第106話 熱戦のあとは熱々のピザが美味い
春日黒助一行が大農場に引き上げて来た。
出迎える女神軍の面々。
「ちょっと! 心配したじゃない! なんか急に魔法が使えなくなるし! 大丈夫だったの!? 黒助、怪我してない!?」
もちろん最初に駆け付けるのはミアリス。
何故ならば、妹たちは兄が怪我などしない事を知っているためである。
「すまんな。心配かけた。ミアリスのように可憐な女子がこれほど熱烈な出迎えをしてくれるのならば、たまには魔王軍が攻めて来るのも悪くないな」
いつものアレが入りました。
「うぎゅぅぅぅぅぅぅぅぅ!! なんでそんなにイケメンな表情で言うのよぉぉぉ! セリフだけなら我慢できたのにぃぃぃ!! ああああっ! もう逝っちゃいそうよ!!」
「次はあたいの番だね! 大丈夫さ! もう軽く逝っちまってるからね!!」
その後、ヴィネもいつも通り軽く逝きそうになったのだが、最近彼女は逝きそうになってばかりなのでそのシーンは割愛する。
「兄さん! おかえりなさい!! お仕事お疲れ様です!」
「おかえりっ! お兄! 今日も悪い人をやっつけてきたんだねっ!」
妹たちが両腕にしがみつく。
黒助は幸せそうに微笑む。
「ああ。微力ながら、世界平和のために活動して来た。2人の顔を見ると疲れなど吹っ飛んで行ってしまうな! さあ、昼食にしよう!!」
そこで待ってましたと口を挟むのは、有能なニート。
「実はね、現世からチーズ持って来たんだよね! あと小麦粉も! 岡本さんが用意してくれてさ! これでピザ作ろうよ! ピッツァ!! ね、ピッツァ!!」
「むー。確かに、お弁当だけでは足りませんね。鉄人さんの意見を採用するのにはかなりの抵抗感がありますけどー」
「お姉、いいじゃん! 鉄人だって、年に1回くらいは良い事言うじゃん! 今日がその日なんだよ!」
春日鉄人の意見が妹たちに採用される。
これはまさしく年に一度のサプライズ。
つまり、まだ今年は半分以上残っているのに、その期間は鉄人の意見がまったく採択されない事が決まった瞬間でもあった。
「よし! では、これより春日大農場を上げてピザ作りを始める! ギリーとブロッサムは力自慢を集めてピザ生地を作れ! 岡本さんがレクチャーしてくださる!! イルノはトマトを頼む! あとの者は、貯蔵庫からモンスターの肉を持ってきたり、まあ色々やる事はある! 手が空いた者は近くにいる有識者に指示を乞うように!!」
それから数時間かけて、従業員総出でピザ作りが行われた。
コルティオールになかったチーズをヴィネが気に入り、翌日から乳製品にも手を出すようになるのはここだけの話。
「およ? どうしたの、セルフィちゃん? ピザ嫌いだった?」
「ち、違うし! おいしーじゃん。……つか、鉄人さ。あの時、黒助様が来てくんなかったらさ。どうしてたん?」
あの時と言うのは、茂佐山の魔法が無防備の2人に襲い掛かった瞬間の事である。
鉄人はピザを頬張りながら即答する。
「そりゃ、決まってるじゃない! セルフィちゃんの盾になってたよ? 可愛い女の子を守ってこその男だからね! 自分の大事な人も守れないようなヤツは、ニートやる資格なんてないんだよ! たはー! イケメンなセリフ、キタコレー!!」
「……バカ。そーゆうとこ、マジで反則だし」
何かが落ちたようである。
急遽開かれたピザパーティーは日が暮れるまで行われた。
春日大農場は今日も平和なのであった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
とある山脈。
魔王城の謁見の間に悲しい知らせが届いたのは、春日大農場でピザが焼き上がった時分の事であった。
「べ、ベザルオール様ぁ!!」
「アルゴム。落ち着くのだ。ベザルオール様は先ほど、世界名作劇場『七つの海のティコ』を見終わられて、余韻に浸っておられるのだよ!」
最近は現世のアニメ『世界名作劇場シリーズ』にご執心のベザルオール様。
驚安の殿堂のDVDコーナーにあるものを片っ端から召喚している。
「くっくっく。ティコが子供産むシーン、エモ過ぎん?」
アルゴムは「個人的にはトム・ソーヤの冒険が刺さりましてございます」と言ったのち、報告を行った。
「強欲の邪神・茂佐山安善様が先ほど戻られました」
「も、戻ったと言うのかね!? まさか、異次元の農家と戦った無事に帰って来たと!?」
「い、いえ。無事ではありません。火だるまになって吹き飛んできました。オークの住処に落ちたので、オークが同族と勘違いして今は治療をしております」
「ベザルオール様! お心の内をお教えくださいませ!!」
「くっくっく。全然期待してなかったから、そんなにショックを受けておらぬ。と言うか、ライバーの肩にモルシモシ乗せたのに、農家は映らず仕舞いであったな」
「そうでございますな! うちの裏切り者である力の邪神・メゾルバのハッスルを見ているだけでした! しかも、ライバーがやられたせいで中継も終了しましたし」
彼らは春日黒助どころか、春日鉄人にすら到達する前に偵察が終わった事を残念がった。
何なら、茂佐山が負けて帰って来た事よりもそっちを残念がった。
「そ、それでは、次はどのような者を召喚なさいますか!?」
「くっくっく。もはや召喚には頼らぬ」
ベザルオール様、召喚ガチャやめるってよ。
「それは……つまり……!!」
「ああ。アルゴム。君の考えている通りなのだよ」
「くっくっく。余と卿らが全軍を率いて、女神軍を壊滅させる。もはやここまでやられた以上、これより酷い目には遭うまい。くっくっく」
「それでは、この狂竜将軍・ガイルが部隊の編成を!!」
「くっくっく。任せた。時にアルゴムよ」
「はっ!」
「くっくっく。トム・ソーヤの冒険とやら、持って来るが良い。聞くまでもないと思うが、エモいのだろうな?」
「ははっ! エモエモのエモでございます!!」
ついに動き出す、大魔王ベザルオール。
彼は女神軍との戦いの末、何を見るのか。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、茂佐山安善の元には虚無将軍・ノワールの姿があった。
「まあまあ、無様な姿ですわね。茂佐山さん」
「ふ、ふぎっ! の、ノワールさん! 話が違うじゃないか! 絶対に勝てると言ったのに!!」
ノワールは大きなため息をついた。
「世の中に絶対なんて事はあり得ないのですわ。絶対などと言う者は、預言者のふりをした愚者か、詐欺師のどちらかですわよ」
「そんな! あんまりだ!!」
「あなたも異世界の詐欺師なのですから、もう少しスマートに活躍して欲しかったですわ。でも、もう用はありませんの。最期に役目を務めてもらいますわ」
「な、なにを……! う、うぎゃあぁぁぁぁっ!!」
ノワールは茂佐山の体から魔力を浮き上がらせると、それを体内に取り込み始めた。
茂佐山の表情からはどんどん生気が失われていく。
「……ごちそうさま。あまり良質ではなかったけれど、魔力をまた蓄える事ができました。あとはゆっくりなさるといいですわ。では、さようなら。偽りの神様」
虚無将軍・ノワールが去った後には、廃人と化した茂佐山安善の姿が遺るだけだった。
——第3章、完。
◆◇◆◇◆◇◆◇
拙作にお付き合い下さっている読者様、ごきげんよう。
カクヨムコンも終わり、気ままに書かせて頂いております。作者でございます。
まだ結果は出ておりませんが、結果いかんにかかわらず拙作はきっちりと完結させる予定です!
予定では、次章が最終章になるはずです。
書きたい事も8割くらいは書けましたので、ゆっくりと完結に向かっていければと思っております。
ただ、「自分はプロット通りに書けねぇ作者」だと自認しておりますので、予定が変わる可能性も大いにございます笑
書きたい事もなくなったと思えば増えたりと、優柔不断な動きを見せておりますので笑
いずれにしても、綺麗な形での完結を目指す所存です。
最近はPVもピークを越えまして、拙作の「読者様のお暇潰し」と言うコンセプトも少しばかり怪しくなってまいりましたが、読んでくださる方がいらっしゃる限り最後の一滴までしょうもない汁を絞り出し、拙文を紡いでいく所存です!!
まだ作品フォロー等をしていないぜ! そもそも☆ってなんだぜ!? と言う読者様は、よろしければ作品フォローと☆なんぞを頂けると私のモチベーションに繋がりますので、是非お願いします!
☆は最新話を下の方までスクロールするとございますよ(小声)
明日からも毎日更新!
頑張って参ります!!
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