家の倉庫が転移装置になったので、女神と四大精霊に農業を仕込んで異世界に大農場を作ろうと思う ~史上最強の農家はメンタルも最強。魔王なんか知らん~
第103話 英雄、戦闘開始! ~自分の使っていた魔法が魔法じゃないと気付いた最強の農家~
第103話 英雄、戦闘開始! ~自分の使っていた魔法が魔法じゃないと気付いた最強の農家~
『マジック・キャンセラー』は使用者を除く全ての魔力を封じる事ができる、コルティオールに伝わる秘奥の魔法。
つまり、この魔法が発現している範囲、具体的には茂佐山安善を中心に半径100キロほどの空間では誰も魔法を使うことはできない。
よって、ここからは茂佐山安善の無敵タイム。
いかに最強の農家でも、魔法を封じられてはただの人間である。
「な、何かの間違いだな!! 死ねぇ! 『サイコ・トールハンマー』!!」
「ちょ、ヤバっ! 鉄人ぉ! 黒助様もさすがに死んじゃうし!! 逃げるように言って!!」
セルフィも必死に叫ぶ。
気付けば、彼女にとっても春日大農場は我が家も同然になっており、その家長である春日黒助には敬意を抱いていた。
加えて、彼は春日鉄人の兄である。
セルフィは鉄人の悲しむ顔を見たくなかった。
「あー。平気、平気! 見てて!」
「み、見てらんねーし! こうなったら、ウチが捨て身で!!」
黒助は「それには及ばん。気持ちは嬉しい」と答えて、両手を広げた。
襲い来るのは巨大な雷撃の斧。
「ぐおぉっ!!」
「きーっひひ!! やったぞ! やりましたよ!! ノワールさん、魔王様ぁ!!」
「ビリビリして結構痛いじゃないか! この、バカタレが!!」
「きーっひひ! ひ、ひ、ひ……。あの、あなたはイリュージョニストかなにか?」
触れるだけで猪すらも感電死させるであろう雷撃を抱きしめて、さばおりのようにギュッとやったら、電撃の斧は消え去っていた。
なるほど、茂佐山がイリュージョンを見たのかと思う気持ちも分からないでもない。
「俺の名前は春日黒助。農家だ」
「の、農家がどうして!? 魔力を封じた状態で雷撃を防ぐ事ができるんだぁ!?」
「そうだな。恐らくだが。俺の畑には猪避けの電気柵があってだな。かつて、うっかり触れてしまった事がある。あれには驚いた。バチッとしたからな。多分、あれで俺の体には電気に対する抵抗ができたのではないかと思っている」
「できるわけないだろ! バカなのか、お前ぇぇぇぇ!!」
「バカとはなんだ! このメタボリックシンドロームが!!」
茂佐山は我を取り戻す。
彼は新興宗教を束ねる神。
会話のペースは常に自分が掴んでおかなければならないという基本に立ち返り、軌道修正を試みる。
「……まあ、いいでしょう。電気が効かない理由は分かりました。いや、全然分かりませんけどね。でもまあ、分かった事にします」
「そうか。意外と話が分かるヤツだったか」
茂佐山は両手を広げて、右手と左手に別々の炎を生み出した。
これは火炎魔法の高等術式であり、ゴンゴルゲルゲの火力を1とすると、50に匹敵するレベル。
「燃え尽きろ!! お前の首を持ち返るのは諦めた! 塵も残さない!! あふぅんっ!! 『バーニング・メギドフレイム』!!」
赤い炎と青い炎が渦を巻きながら黒助に襲い掛かった。
その火力は凄まじく、黒助の身を焼き焦がす。
「ぐぁぁっ! な、なんと言う事だ……!!」
「……まだ生きてる。し、しかし! どうやらダメージがあったようだな! 致命的な!!」
「俺のツナギが燃えてしまった……!! しかもお前! 全部燃やす事はないだろうが! せめて、下半身の部分は残せ! マナーのなっていないヤツだな!!」
「……地獄の業火を召喚する高等術式を用いて、結果は農家が全裸になった? は、はは……。意味が分からない」
黒助のツナギが死んだ。
基本的に乳首の部分が破けるだけだったツナギが、今回は耐え切れずにくるぶしから首元に至るまで、全てが焼けて灰と化した。
「ひょー! 普通、バトル漫画とかだと都合よく下半身は焼け残るのに! 兄貴が全裸になったぁ!! これがリアル!! すごいや、兄貴ぃ!!」
「……なんかウチ、ガチめに心配したせいでさ。今、すげー恥ずいんだけど」
ツナギがなくなり、通気性バツグンの全裸になった。
春日黒助のこのバトルフォームをフルモンティと呼ぶ。
のちに春日鉄人がそう名付けたと記録されている。
◆◇◆◇◆◇◆◇
黒助は自分の目の前の空気を握りながら、茂佐山に警告する。
「お前、なかなかに危険人物だな。これまでのヤツらは皆、俺を狙ってきたが。お前は俺の弟と弟の恋人を迷いもなく狙った。これは看過できん」
黒助の後ろでは、彼の逞しい尻を眺めながら鉄人がはしゃいでいた。
「聞いた? セルフィちゃん! 兄貴公認の恋人らしいよ! セルフィちゃん!!」
「や、ヤメろし! 別に、そーゆうんじゃねーし!! まだ恋人らしいこともしてねーし!!」
黒助の尻の後ろで、風の精霊がほぼ完落ちしていた。
「お、お前ぇぇ!! なにをしている!? その妙な動きをヤメろぉぉぉ!!」
「これか? これはな、空気の球を作っているところだ」
「意味の分からない事ばかりを言うなぁ! なんだ、空気の球って!! お風呂に入って洗面器で泡作る、アレしか思いつかない!! 何なんだよ、お前ぇ!!」
「……よし。8つもあれば充分だろう。豚。聞くが、投降する気はないな?」
茂佐山は「はーっはは!!」と笑う。
「まだ、私の圧倒的優位は変わっていないんだ! 魔法を使えるのはこの空間で私だけ! 五将軍だろうが四天王だろうが! 大魔王だろうが! この空間では私に勝てやしないのだ! それが分からんのか、この裸のバカがぁぁぁ!!」
茂佐山が喋っている間に、黒助は野茂英雄を彷彿とさせるダイナミックなフォームの投球モーションに移行していた。
当然だが、茂佐山は何の警戒もしない。
それだけ『マジック・キャンセラー』を信頼している証拠であり、実際のところ空間の魔力は封じられているのでその対応も間違いではない。
「では、喰らうが良い。これが俺の! 『
黒助の投げた空気弾は、ジャイロ回転しながら一直線に茂佐山に向かっていった。
茂佐山も「何かされたらしい」と言う認識はあったらしく、防御魔法を展開する。
「ふひひひっ! 『イージス・バリア』!! この防御魔法は全ての魔力を完全に防ぐ事の出来る、高等術式べすぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅんっ」
『
「これが俺の魔法だ。農家魔法は誰にも縛られん。……縛る事ができるのは、農協だけだ!!」
「ば、ばぁ、バカな……! 魔法は封じてあるはずなのに……!!」
鉄人がもう一度だけ大きな声で啓発した。
「兄貴のそれ、魔法じゃないからね! 物理だから!! 敵さんも理解して!!」
「ぶ、物理……!? 空気を投げたって言うのか!? どういう理屈で!?」
「待ってくれ、鉄人。……俺は魔法を使っていたのではなかったのか?」
同時にショックを受ける、肥えた強欲の邪神と全裸の最強の農家であった。
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