第108話 異世界にプールを作ろう!!

 コルティオールにて昼食休憩中の黒助。

 隣には女神様。


「む」

「はい。お茶でしょ? 麦茶ならここにあるわよ」


「すまんな。むっ」

「はい。お漬物。辛子高菜でいいのよね」


「ああ。ありがとう。むっ」

「おにぎりもう1個食べるのね。はい。そう思って用意しといたわ」


「ミアリス」

「なによ?」



「お前、俺のところに嫁いでくるか?」

「ほ、ほ、ほぁぁあぁぁぁぁぁぁぁっ!! ヤメてくれる!? 人がおにぎり食べた瞬間にそーゆうサプライズしてくるの!! 窒息するわよ!!」



 黒助は「そうか。では、また機会を改めよう」と言って、3つ目のおにぎりに取り掛かった。

 既にミアリスは黒助の思考パターンと行動パターンを完璧に把握しており、黒助が発する「む」でだいたいの要求を察する領域に到達していた。



 なお、2人の義妹はその領域などとっくに過ぎている。



 農協の岡本さんからお裾分けしてもらった辛子高菜が非常に美味しかったため、黒助は「高菜を作るのも悪くないな……」と考えていた。

 そこで、愛する妹たちから頼みごとをされていた事を思い出す。


 高菜、全然関係ないじゃないか。


「ミアリス。聞くが、コルティオールにプールはあるか?」

「プール? ああ、現世で水遊びする人工の池みたいなヤツね。ないわよ」


「しかし、お前たちの間でも水着はあるのだろう? 田植えの時にセルフィがブルマを見て下着だ、水着だと叫んでいた」

「あんた、やっぱりちゃんと見てるのね。すごいわよ、その観察力。そうねー。水着はあるわよ。水遊びしたりするもの」


「ほう。聞くが、コルティオールの水遊びとは?」

「えっ? 普通にその辺の川とか湖とかに入って泳いだりする感じだけど?」


「だが、この辺りの水源はほとんど魔王軍によって汚染されているだろう? うちの農場の水だって、イルノが管理していなければどうなることか」

「そうね。だから、コルティオールでは水遊びはできないわよ」


 黒助は「そうか」と答えた。

 続けて、彼の合理的思考が答えを瞬く間に算出する。


 妹たちが「今年の梅雨は長くて泳ぎに行けない」と嘆いていた。

 黒助は妹たちが海やプールに出掛ける時は、その日を全休にして同行する。


 ナンパ野郎を見つけたら蹴り飛ばし、カメラ小僧を見つけたらサイバーニート・鉄人にハッキングさせるのが彼の夏の恒例行事の1つ。

 が、前述の通り、現世はもう8月になろうかと言うのに梅雨が明けず毎日のように雨が降っている。


 妹たちは水遊びがしたい。

 黒助は妹たちを過保護な保護下におきたい。


 ならば、結論は出ていた。


「ミアリス。コルティオールにプールを作るぞ」

「うん。分かったわ。じゃあ、準備しなきゃいけないわね」



 既に春日黒助の要求を世界の平和よりも優先し始めている女神様である。



 「ちょっとメンツ集めて来るわね」と言って、パタパタと飛んで行ったミアリス。

 その後ろ姿を見て「あいつ、本当によく気が利くようになったな」と黒助は感心していた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 テニスコートの横にプールを作る事になった春日大農場。

 主要なメンバーはミアリスによって招集されていた。


「お前たちに頼みがある」


「イルノでお役に立てるのなら、喜んで協力しますですぅー。水の事ならお任せですぅ!」

 水源担当、水の精霊・イルノさん。

 今週はトマトの収穫がひと段落ついて、トマト奉行はお休み中。


「要するに、地面を掘りゃいいんすよね? 旦那の指示書は的確だから、お安いご用だぜ!!」

 掘削担当、鬼人将軍・ギリー。

 最近、持病を持っていた母が元気になったので、黒助のためなら何でもする。


「ボクが地面を固めたらいいんだよねー! コンクリートって言うヤツでー! 任せてー!! ボク、泳げないけど水遊び好きなんだー!!」

 塗装担当、土の精霊・ウリネさん。

 現世でスイカが旬の季節を迎えて、つまみ食いを満足にできないのがお気に召さないご様子。


「すまんな。お前たちの抜けている間は、俺がフォローをする。柚葉と未美香が入るプールなのだから、完璧なものを作りたい。もちろん、お前たちの遊興施設としての利用も考えている。それでは、工事を頼むぞ、ミアリス」


「オッケー。任せといて!」

 現場監督、創造の女神・ミアリスさん。

 「創造の力でプール創ればええやん!」と言うツッコミを受ける度に「わたしの創造じゃ無機質でシンプルなものしか作れないのよ!!」と反論するのが今の主な仕事。


 こうして、プロジェクト・ピシナが始まった。

 なお、ピシナとはギリシャ語で「プール」の意味らしい。


 名付けたのは、もちろん我らが知識のニート・鉄人くんである。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 それから4日が経って、プールが完成した。

 これを「さすが、早い!!」と見るか、「このメンツならもっと早くできたやろ!!」と見るかは個人の自由である。


 が、黒助はその結果に大変満足していた。


「こんな感じだけど。どうかしら?」

「ミアリス。やはりお前には女神をやらせておくのは惜しい。俺だけの女神になってくれないか?」


 この後、出来立てのプールにミアリス様が転がり落ちます。



「ひぃやぁあぁぁぁぁぁぁっ!! もう口説き文句が殺しにかかってるんだけど!! エモいが強すぎてもうしんどい!! 日常的に口説いてくるもん、この英雄!!」



 元気よくクロールをするミアリスを見て、「さすがだな。自ら泳ぎ心地を確かめるとは」と黒助の中でミアリスの好感度が3上がった。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 黒助は帰宅後、速やかに妹たちに報告をする。


「柚葉。未美香。雨のせいで退屈な夏休みを過ごしているお前たちに、ささやかながらプレゼントを用意したのだが」


 「コルティオールにプール作った」と言う黒助。


「兄さん、すごいです! 私たちのためにですか!? 感激です!!」

「ねっ! お兄のそーゆうとこ、大好きー!! やたー! 泳げるー!!」


「プライベートプールとか、兄貴もやるなぁ! 準備しないと!!」



「えっ? 鉄人さんも来るんですか? 予定は先に教えておいてくださいね。避けるので」

「鉄人はねー。ちょっとプールには連れて行けないかなー! エロいもん!!」



 だが、鉄人はへこたれない。

 と言うか、春日家に「へこたれる」と言う状態が存在するのか謎である。


 夕食を済ませ、黒助が風呂から上がって来ると妹たちが待ち構えていた。


「お兄! 今ね、ミアリスさんとイルノさん呼んだの!」

「そうなんです! コルティオールに直通の電話を作ってくれたおかげで、すぐに連絡が取れるんですよ!」


「そうか。ミアリスもイルノも、2人に呼ばれたら喜んで来るだろう。どれ、俺は茶でも淹れておくか」


 その善意は妹たちによって遠慮される。

 代わりに、黒助には指令がくだされた。


「兄さんは2階に行っててくださいね! 鉄人さんのところで遊んでいてください!」

「呼ぶまで絶対来ちゃダメだかんねっ! そしたらお兄の事、ちょっと嫌いになるからねーっ!!」


 黒助は無言のまま鉄人の部屋に力なく向かい、彼のベッドに飛び込んでジタバタしながらむせび泣いた。

 賢明な諸君はお分かりかと思われるが、敢えて予告をしておこう。


 この先に待っているのは、水着回である。

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