第101話 ニートVS強欲の邪神
ユリメケ平原に強欲の邪神・茂佐山安善が大軍を率いてやって来た。
それを強化した視力で確認した鉄人は、先手を打つ。
「右翼のスケルトンは、そうだなぁ、3割! 前進して、敵さんの注意を引き付けよう! さあ、頑張って! 僕も魔力をたっぷり供給するからね!!」
「カカカカカカカカ!」
骸骨の戦士たちは、不気味に骨を鳴らしながら鉄人の指示に従う。
彼らは自律思考で動いているが、そこに感情があるのかは不明である。
内緒で攻めに来た茂佐山は、スケルトンの出迎えに少しばかり動揺する。
持参した絨毯に飛行魔法をかけて、それを輿代わりしている彼は隣に座る白き牙に確認する。
「あれはどう見ても魔物の類に見えますけど。魔王様の援軍ですか?」
「グルルルル! そのような話は聞いておりませんが。しかし、味方の可能性がある以上いきなり攻撃するべきではないかと」
この判断は大きな誤り。
敵陣近くに陣形を整えた兵がいれば、どんなに親戚っぽい顔をしていても敵である前提で事を運ぶのが定石である。
あるいは、この展開さえも鉄人の策のうちだったのか。
「はいはい! そう来ちゃいますよね! 右翼部隊! 全軍で敵本陣の横っ腹に突撃! 少しでも多くの兵力を削っていきまっしょい!!」
「カカカカカカカカ!!」
虚無の兵士。
つまりはゴーレムたちも鉄人のスケルトン同様、自律思考する機械兵。
だが、茂佐山が「攻撃を待て」と指示しているため、一気にスケルトンの軍団に崩されて行く。
本来ならばゴーレムの方が頑丈さにかけては3段階程度上のモンスターなのだが、そこは鉄人の魔力で差を埋める。
鉄人は動かしている200余りのスケルトンに魔力を集中して与えている。
対して、待機しているスケルトンには必要最低限の魔力のみを供給。
この節約術で、最前線のスケルトンは巨大化して攻撃力を増していた。
「ちょ、ちょちょ! ライバーさん! 普通に攻撃してくるじゃないですか、この骸骨! おかしいでしょう! 責任者はどこですか!?」
「グルルルル! 思い出しました。五将軍が1人、死霊将軍が女神軍に下っております。察するに、その眷属かと。つまり、敵ですな」
「遅いんですよ、言うのが!! あなた、使えませんね!! 虚無の兵士たちよ、そんなカルシウムの足りてなさそうな骨、砕いてしまいなさい!!」
ゴーレムたちがついに反撃を始める。
それまでにスケルトンが削った敵兵力は、約150。
初手としては充分な戦果である。
「じゃあ、次の作戦に行ってみようかー! はい! お願いしまーす!!」
「……あなた、本当に楽しそうに指揮するじゃん。……ちょっと頼りになるところとか、マジでムカつくし」
ニートに9割落ちているセルフィさん。
こっちの戦いはもう何もしなくても鉄人の勝ちである。
「メゾルバさん! 良いとこ見せちゃってください!!」
「くははっ。承知した! 弟君の命は我が君の命と同じこと! この力の邪神の本領を発揮して御覧に入れる!!」
メゾルバが空高く飛び上がった。
ちょうど、ふたつの太陽が真上に差し掛かるお昼前。
太陽を目指したイカロスの如く、メゾルバの姿は見えなくなっていった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
力の邪神はかつて存在した魔王三邪神の中で、最も破壊力に長けていた。
夜の邪神・ブランドールは消滅魔法に特化していたため、破壊力と言う観点から見るとそれは無いに等しい。
魔の邪神・ナータは魔法を使わせれば四大精霊をはるかに上回る力を持っていたが、彼女の戦闘スタイルは使役している軍を使った侵略戦。
よって、自分が先頭に立ち破壊行動をすると言う機会が少なすぎる。
そこで力の邪神・メゾルバである。
普段から黒助にぶん殴られて地面に埋まったり、はるか遠くまでぶっ飛ばされたりしているせいで忘れられがちだが、彼はあの最強の農家と数分ながらやり合った男。
肉弾戦で黒助と短時間とは言え渡り合うなど、並みの事ではない。
その力が今、天空より降り注ぐ。
「くははっ! ぬぅぅぅぅぅっ!! はぁ!! 『マッスル・フォール』!!」
頭の悪い名前だが、超高速で地面に向かって魔力を帯びた邪神本体が飛来すると言う極めて威力の高い攻撃である。
ゴッと鈍い音がしてから、バガガガと爆発音を響かせる。
ゴーレムは密集隊形を取ってた、ゆえにその爆心地に大半が巻き込まれていた。
「あふぅぅぅぅん!? な、なな、なんですかぁ!? 隕石ですか!? ちょっと! 虚無の兵士がむちゃくちゃやられてますよ!!」
「くははっ。お初にお目にかかる。我が名はメゾルバ。我が君の盾であり、我が主の矛でもある。本日は、弟君のドローンである!!」
一撃で300近いゴーレムを塵にしたメゾルバ。
彼はさらに、敵の大将の前に立ちはだかる。
「メゾルバさん! まずは側近っぽいトラさんからお願いします!」
鉄人の送る念話による指示を受けて、メゾルバは「拝承つかまつった」と答える。
「くははっ! 喰らうが良い! 『ボンバーマッスル・タックル!!』」
「グルルルル! 茂佐山殿! この邪神の残党は私が! 貴殿は先に進まれよ! 虚無の兵士はまた生み出せばよろしい!!」
メゾルバと交戦を始めたライバー。
茂佐山も狼狽えつつではあるが、敵の本陣を見定めていた。
彼も新興宗教の教祖として何年も君臨してきたかりそめの神。
その精神力はなかなかのもので、常人ならば心が折れそうな場面もどうにか乗り切り、絨毯を飛ばして鉄人の元へと猛スピードで迫る。
「あ。まずいな。これは困った」
「は? なにが? ちょ、あなたがそーゆうガチめのトーンでまずいとか言うと、なんか焦るんだけど!」
「ちょっと敵さんを挑発し過ぎたみたい! スケルトンは空飛べないからさ! ああやってゴーレムの指揮を破棄してこられると、僕のとこまで障害がまるでないんだよね!」
「ちょ、ヤバいじゃん! どうすんだし!!」
「大丈夫だよ! セルフィちゃんは僕が命に代えても守るからね!!」
「くぅぅぅぅっ!! これがミアリス様の言ってたヤツぅ! 黒助様の弟だからまさかと思ってたけど! やっぱこの人も使えるし!! い、逝っちまいそうだしぃ!!」
戦術と用兵によって勝敗が喫するかと思われた強欲の邪神の侵攻。
だが、事態は思わぬ方向へ。
春日鉄人と茂佐山安善の直接対決が始まろうとしていた。
果たして、鉄人に勝算はあるのか。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、春日大農場では。
「く、黒助ぇ! やっと見つけたよ! あたいの話を聞いておくれ!!」
「どうした。ヴィネ。そんなに息を切らして。せっかく整えたヘアースタイルがボサボサではないか。だが、その姿は初めて見るな。悪くないぞ」
「はぁぁぁっ!! く、くろ、くろしゅけぇ!! あぁーっ!! 逝っちまいそうだねぇ!!」
「そうか。逝くなよ」
その後、ヴィネによって事態が伝わるまでに15分の時を要した。
鉄人は無事なのか。
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