁ! じゃあ、僕の腕に掴まって! 引っ張ってあげるから!!」

「は、はぁ!? ……言っとくけど、手ぇ離したら許さないから! 絶対だし!」


 乙女たちのはしゃぐ声を背に、せっせと働く黒助。


 今日も春日大農場は平和であった。

 だが、水着回はまだ終わらない。

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