第99話 死霊を使役する春日鉄人(ニート)、迫る戦いに備える

 とある山脈。魔王城では。


「ふふ、ふふふっ。私が農家を殺したあかつきには、サキュバスちゃんたちとオールナイトでパーリーさせてもらいますよ? いいですよね? 魔王様?」


 強欲の化身が出撃の準備を整えていた。


 茂佐山安善には虚無将軍・ノワールが一通りの魔法を教えており、一点ものの必殺魔法も伝授していた。

 茂佐山の欲に対する真摯な態度はそのおぞましい魔力を日に日に増幅させていき、ついに五将軍を超える魔力を内包するに至る。


「くっくっく。茂佐山よ。卿は実にシンプルで良い。その強欲の限りを尽くし、コルティオールをより深き混迷で覆い尽くすのだ」

「ふふっ。そんな風に命令していられるのも今のうちかもしれませんよぉ? 私、農家を殺したら魔王城の最上階にナイトプール作りますからね。ふふ、ふひひっ」


 ノワールが茂佐山に向かってエールを送る。


「頑張ってくださいませ。茂佐山様。わたくし、ご武運を祈っておりますわ」

「ノワール先生! ふ、ふふふっ! 先生の教えをしっかりと生かしてきますよ! お土産の首はいくつ欲しいですか? 3つ? 6つ? 9つですか? 欲張りだなぁ!!」


 ノワールと茂佐山のやり取りを冷めた目で見ながら、狂竜将軍・ガイルは随伴する白き牙・ライバーの肩を叩く。


「君も苦労すると思うが。まあ、仕事だと割り切って頑張ってくれたまえよ。結果を出せばそれに応えるのが魔王軍なのだよ。五将軍の席を空けて、帰りを待つのだよ」

「グルルルル! 魔獣将軍の後任が決まっていないようですので、是非とも私にその席を! 行って参ります!!」


 茂佐山とライバーが魔王城から飛び立っていった。

 残された大魔王に、ガイルが尋ねる。


「ベザルオール様。御心の内をお聞かせ願えませんでしょうか?」

「くっくっく。良い。申してみよ、ガイルよ」



「お許しを得て……。鬼窪の時は女神軍を壊滅するのではと期待感がそれなりにあったのですが……。茂佐山からは、その、何と申しましょうか……」

「くっくっく。それな。太ったおっさんが勝つビジョンが見えぬわ。……だが、今は見守ろうではないか。コーラとポテトチップスを持ち、涼しい謁見の間でな」



 今回、ライバーの肩には魔王軍電信モンスターのモルシモシがセットされている。

 ゆえに、戦況をリアルタイムで見る事が可能。


 ついに大魔王ベザルオールが、異次元の農家の姿を確認する時が訪れようとしていた。


「アルゴム! 音響にもこだわりたいのだよ! スピーカーの角度を20度ほど傾けてくれたまえ」

「はっ! こちらでいかがでしょうか? モニターの試験も行います。これが現在のライバーから見えている景色でございます。ベザルオール様」


 玉座に座り、コーラの注がれたグラスを優雅に傾けるベザルオール。

 彼は重々しく言葉を告げる。


「くっくっく。すごい勢いで地面が流れて行くのを見ておると、なんか気持ち悪くなって来た」

「こ、これはご無礼を!! アルゴム! 時が来るまで環境映像か何か、綺麗なものを映しておくのだよ!!」


「はっ、ははっ! では、湖を船が行く映像に切り替えます!!」

「くっくっく。ナイスボート」


 戦いの時は着実に迫っていた。



◆◇◆◇◆◇◆◇



 一方、春日鉄人軍師の動向はと言えば。


「ヴィネさーん! 未来の弟が来ましたよー!!」

「なんだい、鉄人じゃないか。どうしたんだい?」


 猛スピードで農場に戻り、その足でヴィネの家を訪ねていた。

 彼女の住まいを農場に移した事が結果的に功を奏する。


「前にお願いしといたじゃないですか! 僕にも使役できるモンスターくださいって!!」

「セリフの意味が分かんな過ぎて、なんか頭痛くなってきたし……」


「ああ、それならおあつらえ向きなのを用意しといたよ! ちょいと場所を変えるよ! 農場の近くでアンデッド出したら、黒助に怒られるからねぇ!!」

「へーい! なるはやで、おなしゃーす!!」


 鉄人とセルフィ、そしてヴィネは農場から20キロほど離れた場所まで移動する。

 「取り急ぎお願いします!」と言う鉄人に応じて、ヴィネは説明を省き地面に手を当てた。


「出て来な! 意思なき骸の戦士たち!! はぁぁぁっ!!」


 地面から這い出て来たのは、骸骨の戦士。

 片手に剣を、もう片方には盾を持っており、カタカタと不気味な音を立てている。


「うわぁ! キタコレー!! スケルトンじゃないですかー!! いやー! 腐った死体みたいなの出て来たらどうしようかと思ってたけど、さっすがヴィネさん! スケルトン! カッコいいなぁ!!」

「気に入ってくれて嬉しいよ。こいつらには魂が宿っていないからね。こっちで操ってやらないとただのオブジェみたいなもんなのさ。ネクロマンサーじゃなくても、魔力で自在に動かせるよ。2体か3体くらいなら、鉄人でも楽勝さ!」


 鉄人は「なるほどー」と納得して、ヴィネに確認した。


「ヴィネさん。聞きますが。使役できるスケルトンの数に天井ってあります?」

「ちょっと黒助っぽい喋り方に逝っちまいそうだねぇ! いや、魔力が枯渇しない限りは無限に生み出せるけど。そんなこと聞いてどうするんだい?」


 鉄人は「それなら良かったです!」と返事をして、ヴィネから魔石を受け取った。

 ネクロマンサーではない鉄人は、この魔石を通じてスケルトンを生み出すのだ。


「敵さんの数が分からない以上、オールベットが基本でしょー! よし、出て来いスケルトン!! よいしょー!!」


 鉄人の呼びかけに応じて、スケルトンが地面から這い出して来た。

 2体、4体、16体と数は増えて行く。


「……あたいは疲れてんのかい? 四大精霊の魔力でも、スケルトンの制御は100体が限界だよ? 何なら、あたいですら200を超えるとかなり辛いのに……」

「……ウチは今さら驚かないし。けど、なんでこの人が仕事してないのかだけは未だに理解できねーし」



 春日鉄人の生み出したスケルトン。

 その数、約1000体。



「よーし! 全員、バトル漫画の表紙みたいなポーズ取ってみようか! はい!!」


 スケルトンたちは、一糸乱れぬ統率された動きで剣を天上に突き立てる。

 鉄人は満足そうに手を叩いた。


「これ、かなり役に立ちそうですよ! ありがとうございます、ヴィネさん!!」

「えっ、あ、ああ。気にしなくて良いよ? あたいは何を見てるんだろうね? 疲れてんだね。逝っちまってるよ」


 魔力の感知を欠かさない鉄人。

 着実に近づいてくる気配に備えて、彼は急ピッチで準備を進める。


「ヴィネさん。良かったらこのまま戦いの支度に協力してもらえます?」

「た、戦い!? 何の話だい!?」


「セルフィちゃん! 説明よろしく!」

「あー。だるっ。だけど、りょー。ヴィネさん、実はね」


 例によって、兄の露払いを務めるニート。

 その軍勢は風の精霊と死霊将軍。1000体のスケルトン。


「メゾルバさん! 期待してますよ!!」

「くははっ。我は完全に忘れられたのかと思っておったが、さすが弟君よ。なれば、我はこれより貴公の矛となろう」


 力の邪神もやる気満々。

 強欲の邪神とのエンカウントまで、あと20分ほどである。

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