第100話 軍師・春日鉄人(ニート)、準備は盤石!
春日鉄人の準備は着々と進んでいた。
「はい! スケルトン200体! 右翼に展開! さらに奥に100体ほど隠しておいて! 左翼にもスケルトンを! と見せかけてメゾルバさん!! はい、お願いしまーす!!」
信長の野望で鍛えた用兵術がコルティオールで通用するのは、かつて繰り広げられた魔の邪神・ナータとの戦いで証明済み。
しかも、今回は部隊を指揮する訳ではなく、鉄人の意志によって自在に動くスケルトンが彼の手勢。
リモートで操作できる兵士が1000体。
そこに鉄人の悪知恵が加われば、充分な脅威となり得る。
「ヴィネさん! おつかい頼んでも良いですか?」
「分かってるよ! 黒助にこの事を伝えに行くんだろう? なにせ、今回の相手は魔力が異質だからね! 農場にいるミアリスたちはまだ気付いてないかもしれないよ!」
「さっすが頼れるお姉さん! 頼りになるぅ! あと服がエロい!! その胸元の開きっぷりで動き回って、どうしてポロリしないのか教えてくれませんか!?」
「……さすがは黒助の弟だねぇ。戦いを前にしてまったく緊張していないどころか、全然関係ないところに興味を持つところには。そこはかとない黒助みを感じざるを得ないよ! はぁぁぁ! 逝っちまいそうだねぇ!!」
死霊将軍・ヴィネ。
伝令として一時戦線を離脱する。
その前に、風の精霊を激励しようと考えたエロいお姉さん。
セルフィの肩を叩く。
「鉄人の補佐はあんたしかできないからね! 頑張るんだよ!」
「……ウチだって」
「えっ? 何か言ったかい?」
「ウチだって! 胸元、結構スキだらけなんですけど!?」
「あ、ああ。そうだね。……それ、今じゃなきゃダメなヤツかい?」
「つか、ヴィネさんと違って、ウチのはさり気ない感じでチラ見せしてんだけど! 角度によっては見えそうとか、そーゆうのが男って好きだし!!」
「せ、セルフィ!? どうしちまったんだい!?」
「鉄人の興味をエロで引くとか、ちょっとウチ、幻滅したし!!」
「本当にどうしちまったんだい。あんた、四大精霊の中で1番の常識人ポジションだったのにさ」
セルフィさん、何やらジェラシーの炎が燃え上がっているご様子。
それに気付かず、ウキウキでスケルトンを動かしている鉄人。
「と、とりあえず、あたいは農場に戻るからね! ……なんであたいの腕を離さないんだい? セルフィ?」
「ヴィネさん、その服の下、どうなってるし! まさかノーブラ!? そんなんズルいし!! ちょっと見せて! すぐ済むから!!」
「ちょ、あんた! 何がそうまであんたを駆り立てるんだい!?」
「すぐ済むから、動かないでほしいし! パッと見て、サッと戻すし!!」
ご乱行のセルフィさん。
その騒ぎにようやく気付いたのか、鉄人がやって来た。
「セルフィちゃん! セルフィちゃん!!」
「な、なに!? ちょっと今、忙しいんですけど!?」
鉄人は「なるほど、これは良いものです」と言って、セルフィに耳打ちする。
「僕は、ギャルの見せブラがチラッと見えるシチュエーション、好きだなぁ!!」
「………。バカじゃん? あー。キモいんですけどー。そーゆう陰キャの視線とか、マジでなし寄りのなしなんだけどー。もー。マジでー」
春日鉄人、早々に超一流の知略。その片りんを見せ始める。
その後、満足気に「マジでキモいしー」と言って鉄人の周りを飛び回るセルフィを見つめながら、ヴィネは農場に向かった。
「あたいも大概だけど、あの子も結構アレだよ……」と、恋する乙女の異常性について見識を深める死霊将軍であった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
一方。
こちらは未来のハーレム夢見て強欲をたぎらせている茂佐山安善。
白き牙・ライバーと共に、コルティオールの空を駆けていた。
「グルルルル! 茂佐山殿、そろそろ敵の領空に入ります。ノワール様よりお預かりした虚無の歩兵を展開なさるのがよろしいかと思いますが」
「そうですね。ライバーさん、あなたは粗暴そうな見た目なのに、中身はちゃんとしていますねぇ。戦いが終わったら私の右腕として、一緒に現世へ戻りますか?」
茂佐山の脳内では、純金製の未来予想図が描かれる。
まず、魔力を使って美女を自分の虜にする。
そんな魔法はまだ知らないが、手柄を上げればきっと大魔王が教えてくれるだろう。
次に、嫁を200人くらいめとる。
子供は500人くらい欲しい。
集まって来る信者たちには布教活動を熱心に、これまで以上の成果を求める。
これも魔法でどうにかなるだろう。
「いやぁ! はははっ! 魔法使いと言うものは最高ですなぁ! ぐひひひっ!!」
「グルルルル! 茂佐山殿! 妄想もよろしいですが、いい加減に兵士を展開しないと女神軍にバレますぞ」
既にバレている。
「ライバーさん。あなた、私の魔力を恐れずによく強気な意見をしてきますね! なかなか見所があるじゃないですか! よし、私の右腕にしてあげましょう!」
「茂佐山殿! 会話がループしています。グルルルル!」
かつてないほどの小物感を漂わせる茂佐山安善だが、その魔力は比類なきものであり、実力も虚無将軍・ノワールのお墨付き。
彼はようやく虚無の兵士の種を地上にばら撒いた。
続けて「あふぅんっ!」と魔力を込める。
すると、雨後の筍のようにニョキニョキと無機物で構成されたゴーレムが生み出されていく。
その様子は壮観であったが、気合を入れる際の声が不快なのでイマイチ危機感が伝わらないのが残念でならない。
「このくらいでいいでしょう。ねえ、ライバーさん?」
「グルルルル! 600余りですか。これほどの数を1度に生み出されるとは、やはり茂佐山殿の魔力は本物ですな」
奇しくも魔王軍、女神軍共に遠隔操作型の歩兵を配備する形となった。
双方共に命の宿らない軍勢同士。
ならば誰も悲しまない。
気の済むまでやれば良い。
◆◇◆◇◆◇◆◇
春日大農場では。
「この中にトマトをつまみ食いした悪い人がいるですぅ! 今なら怒らないから、正直に申し出るですぅ!!」
スッと手を挙げる男が1人。
その太く逞しい腕は、幾度となく農場に迫る悪の芽に立ち向かって来た。
「す、すまぬ。ワシはトマトの味の虜になってしまったのだ……。だが、4つしか食べてはおらぬぞ! ……いや、8つだったか! てへぺろ!!」
「……またゲルゲさんですぅ。……さあ、あなたの罪を数えるですぅ! 『ホーリースプラッシュ・ジャッジメント』!!」
「ぬわぁあぁぁぁぁぁぁっ!! お、怒らぬと申したではないかぁぁぁぁ!!」
「イルノは怒ってないですぅ! 久しぶりにキレちまっただけですぅ!!」
イルノトマト奉行がゴンゴルゲルゲ盗っ人を裁いていた。
裁かれて捌かれるゴンゴルゲルゲを見て、ミアリスは思った。
「わたし2個食べちゃったけど……。黙っておくわ!」と。
ヴィネによる敵襲の報はまだ届いてはいなかった。
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